12話:永久の闇への旅路

しかし、まさか『哀しみの神子』のモデルとなった人物の血縁者が目の前にいるのには驚き――

「……貴方は、〈神の血族古代種〉の者でもあったのか?」

《闇空の柩》は〈神の血族古代種〉が作り上げた組織である、と倉世くらせは言っていた。
そして、そのメンバーに倉世くらせはもちろん…鈴亜れいあ殿下や葎名りつな様――つまり、勧誘された人間ひとがメンバーになれるという事だ。
だから、目の前にいる人物真宮人間ひとだと思ってしまったわけである。

思わず口をついてしまった疑問に、真宮まみやは苦笑すると肩をすくめた。

「もちろんそうだよ…まぁ、世代的にはまだまだ若輩者だがね。あぁ、これで君の知りたいだろう事は大体語れたかな?」
「それは、もちろ……」

頷きかけて、ふとある疑問が頭に浮かんだ。
何故…第五妃であった織葉おりは様を救う為とはいえ、世界が傷つくとわかっているものを研究し造りあげようとしたのか――

俺の言葉に、一瞬きょとんとした表情を浮かべた真宮まみやが少し考え込むと答える。

「……あぁ、葎名りつなから聞いたのだね。あれは確かに、世界を傷つけるレベルの代物だ。しかし、外に……いや、あのような事件さえ起こらなければりん国にある【生命樹】で対応できた」

だから、研究の許可をだし…ついでに、零鳴れいめい国の間諜も炙りだそうと考えたそうだ。

走水そうすい、と言ったか……あの男も、薄々は気づいていたようだがね。第六王子派の動きに――最期の時、その件には触れようとしなかったようだが」
「という事は、貴方達が走水そうすい博士を手にかけたのか」

あの時、走水そうすい博士の身分証を投げ渡してきたので…倉世あいつあやめたのだと考えた。
……だが、走水そうすい博士の亡骸を見つけただけだったんだな。

「特に問題なさそうならば助けてもよかったのだが、零鳴あの国にも余計な力をつけさせたくなかったのでね……」

――零鳴れいめい国もまた、めい国と同じく王位継承で不穏な動きがあるのだよ。
真宮まみやはお茶を飲むと、興味なさげにそう言葉を続けた。

つまり、このままいけば…めい国と零鳴れいめい国は再び険悪な関係になりかねないという事だ。
この大陸を二分する両国共に軍事国家なので、そうなるのは火を見るよりも明らかだ。

「…つまり《闇空の柩》は、これから荒れるであろうこの大陸から手を引くという事か?」

このままいけば、争いが起こる可能性は高い…世界が傷つけられる事を何より恐れる《闇空の柩》は、それを阻止しようと考えないのだろうか?
俺の素朴な疑問に、真宮まみやは苦笑した。

「阻止は、するつもりだよ…何処まで可能なのか、それはわからないがね。ただ、めい国で活動できなくなったので表舞台から姿を隠すだけさ。下手な事をして、また邪魔されては困るからな」

…遥か昔、〈神の血族古代種〉の力を兵器利用しようとした人間がいた。
それと同じ考えを、どうやら第六王子派も持っている可能性があるのだという……

「それが証拠に、数年前の実験の邪魔をしてくれてね…異母姉ねえさんの写し身は失うし、伯従父とその従者が『贖罪の儀』をおこなわなければならなくなった。多分、我々の力の真偽を確かめようとしたのだろう……」

まったく忌々しい事だ、と真宮まみやは眉をひそめた。
そして、ため息をひとつついた彼が言葉を続ける……おかげで、倉世くらせは我々の反対を押し切って軍に入ってしまったのだと。

あー…だから、あいつは大切な仲間を守りたいから軍に入ったんだと言ったんだな。

「こちらとしては、めい国の中枢に残っておきたいところなのだが…〈神の血族古代種〉の力を、兵器利用されるわけにいかなくてね」

だからといって、この大陸から完全撤退するのではないと真宮まみやは語った。

彼らがこの国の中枢に残れなくなった責任は、俺にもあるだろう……何の疑いもせず、第六王子派の望む形を叶えようとしたのだから。
何か力になれないものか、と考えたが…俺は倉世くらせのような研究職向きでない。

「その気持ちは、嬉しいのだが――君には君の、これから先の未来…その為に、やるべき事があるのではないかね?それに、君の力になろうと集った者達がいるだろう?」

俺の表情を見て、考えている事を察したのか…真宮まみやが優しい笑みを浮かべながら言う。
……なんだかそれが生徒を諭す教師のようにも見え、勇気づけられた感じがした。

「わかりました…俺は俺にできる事を、仲間達と共にやろうと思う。この国の混乱を最小限に抑える為に――」
「ふふふ、君にならできるかもしれないね。あぁ、そうだ…倉世くらせも言っていたと思うが、落ち着いたらりん国に向かうといい」

りん国の千森ちもりという場所は、死者の思いや願いなどに触れる事ができるのだよ…と続ける。
そういえば、倉世あいつもそんな事を言っていた…最初はどういう意味かわからなかったが、そういう意味で教えてくれたのか。

小さく頷いた俺はだされていたお茶を飲み、あまり時間をとっては彼らの邪魔にしかならないだろうと立ち上がった。
真宮まみやに一礼し、退室しようと扉に向かう……すると、真宮が何か思いだしたように声をかけてきた。

「あぁ、そうだ…君は、倉世くらせの持っていた白いクマのぬいぐるみを持っているかね?」

その言葉に、驚きのあまり立ち止まってしまった。
白いクマのぬいぐるみ…昨日、倉世くらせの部屋から持ち出したものの事を指しているようだ。
その存在ぬいぐるみを、彼は何故知っているのだろうか……?

振り返り、何が訊きたいのかうかがっていると…楽しそうに笑う真宮まみやは、肩をすくめて言葉を続ける。

「その様子だと、ちゃんと持っているようだね。あぁ…別に、それを寄越せと言っているわけではないよ。りん国の千森ちもりに着いた際、それが役に立つ…無くさぬよう持っているといい」
「はぁ…」

よく意味はわからないが、りん国で使う事になるようだ。
ここで詳しく説明できないだけで……もう、そう考える事にした。




七弥ななやという客人が帰り、静まり返った理事長室――この部屋の主である真宮まみやは、思わず苦笑した。

「まったく、十紀ときは……まぁ、あれならば誰も気にも留めないだろうけど」

白いクマのぬいぐるみに秘密があると、誰もぱっと見だけでは判断できないだろう。
案の定……倉世くらせの部屋を捜索されたが、ぬいぐるみだけ取り残されたようだ。

さて、今回《闇空の柩》はどれだけの痛手を負う事となるか……それを考えた真宮まみやは大きくため息をついた。


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