12話:永久の闇への旅路

港から移動する最中、なんとか秘密警察に連絡を入れた――もちろん、港での一件でなく別件についてどうしたらいいのかを伺うつもりで。
連絡先は、倉世くらせの手帳に書かれていたのでそれを利用した。

すると、夢明むめいの西部方向にあるらしい建物に来るよう指定してきたわけだが、港は南部なのでさすがに少々遠い……
しかし、迷っている時間もないので部下のひとりが手配してくれた車に乗って向かった。

数時間後…指定された場所に着くと、そこは3階建ての――まるで、何かの会社事務所のように見える建物があったのだ。
まぁ……表向き何なのかは、この際気にすまい。
どうせ、知ったところで意味はないだろうから……

敷地内に止めた車から降り、建物を見上げていると中から軍服を着た真紅色の髪の青年がひとり出てきた。
興味深げにこちらを観察した後、右手を建物の入り口へ向けて入るよう勧める。

青年に案内されるまま、俺達は周囲をうかがいながら建物の中…2階にある事務所に通された。
室内は落ち着いた雰囲気のある、やはり普通の会社事務所にしか見えず――思わず、何の仕事をしているところなのか訊ねてしまった。

「ぇ…んーっと、ここは雑貨などの輸入を専門とした会社だったかなー」

俺の問いかけに、一瞬きょとんとした表情を浮かべた青年は室内をざっと見回しながら答えた。

詳しく話を訊いてみると、各国で販売されている子供向けの雑貨や玩具の輸入や販売をしており…独自のルートを持っているので、例え主要な港を潰されたとしてもあまり困らないらしい。
この場所は秘密警察を完全に掌握した《闇空の柩》が、もしもの為に用意したのだという。
夕馬ゆうまが秘密警察のトップに就いたと同時期くらいにできたのだろうか…と考えていると、案の定そうだった。

「……それで、何の用で連絡してきたのか聞かせてもらおーか?まー、大体は理矩りく様から聞いてるけど……あ、その前に俺は知治ともはるっていうけど。そっちは?」

俺達にソファーを勧めた青年・知治ともはるは、首をかしげながらマイペースに訊ねてくる。
なるほど…連絡を入れた時、対応したのが理矩りくだったという事か。
で、理矩りくの命令を受けたこの男知治がここで俺達を待っていたんだろう……

それにしても、明るく緊張感ない雰囲気の男だな……調子が狂ってしまいそうだ。
思わずそう考えてしまったが、気を取り直し――代表して俺の名と、此処へ来た目的を告げた。
腕を組んで、うんうんと頷き聞いていた知治ともはるが再び首をかしげる。

「んー、そりゃあ構わないけどさー。ただ、俺達が協力する意味わかんねーんだけど…わかってる?俺達もまずい状況なんだよねー」

今回の件が致命的となった為、《闇空の柩》のメンバーはかなり悪い立場にたたされてしまったらしい。
……確かに、久知河ひさちか達に《闇空の柩》の存在を知られているようだった。
ごたごたしているのはわかっているので、そんな不機嫌そうに睨まないでもらいたい。

とりあえず…俺が学舎の理事長に会う約束をとりつけている事を伝えると、知治ともはるは一瞬目を丸くさせた後に笑みを浮かべた。

「へぇー、それはそれは…よく真宮まみや様が会うと言ってくれたねー」
「いや…どちらかと言えば、一方的に頼んだような感じだがな」

考えてみれば、倉世くらせから会うよう言われ……夕馬ゆうまにその旨を伝えてほしいと頼んだだけなので、相手の反応はまったくわからない。
場合によっては、会う事が叶わないかもしれない……

それを思わずごちると、にやにやと笑みを浮かべる知治ともはるが笑い声をあげた。

「ほぉーほぉー、なかなか面白い事を…まー、多分会ってくれると思うけどー?」

ただ……夕馬ゆうま隊長はげっそりと疲れてそーだけど、と続ける。
……まぁ、色々やる事がある中で伝言を伝えるのだから大変だろう。

「でもさー…あんた、真宮まみや様に何を訊こうと思ってるのさ?」
「……この国にあるという【古代兵器オーパーツ】についてを――」

声を潜め答えると、笑みを浮かべていた知治ともはるはすんと真顔になった。

アレ・・、についてかー…ふーん」

何か嫌な事を思いだしたのか、忌々しげに舌打ちをする。
明るい印象のある相手のただならぬ様子に、過去に一体何があったのかと首をかしげた。

俺達の視線に気づいたのか、知治ともはるはすぐに笑みを戻して口を開く。

「ぁ…いやー、めんごめんご!ちょーっと嫌な事を思いだしてさー。それより、この親子の事は任せてちょーよ」

こちらの頼み事を思い出してくれたのか、知治ともはるは自分達に任せるよう言ってくれた。
この国で最後の、秘密警察としての仕事だから頑張るぞーと笑う。

この、軽い口調はともかく――おそらく、きちんと対応してくれるだろう……知治ともはるが、ではなく夕馬ゆうま理矩りくが。


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