12話:永久の闇への旅路

原因不明の爆発で破壊された夢明むめいの港――その、とある場所……おそらく、元は倉庫のような場所だったのだろう。
天井は崩れ落ちているが辛うじて壁は残っている状態の、その場所で小さな呻き声が聞こえた。

「うぅー…わかっていたとはいえ、酷い目に合ったわ」

崩れ落ちていた天井の瓦礫を押し退けて現れたのは、左右に緑色のメッシュの入った黒髪の青年だ。
彼は着ている軍服についた砂埃をはらいながら、周囲を見回すと笑う。

「事前に安全地帯を調べといて正解だったな、あはははー」

安全地帯、と彼は呼んでいるが天井は落ち……壁だけが辛うじて残っているだけのこの場所を果たしてそう呼んでいいのだろうか?
ただ、彼もその原因を作ったひとりなのだから文句を言うてくところはない。

足元を軽く見回した青年は、すぐ近くに落ちている軍帽を見つけて拾い上げた。

「おーおー…派手に崩れたなーっと、その前に……ん、よし。これでしっくりきたわ。おーい、理矩りく…無事かー?」

軍帽についた砂埃をはたき落とし深く被ると、何処かに向けて呼びかける。
周囲に動く人影は見つけられなかったので、自分の右腕である人物の名を呼んだのだ。

「はい、夕馬ゆうま隊長もご無事で何よりです…」

すぐ背後で聞こえた声に、軍帽を目深に被った青年は一瞬驚いたように目を見開いた。
…だが、その声の主の正体を知っているのでふり返りながら苦笑する。

「何だ、理矩りく…そんな近くにいたんだなー」
「はい…実は、夕馬ゆうま隊長のすぐ上にいました」

理矩りくの言うすぐ上・・・――つまり崩れ落ちた天井裏にいた、という事だろう。
何故、そんな所に身を隠したのか…普通に避難してくればいいものを、と夕馬ゆうまは首をかしげた。
それに一歩間違えれば自分の上に理矩りくが落ちてきたのでは、と気づいて渇いた笑いしかでない。

「お前なー…まぁ、いいわ。それより、塑亜そあ達は引き上げたのか?」
塑亜そあ様なら、杜詠とよみと配下の者達と共に一度研究所の方へ――」

全身についている砂埃を落としながら、理矩りく夕馬ゆうまの問いに答えた。
どうやら、塑亜そあ冬埜とうや達とは一緒に行かなかったようだ……まぁ、後日何らかの工作をしてから出国するつもりだろう。

(あー…という事は白季しらきの件があの人・・・に、早々に知られるよなぁ)

塑亜そあから報告されるだろうと気づいた夕馬ゆうまは、思わず口元をひきつらせた。
まぁ、遅かれ早かれ説教になるのだから変わりはないのだが……

何処か諦めたように首を横にふった夕馬ゆうまは、周囲を警戒する理矩りくに声をかける。

「…なら、こっちはこっちでさっさとやる事やってしまおうか。多分、あの爆発で全部片付いてるだろうけど…生き残りいたらまずいしなー」
「では、私はあちらを見てまいりますので…30分後くらいに落ち合いましょう」

落ち合う場所を決め、2人は別々に行動を開始する――始末し損ねた者が残っていないか確認する為に、理矩りくは飛行艇の発着場を中心とした辺りへ向かった。
足早に向かう理矩りくの後ろ姿を見送った夕馬ゆうまは、彼が向かった方とは反対方面へ足を向ける。

――途中、辛うじて崩れずに残った部屋の前を通りかかった時…室内から扉を叩くような音に気づいた。
ここは何の部屋だったか、と首をかしげる夕馬ゆうまだったがすぐに思い出す……そう、管制室だ。
扉に耳を当て、室内の様子をうかがう…正気か、狂気に堕ちているかを判断する為に。

(……こりゃ、全員無事だな。しばらく放って置いても大丈夫、か?)

とは言え、このまま騒がれたら色々と面倒なのでひと声かけておくかとドアノブに手をかけ――たが、ドアノブは何故か回らない。
一応、非常時システムは全て落ちるのでパス無しで開けられるよう設計されていたはずだが……

不思議に思いながら扉を確認すると、どうやら鍵穴から入れられた何か・・で固められているようだった。
つまり、この扉は簡単に開けられない仕様となってしまったらしい……

少しだけどうするか悩んだ夕馬ゆうまだったが、このまましばらく放置しようと決めたようだ。
どうせ、軍が派遣されれば助けてもらえるだろう……ならば、このままの方が彼らの為かもしれない。
――本音で言えば、別に今すぐ助けなくてもいいか…だったりするが。

気を取り直した夕馬ゆうまは周囲を確認し、その場を静かに立ち去る。
たまに瓦礫の隙間から手足が見えたりしているので、ナイフを片手に近づいて生死を確かめていた……
今のところ、生き残った者は見当たらないのでナイフそれを使わずに済んでいた。

(おぉ…さすが、と言うべきかなぁ。珠雨しゅうの仕掛けた爆発物もののおかげで、後始末が楽だわー)

改めて、ほぼ倒壊している港を見回しながら感心したようにひとつ頷いた。
こうなると、敵はしばらく王都から移動するにも苦労するだろうと笑みを浮かべる。
自分達は別ルートから出るつもりなので、まったくと言っていいほど困らない――だからか、本当に他人事のように考えているのだ。

隣にいつの間にかいる赤い少女の頭を撫でてひと息ついた夕馬ゆうまは、手に持っていたナイフをベルトに差していた鞘に収める。

(…さてさて、綺麗に片付いているようだし――そろそろ理矩りくと合流して、最後のひと仕事に戻りますかー)

しかし、せっかくめい国軍の――秘密警察を苦労して掌握したというのに、その地位を手放さなければいけなくなるのは少し残念だ。
ほとぼりが冷めた後に、再び登りつめても今のような自由が利くとはとても思えない。
それを考えると最早ため息しかでないが、その時に担当するのは別の者達になるので自分は裏で協力する事しかないだろう……

そう考えた夕馬ゆうまは、苦笑しながら軍帽の鍔を上げて宙へ視線を向けた。

(さてさて…理矩りくの方は終わって、ぐぇっ!?)

何処かを調査しているだろう理矩りくの気配を探っていると、背後から突然襟首を引っぱられたのだ。
まったく気配に気づけなかった夕馬ゆうまは、驚きながら襟首を掴んでいる誰かの手を瞬時に振り解いた。
そして、いつでもナイフで反撃できるよう構えながら相手を確認しようと振り返った。

そこに立っていたのは……


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