2話:狂気のはじまり
まぁ…誰もいない通路で練習できるので、良しとするか。
俺が今いる通路の――向かって左側は、一面ガラス張りで外の風景がよく見える。
今は夕方から夜になる頃なのだろうか、夜の闇に染まりつつある夕焼け空がそこに広がっていた。
「…もうすぐ、君の好きな夜空が広がるね」
ぼんやりと外を眺めていると、突然背後から声をかけられた。
確か、この声の主は……――
「…
そう訊ねながら振り返ると、そこには白金色の髪をした青年が微笑みながら立っていた。
「そんなに警戒しなくても大丈夫だよ、
「…突然、後ろから声をかけられれば…誰だって警戒するだろ?」
俺は、苦笑しながら
――そもそも、警戒するように言ってきたのは目の前に立っている
「ふふっ。そういえば、僕が気をつけるように言ったんだったね」
「あ。そういえば、
…まぁ、確かに――通路に、俺だけがいるのは不自然かもしれないよな。
「…実は――」
俺が事の次第を説明すると、
「なるほど…それは大変だね。たった30分でスピーチの練習を……」
挨拶用の台本を手に、驚いている俺の隣に立った。
「…っ、いつの間に」
「ふーん、なるほど…ね」
「……ぁ、あの~…」
また突然、背後から声をかけられた。
背後から声をかけられるのは、これで何度目になるのだろう……
ただ、俺が不注意過ぎるだけなのだろうか?
俺と
……何か用だろうか?
俺が不思議そうに少女を見ていると、彼女も俺の方を見ながら訊ねる。
「もしかして、貴方…
「ん…あぁ」
少女が何故、俺の名前を知っているのか…
それはまったくわからないが、どうやら少女は俺の事を知っているようだ。
何も答えないでいると、少女は心配げにこちらを見つめてくる。
「…君は、誰だい?」
無言の気まずい空気の中、最初に声を発したのは
どうやら、
すると、少女は視線を俺から
「…貴方こそ、誰?大体、人に名前を訊ねる時はそちらが先に名乗るのが礼儀でしょう?」
「へぇー…そう言う自分の事は、棚上げかい?いいご身分だね」
もしかしなくても、この2人は少し相性が悪いのかもしれないな……
気づけば、2人は俺の事を忘れているかのように言い合い始めていた。
「貴方、大体…
「…君の方こそ、
……この会話だけを誰かに聞かれたら、おそらく…いや、間違いなく誤解を生む。
どうして、こうなってしまったのだろうか……
確か、俺は挨拶の練習をする為にひとりでいたというのに――
そう考えると、自然と深いため息をついてしまった。
***
その頃――ラウンジでは、
「…とりあえず、警備だけは厳重にしてくれ」
命じられた男は小さく頷くと、
「…あの方は、本当にすべてを忘れてしまったのでしょうか…?」
「あぁ、本当だ…きれいに、すべてを忘れてしまったらしい……」
腕時計で時間を確認した
「
「…わかりました」
男は少し寂しげに頷くと、諸々の準備をしに戻っていった。
(だいぶ落ち込んでいるようだな…まぁ、仕方ない事だが。状況報告の時間は…だいぶ予定をずらした為か、ずいぶん遅くなってしまったな……)
準備を進めている軍人達を眺めながら、
(…一応、あの方に事が知られないように手配したが……もしかすると、無駄だったかもしれないな)
「……そろそろ、
――この時の
実は、
***