11話:先に行く者と逝く者

「世界に償いをする、という事は世界を崩壊させないようにする作業ものなんだ…その、『贖罪の儀』で絶対に必要なものは〈神の血族古代種〉の血だけ――だから、混血である〈狭間の者〉でもおこなえてな」

――…彼らの協力があれば、人の身でもおこなう事は可能なんだ。

この、俺の言葉に七弥ななやが目を見開いて驚いていた…もしや、俺がただ無責任に終わらせようとしていると思ったのだろうか。
俺は言っただろう…全てが終わった後に贖う覚悟もしている、と――

先ほど、あいつを褒めたが…前言撤回してもいいのでは、と考えてしまったじゃないか。

そんな俺と七弥ななやのやり取りを静かに聞いていた右穂うすいは、くすりと笑いながら準備をはじめた。
…といっても、そんな大掛かりでなく本当に簡単なものだからな。
ただ、七弥ななやに邪魔されなければまったく問題ない――だが、おそらく途中で気づくかもしれない。

俺の傍らで片膝を立てて跪いた右穂うすいが、ナイフを両手で掲げ合図を待っていた……


『贖罪の儀』には、〈神の血族古代種〉の血と対の生命を捧げなければならない。
何についての贖罪か…それは【古代兵器オーパーツ】のひとつである『薬』を玖苑くおんの街に撒いて数多の人を死なせてしまい、意図せず世界に負担をかけた。

そして、世界の怒りを新たに買ってしまった…必然的に、〈神の血族古代種〉に新たな苦痛が与えられるだろう。
彼らは死ねない…身体生命を失っても、同じ存在に生まれ直してしまう――そんな呪いの他に、更なる苦痛を与えるなどできない。

贖罪に必要な〈神の血族古代種〉の血の半分は、すでに捧げられているようなものだ。
あの襲撃で生命を落とした珠雨しゅう先生――彼は〈狭間の者〉だった。

足りないもう半分は…右穂うすいに協力してもらい、完全なものにし――そして、それを以って俺は贖罪をおこなう。


右穂うすいの持つナイフに軽く触れ、目で合図を送る…その間、七弥ななやの注意を引いておくのを忘れないようにして――

「俺は…〈神の血族〉に全てを押しつけ、その罪を忘却した後人こうじんのひとり――贖いの時を共に、世界に贖罪と救いとなる再生を」

俺が誓いの言葉を口遊むように言うと同時に、右穂うすいはナイフの刃部分を強く握った。
床に血が数滴落ちたのを確認して、俺は握られている右穂うすいの左手を開かせ…その傷口から溢れ出る血を口に含んだ。

その一連の行動を見た七弥ななやの表情には、嫌悪感がはっきりと浮かんでいた……
まぁ、いきなり目の前で血を飲む幼馴染みの姿を見せられたらそういう反応になるよな。

傷口に触れられた痛みの所為で少し顔をしかめている右穂うすいは、七弥ななやの様子が理解できないというような表情も浮かべていた。
――いいか、右穂うすい七弥ななやの、あの様子が普通の反応なんだぞ?

口周りについているだろう血を袖で拭った俺は、しかめっ面の七弥ななやに向けて声をかける。

「そんな顔をするなよ…一時的にだが、〈神の血族古代種〉の血を取り込む為にはそうするしかないんだから。あぁ、もし…終わりの先で再会できるのだとしたら、りん国の千森ちもりを訪れるといい。時期が合えば、会えるかもしれない」

学生時代に十紀ときが言っていた……りん国に【古代兵器オーパーツ】のひとつ、死者の『想い』という記憶を取り込む兵器ものがあるのだと。
もしかすると、俺のこの『想い』も拾ってくれるかもしれないしな……

語りながら右穂うすいに頷いて、もう一度合図を送る…彼はナイフを逆手に持つと、こちらのタイミングに合せようと待っていた。
それを確認した俺は銃を手に…この時点で、七弥ななやも俺達が何をしようとしているのか確信が持てたのだろう――瞬時に銃を手にすると、銃口それを俺達に向けた。

「…っ!?」

すぐ傍で発砲音がしたので驚き、七弥ななやの方に目を向けると…あいつの表情は苦痛に歪み、手をおさえながらこちらを睨みつけていた。
傍らにいる右穂うすいを見ると、銃を何時いつ出したのか…素早く七弥ななやの持つ銃を撃って飛ばしたらしい。
さすがだ、と思わず呟くと右穂うすいはにっこりと微笑んだ。

あいつの持っていた銃は少し離れた所に転がっており、素早く取りに向かっても間に合わないだろう……

こちらは睨んでいる七弥あいつを見遣りながら、〈神の血族〉の…最期の誓いを口にする。

「――傷つきし世界に捧げる…我が祈り、我が血、我が生命を癒しの力と代えて。そして、願わくばその怒りを鎮め我らを赦し給え……」

静かに撃鉄を起こし、銃口を自らのこめかみに向ける…これで七弥ななや達の生きる世界場所を守る事はできるだろう。

俺はゆっくりと瞼を閉じる……それと同時に、鋭い痛みが心臓のあたりから感じた。
おそらく、右穂うすいが俺に「我が血を我が主たる倉世くらせ様に捧げ殉ずる」と誓いだて自らの心臓にナイフを立てたのだろう。
――俺が右穂うすいの血を飲んだ事で一時的に〈神の血族古代種〉の力を使えるようになり、主従の契りを交わした状態となっているのだから。

意識が朦朧としているらしい右穂うすいに俺は微笑んで頷くと、何処か遠くで七弥ななやの制止する声を耳にしながらそのまま引き金を引いた。


後の事あれやこれや七弥ななや白季しらき達に押しつける結果になったが、それは許してほしい……『贖罪の儀これだけ』は、俺の手でおこなわなければ意味がなかったのだから……



意識が永遠とわの暗闇に飲み込まれる寸前、右穂うすいの「大丈夫ですよ、きっと…あの方達ならば」という安心させるような優しい声を聞いた気がした。


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