11話:先に行く者と逝く者
今、紫鴉 の影響力で次期王位に一番近いと噂されているのが第二王子殿下なんだ…自分達 の計画を妨げる可能性のある者達は早々に潰したいと考えても不思議じゃない。
それに、多分こちらの動きも知られているだろう……斐歌 殿が早々に気づき、手を打ってくれるといいが――久知河 が軍部を完全に掌握していたとしたら、時間が足りるかどうかの問題でなく手遅れでしかないだろう。
もう、葎名 様と斐歌 殿の2人に殿下方の事は任せるしかない…今ここにいる俺には、何もできないから。
「――もう少し時間はあると思ったが、もう時間切れか。まぁ、それでも保った方か…」
塑亜 先生も言っていたが、俺の身体にはあの『薬』の影響が表れている……
あの襲撃の際、パニックになった被験者のひとりが薬瓶の入った箱をぶん投げ――それを至近距離で浴びてしまったのだ。
元の形からだいぶ改良したもので、正確な解析はまだだった…だから、どういう結果をもたらすのかまったくわからない。
自分の手を眺めながら、思わず苦笑してしまった……もうすでに、手の感覚が無くなってきているのだから。
あー…そういえば、玖苑 研究所で造った『薬』は全て消失し――解析するとしたら、サンプルは俺の身体だけになるが……
これ以上危険を冒させるわけにはいかないので塑亜 先生達には申し訳ないが、そこは諦めていただくしかないだろうな。
――まぁ、資料はあるようだからなんとかなると思う。
そう考えた俺はもしもの為に用意していた手帳をポケットからだして、それを七弥 の足元に向けて放り投げた。
足元に落ちた手帳 に気づき、拾っている七弥 の姿に視線を向けながら話を続ける。
「そこにある程度の内容 は書いている…後は、お前の好きなようにすればいい。もし、〈神の血族 〉について知りたければ学舎の理事長である真宮 を尋ねるといい」
学舎の、今の理事長である真宮 は《闇空の柩》のメンバーでもある…俺の仕える第二王子殿下の教育係を務めていた男だ。
今でも殿下の懐刀として動いているのだが、それはあまり知られていない――なので、おそらくこの国を去るとしても最後だろう。
――だから、七弥 が手帳 の存在を隠したままにすれば会えるだろう……
俺がそう伝えると、あいつは「わかった」と答えて手帳を内ポケットにしまい込んだ。
そして、訝しげに訊ねてきた。
「ところで…お前は、今から何をしようとしている?」
あれほど隠してきた事情を、こうも簡単に語り…あまつさえ、〈神の血族 〉や《闇空の柩》の存在を明かしたりと何が目的なのか――その疑問に答えるよう言っている。
…あぁ、もしかしなくても気づいたか?さすが、幼馴染みだ。
「知っているか…?【古代兵器 】の影響力は、この世界にとって毒のようなものなんだ……」
俺が何を語ろうとしているのか、まったくわかっていない様子の七弥 は眉をしかめたまま黙っている。
――まぁ、最後の話なのだから…そんな表情をせずに聞いてほしいものだ。
だが…時間が惜しいので、そのまま話を続ける。
「その毒素を中和させるには、『贖罪の儀』と呼ばれるものを行 う必要があってな……」
『贖罪の儀』とは、〈神の血族 〉の血を引く者が自らの血と生命を世界に捧げる事で【古代兵器 】で傷ついた世界を一時的に癒す儀式だ。
それを行 わなかった場合どうなるのか…何時 だったか、九條 に訊ねた事があった。
――…やらなかった場合か?簡単だ…天変地異に近い何かが、それもほぼ毎日のように起こる。
…大昔、【古代兵器 】のひとつである【機械仕掛けの神 】の暴走――あれは〈神の血族 〉の犠牲で防がれたが、その後が酷かったそうだ。
世界が苦しみもがくように大地は不定期に揺れ続け、暴風雨・暴風雪は当たり前で気候が狂っていたらしい。
それを止める為なのか、生き残った〈神の血族 〉を狩りたてる状況になったそうで…九條 が、とても怒っていたのをよく覚えている。
あぁ、そうそう…〈神の血族 〉に関するお伽話が史実を元に作られている、という話もこの時に聞いたんだ。
『哀しみの神子』は【機械仕掛けの神 】の暴走で失われた〈神の血族 〉の悲劇を、弟を失ったあの方 の哀しみを描いていた。
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それに、多分こちらの動きも知られているだろう……
もう、
「――もう少し時間はあると思ったが、もう時間切れか。まぁ、それでも保った方か…」
あの襲撃の際、パニックになった被験者のひとりが薬瓶の入った箱をぶん投げ――それを至近距離で浴びてしまったのだ。
元の形からだいぶ改良したもので、正確な解析はまだだった…だから、どういう結果をもたらすのかまったくわからない。
自分の手を眺めながら、思わず苦笑してしまった……もうすでに、手の感覚が無くなってきているのだから。
あー…そういえば、
これ以上危険を冒させるわけにはいかないので
――まぁ、資料はあるようだからなんとかなると思う。
そう考えた俺はもしもの為に用意していた手帳をポケットからだして、それを
足元に落ちた
「そこにある程度の
学舎の、今の理事長である
今でも殿下の懐刀として動いているのだが、それはあまり知られていない――なので、おそらくこの国を去るとしても最後だろう。
――だから、
俺がそう伝えると、あいつは「わかった」と答えて手帳を内ポケットにしまい込んだ。
そして、訝しげに訊ねてきた。
「ところで…お前は、今から何をしようとしている?」
あれほど隠してきた事情を、こうも簡単に語り…あまつさえ、〈
…あぁ、もしかしなくても気づいたか?さすが、幼馴染みだ。
「知っているか…?【
俺が何を語ろうとしているのか、まったくわかっていない様子の
――まぁ、最後の話なのだから…そんな表情をせずに聞いてほしいものだ。
だが…時間が惜しいので、そのまま話を続ける。
「その毒素を中和させるには、『贖罪の儀』と呼ばれるものを
『贖罪の儀』とは、〈
それを
――…やらなかった場合か?簡単だ…天変地異に近い何かが、それもほぼ毎日のように起こる。
…大昔、【
世界が苦しみもがくように大地は不定期に揺れ続け、暴風雨・暴風雪は当たり前で気候が狂っていたらしい。
それを止める為なのか、生き残った〈
あぁ、そうそう…〈
『哀しみの神子』は【
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