11話:先に行く者と逝く者

辿り着いた搭乗橋は、相変わらず壊れていた。
そういえば、どうやって紫麻しあさは渡ってきたのだろうか…と思ったが、先ほど「夕馬ゆうまが待ちくたびれて…」と言っていたのであいつが手を貸したのだろう。

…で、飛行艇内に潜入してから別行動をとる事にしたのだろうが――

「何やっているんだ夕馬ゆうまの奴、迷子になっていたじゃないか…あの子」
「わかりやすいように、地図に道順を書いてあげましたので…今度は迷わず行けるかと」

俺と紫麻しあさが話をしている間に、彼女の持っていた地図を借りて道順を書き込んであげたらしい。
紫麻しあさが無事に辿り着けるか、そこは心配だったが…右穂うすいが対応したのならば、もう迷子にならないだろう。

心配事も無くなったので、気を取り直して――
ここを渡るべきか……それとも、ここで七弥ななやを待つべきかを決めなければならない。

そうこう考えていると、何かに気づいた右穂うすいに小声で呼ばれた。
視線だけで搭乗橋の向こうを指すので、そちらに目を向ける。

倉世くらせ……」

あちらもこちらの存在に気づいたのか、力なく俺の名を呼んだ七弥ななやの姿がそこにはあった……
心なしか、顔色があまり良いとは言えないようだが。

あちらは、おそらく銃を携帯しているはず…もし銃口を、こちらに向けてきた際は右穂うすいに対応を任せた。
俺では咄嗟の行動がとれない可能性もあるからな……

「そんな所にいたのか…探したじゃないか」
「…それは、こちらの台詞だ」

俺がため息をついてから言うと、七弥ななやの方も同じようにため息をついて答えた。
考えてみれば、たった数日での出来事だが…濃厚な出来事ばかりだった気がするな。

――そして、ひとつ思いだしたのでコイツには文句を言ってもいいかもしれない。

「お前の馬鹿力のおかげで、記憶をきれいに失う事になった…どうしてくれるんだ?」

俺の恨み言を聞いた七弥ななやは苦笑して答える。

「…まさか、あれだけで記憶を失うとは思わなくてな」
「少し考えればわかるだろうが……」

コイツの、その言い分に思わず呆れてしまった。



――燃え盛る玖苑くおんの研究所で再会し、同行者だった被験者の男を射殺した七弥ななやと対峙したあの時……
俺も身を護る為に銃を構えるが、意に介していない様子の七弥ななやに何の感情も読めない声音で訊ねられた。

「お前は、一体何を…答えろ!ここで何をおこなっていた?」
「……」

それが答えられる内容ならば答えるのだが、こちらの機密に関わるので話す事はできない。
黙り込んだままの俺の頬を何かがかすり、赤い筋がつけられた。
意識を七弥ななやの方へ戻すと白煙のあがる銃口が、俺の身体から少し外れるように向けられていた。

こう言っては駄目なんだろうが、あいつ短気すぎるだろう……少しくらい思考する時間を待てないのか。

小さくため息をついた俺は、短気で脳筋な・・・・・・七弥ななやをこれ以上怒らせないよう言葉を選んだつもりだったが……

「そういうお前こそ、何をしたんだ…無抵抗な人間に対して――」
「…無抵抗?しらじらしい…お前達が、ここでおこなっていた大体の事は知っている」

七弥ななやはそう言いながら、先ほど射殺した男の亡骸を視線だけで指した。

――…つまり、七弥ななやは本当に知っているのだろう。
ここが玖苑くおん医院を隠れ蓑にした研究所で、何の実験がおこなわれていたのかを。

何処で情報を掴まれたのか…それはわからない。
もしかすると、先生達の言っていた連中がわざと情報を流した可能性もあるが。
それを第六王子の側近である久知河ひさちかが掴んだ、のか…それとも、別口の方か?

どちらにしても、こちらはほぼ無抵抗だったわけなのだが…七弥ななやには、そこのところをまず気づいて欲しかった。
まぁ…あんな奇襲のされ方をしては、碌な抵抗もできなかっただろうがな。

そんな事を考えているのが、顔にでてしまったのだろう…眉をひそめた七弥ななやがこちらを睨みつけながら訊ねてきた。

「――その無抵抗な人間に、お前達の方こそ何をやったのかわかっているのか?」

おそらく、あの実験に使用した被験者達の事を指して言っているのだろう。
わかっている…が、それを主導したのは――だが、そう言ったところで参加していたのだから言い訳にしかならない。

「…必要だからおこなっただけだ。それが罪だというのならば、全てが終わった後に贖う覚悟もしている…」

確かに、罪に問われるだろう事は俺だってわかっている…だが、この世界にはそれよりも大きな罪の証が残っているんだ。
それを償うには、人の力だけでは足りない…それに『彼ら』の力を、これ以上借りる事を世界は赦さないだろう。
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