11話:先に行く者と逝く者
異様な雰囲気漂う夢明 の港、その通路を歩く2つの影――
ひとりは軍帽を深く被っている軍服の青年で、もうひとりは学生服を着た少女だ。
「…そういえば、あの人の件 はどうしたの?」
「んー…あの人の件 ?」
少女の言葉に首をかしげた青年はしばし考え込み、すぐに何を指しているのか気づいて答える。
「あー、走水 の事か…それは始末しておいたぞー」
「は?え…っと、それなら何時 の話でしょうかね?」
その話、初耳なのだが…と首をかしげた少女が訊ねると彼は笑いながら説明をはじめた。
――それは青年が自らの半身ともいえる存在と共に、走水 が保護されている部屋を訪れた時まで遡る……
「――…まったく、とことん甘い奴らだ。私を殺さず行ってしまうとは…」
壁にもたれかかるように座り込む白衣の男…彼はひとり愚痴るように呟いた後、自らの血で汚れた手を眺め考え込んでいた。
致命傷とまではいかないが、怪我を負った左肩と腹部からかなり出血していたのだ。
部屋に備え付けられているチェスト台からタオルを取りだし、一番出血量の多い腹部を止血すると立ち上がった。
そして、ゆっくりとした足取りで部屋を出ようとし…すぐに歩みを止め、息を飲んだ。
「…っ!?」
扉の向こうから現れた人物に目を向けたまま、男は一歩下がると掠れた声で呟いた。
「な、何故…」
「あははは、このまま放置するわけねーだろ?外にいるだろうお前の仲間に連絡されると面倒だし…大体、お前は色々知り過ぎだからなー」
その人物は男に銃口を向けながら答えると、被っていた軍帽の鍔を上げた。
軍帽の鍔が上がった事で顕 になった表情は笑っているようだが、その目はまったく笑っておらず…むしろ、憎しみがこもっていた。
「まー、倉世 を引き入れようと考えたまでは正解だけど…それ以降は何処を勘違いしたのか、ダメ過ぎて笑えた。なぁ、走水 博士」
「…何処を勘違いした、というのかね?私は君達の組織の協力が欲しかった、ただそれだけだ…この流れの何処に、勘違いが存在するというのだ?」
意味がわからないというように首をふった白衣の男・走水 は、おかしそうに笑う軍人の青年に訊ねた。
――倉世 の背後に、〈神の血族 〉と呼ばれる者達がいるのは気づいていた。
…普通に接触しようにも、彼らの警戒心が強く見つけられない。
現に走水 の仲間である研究者達も、彼らに接触しようと試みたようだが…その全て失敗に終わっていた。
走水 が倉世 と〈神の血族 〉との関係に気づいたのは、本当にたまたま偶然起こった出来事がきっかけだった。
その出来事から注意深く倉世 の行動を観察し、確信が持てた頃合いで声をかけたのである。
…それの何処に勘違いするような事柄があるというのか、まったくわからなかった。
「いやいや、そこじゃねーからな」
愉快過ぎて堪らないといった様子の軍人の青年は、銃を左右にふりながら続ける。
「綺乃 に知らせただろ…紫鴉 の正体についてを、匿名でさー。まぁ、だからあっちもお前の正体に気づいたんだろうがな」
あいつ、秘密警察 の情報を探ってたからさぁ…お前らの事もついでに調べたんだろう、と。
その件に関しては、走水 自身もある程度覚悟をしていたのでさほど驚く事ではなかった……
もちろん、例え自分の正体が露見したとしても他の仲間達に害が及ばないよう手配したが。
しかし、その件と己がしたという勘違いとが結び付かない。
傷の痛みと失血のせいで考えがまるでまとまらず、走水 が眉をひそめて内心舌打ちをした。
(…一体何が――そうか、紫鴉 博士の正体が間違っていたという事か。だが、綺乃 は裏付け調査をし間違いないと確認していたはず…)
自分が匿名で綺乃 に知らせた数日後、裏付け調査の報告書が何故か共に潜入していた仲間のひとりの元に贈られてきた――もちろん、その仲間は諸々の安全の為に帰国させたが。
「あれ、まだわからないみたいだね…おかしいなぁ、もしかして頭に血が足りなくて考えがまとまらないのかな?」
軍人の青年や、走水 のものではない第三者の声が聞こえてきた。
それも、軍人の青年の背後から。
その声の主を知る軍人の青年が、少し呆れたように声をかけた。
「おいおい、白季 …片付けるまで、それにくるまってろと言っただろー?」
「あはは、夕馬 の手だけを汚させるのは嫌だったんだ…それより、もう正解を教えてあげたら?どうせ、そろそろ潮時だし」
軍人の青年・夕馬 の背後から現れたのは、黒い布を羽織った白金色の髪の青年・白季 だ。
彼はにっこりと微笑みながら、夕馬 に答えを教えるよう促した。
仕方がない、というように頷いた夕馬 が走水 へ視線を戻して口を開く。
「うーん、そうだなー…お前や綺乃 は自分達の目的を、紫鴉 ――つまり、珠雨 に知られたと気づいたんだろ?こっちも珠雨 から報告が上がったから知っていたんだがな」
「あぁ、そうだ。だから珠雨 教授を調べたのだ…私達も命懸け――失敗は許されぬ立場だ。故に、計画の邪魔になるであろう珠雨 教授が紫鴉 であると知らせ、冥国内 で対応してもらおうと考えたのだが……」
自分も綺乃 も、彼らの手のひらの上で踊っていただけだったのか…と、走水 は苦笑するしかなかった。
ひとりは軍帽を深く被っている軍服の青年で、もうひとりは学生服を着た少女だ。
「…そういえば、
「んー…
少女の言葉に首をかしげた青年はしばし考え込み、すぐに何を指しているのか気づいて答える。
「あー、
「は?え…っと、それなら
その話、初耳なのだが…と首をかしげた少女が訊ねると彼は笑いながら説明をはじめた。
――それは青年が自らの半身ともいえる存在と共に、
「――…まったく、とことん甘い奴らだ。私を殺さず行ってしまうとは…」
壁にもたれかかるように座り込む白衣の男…彼はひとり愚痴るように呟いた後、自らの血で汚れた手を眺め考え込んでいた。
致命傷とまではいかないが、怪我を負った左肩と腹部からかなり出血していたのだ。
部屋に備え付けられているチェスト台からタオルを取りだし、一番出血量の多い腹部を止血すると立ち上がった。
そして、ゆっくりとした足取りで部屋を出ようとし…すぐに歩みを止め、息を飲んだ。
「…っ!?」
扉の向こうから現れた人物に目を向けたまま、男は一歩下がると掠れた声で呟いた。
「な、何故…」
「あははは、このまま放置するわけねーだろ?外にいるだろうお前の仲間に連絡されると面倒だし…大体、お前は色々知り過ぎだからなー」
その人物は男に銃口を向けながら答えると、被っていた軍帽の鍔を上げた。
軍帽の鍔が上がった事で
「まー、
「…何処を勘違いした、というのかね?私は君達の組織の協力が欲しかった、ただそれだけだ…この流れの何処に、勘違いが存在するというのだ?」
意味がわからないというように首をふった白衣の男・
――
…普通に接触しようにも、彼らの警戒心が強く見つけられない。
現に
その出来事から注意深く
…それの何処に勘違いするような事柄があるというのか、まったくわからなかった。
「いやいや、そこじゃねーからな」
愉快過ぎて堪らないといった様子の軍人の青年は、銃を左右にふりながら続ける。
「
あいつ、
その件に関しては、
もちろん、例え自分の正体が露見したとしても他の仲間達に害が及ばないよう手配したが。
しかし、その件と己がしたという勘違いとが結び付かない。
傷の痛みと失血のせいで考えがまるでまとまらず、
(…一体何が――そうか、
自分が匿名で
「あれ、まだわからないみたいだね…おかしいなぁ、もしかして頭に血が足りなくて考えがまとまらないのかな?」
軍人の青年や、
それも、軍人の青年の背後から。
その声の主を知る軍人の青年が、少し呆れたように声をかけた。
「おいおい、
「あはは、
軍人の青年・
彼はにっこりと微笑みながら、
仕方がない、というように頷いた
「うーん、そうだなー…お前や
「あぁ、そうだ。だから
自分も