2話:狂気のはじまり

「…結局、まともに練習しきらなかった……」

うなだれた俺は、思わず呟いてしまった。
この呟きを、聞き逃さなかったらしい七弥ななやが歩みを止める。


…俺と七弥ななやは今、生き残った人々が集まっているらしいラウンジへと向かっている途中だ。


――結局、練習時間がまったく足りず……手探り状態のまま、挨拶する事となってしまった。

あー、考えるだけで胃が痛い……

こちらを振り返った七弥ななやは「あぁ、やっぱりか」と言いたげな顔をしていた。
今…コイツを殴ったとしても、誰も文句を言わないだろう……きっと。

「…倉世くらせ、言い間違えてもいいが――」

真面目な顔をした七弥ななやが、言葉を続ける。

「絶対に、初めて知ったような表情だけはするなよ。こちらの信用にかかわるからな…」

七弥ななやがこのように言った理由わけは、先ほど渡されたものにある……
少し状況が変わった、と言って七弥ななやに新しい台本を渡されたのだ。
実を言うと…時間がないという理由で、まだそれを読む事ができていない――

「…だったら、お前が代わりにしたらどうだ?」

憂鬱な気分の俺は、恨みがましく七弥ななやを見た。

「間違いなく、俺は驚くぞ…自信がある」
「…そっちで自信を持たれてもな」

少し呆れた七弥ななやは、しばらく考え込んだ後に俺の肩をたたく。

「…わかった。ここで、30分だけやる…すぐに練習をしろ」
「さ、30分だけ…か」

俺が嫌そうな表情を浮かべているのに気づきながら、それを無視する七弥ななや
これには…少しだけ、腹が立つな。


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