10話:贖罪の行方

管制室に辿り着いた塑亜そあ杜詠とよみは、塑亜そあの持つ鍵を使って室内へ入った。
話し合いなり、殴り合いなりをする羽目になるだろう…と予想していた2人の目に映ったのは、管制の責任者を含めた数人が倒れている状況だった。
ここにいる者達も、ある程度護身術を心得ていたと思うのだが……

ただひとり無事なのは、味方の男性管制官だけ…そして、その男は無傷で塑亜そあに向けてピースをしていたりする。

状況が状況なだけに、何も言えないでいる塑亜そあ杜詠とよみに彼は声をかけてきた。

「とても話し合いできる空気じゃなかったので、沈めておきました!」
「…あぁ、そうか。うん、ご苦労…」

やってやりました、という雰囲気の彼に塑亜そあがひとつ頷いてから労いの言葉をかける。

改めて倒れている管制官達を観察し、彼らを一撃で沈めている事に気づいた塑亜そあは彼の配置場所を夕馬ゆうまが間違えたのではないかと一瞬考えてしまった。
手足を縛っていないので、目が覚めたら厄介なのでは…と考えたが、おそらく彼が再び沈めるのだろう。
ならば、余計な指示をださなくても大丈夫かもしれないな…と、考え直した塑亜そあは管制官の勧める椅子に座った。

それと同時に、通信機から受信音が聞こえてきた。
……おそらく、冬埜とうや達が近くまで来たのだろう。

「着いたか?」

通信機の向こうから答えたのは、幼さの残る少女だった。

『――あぁ、うん…冬埜とうやが、管制を抑えたのか訊いてるよ』
「それは大丈夫だ…今、その管制にいる。そちらの船を一度、別名義で記録させて時間差で消す予定だ…一応〈隠者の船〉の3つ隣の、一番に入れてくれ」
『――わかったー…え、うん。冬埜とうやがね、着いたらそっち行くから場所を教えてほしいって』
「場所か?そうだな…船から出て真っ直ぐ行けばいい、と伝えてくれ」
『――はぁ?真っ直ぐ…わかった、また後で…うん』

通信機の向こうにいる少女は、渋々納得した様子で了承の旨を伝えて通信を切った。
そして、機器を操作して記録を書き換えた塑亜そあが後ろに立つ杜詠とよみに指示をだす。

「すまないが、代わりに記録削除の設定をしてもらえないか?俺はこれから…先ほど聞いてたとおり冬埜とうやを迎えに行かないといけなくてな…」
「わかりました。それを終えてから、先ほどの場所に戻ります…を連れて」

頷いて答えた杜詠とよみは、ひとりで管制ここを制圧した管制官に視線を向けた。
「護衛は任せろ!」といった様子の管制官に、納得したように頷いた塑亜そあ杜詠とよみに声をかける。

「あぁ、そうしてもらえると助かる…その頃には、ここの管制官達も目を覚ましているだろうからな」

記録に仕掛けさえしておけば、ここの管制官達が目を覚ましたところで何もできないだろう。
来訪者の迎えに向かう塑亜そあを見送った杜詠とよみは、椅子に座り機器を操作し始める。

短時間でプログラムを組み上げ、それを適応させている杜詠とよみに味方である管制官が声をかけた。

「んー…そういえば、あんた見ない顔というか――何?塑亜そあ様の味方なわけ?何時から?」
「まぁ、何時から…というのに答えると、本日からだな。誓いも正式ではないがたてた…信用できないかもしれないが」
「いや~、信じるわ。塑亜そあ様があんたに指示してたし。正式でなくても、あんたが誓いを口にしたのは…俺も一応〈狭間の者〉だから、それくらいはわかる」
「信用してもらえたようでよかった…もうじき終わるので、彼らが起きないか見ておいてくれ」
「ん、りょーかい!」

手をひらひらさせた管制官は、倒れている仮の仕事仲間達を見下ろすように視線を向ける。
そして、いつでも動けるように腰を左右に捻ったり…足を広げて筋を伸ばしたりして準備運動をはじめた。

おそらく、待っているだけというのが暇だったのだろう……

ある程度ストレッチをし終えたらしい彼は「あっ」と声を上げると、作業中の杜詠とよみに声をかけた。

「そーだった…そういや、あんたの名前って何?ちなみに、俺は知治ともはるっていうけど」
「私は杜詠とよみだ。これからよろしく頼む、知治ともはる

杜詠とよみが作業している手を止めず、ちらりと視線だけを管制官・知治ともはるに向けて名乗ると知治ともはるはにっこりと嬉しそうに頷く。

そして、しばらくの間2人は会話らしい会話をせず…お互いに自らが任された任務を全うし、管制室を出ていった。

2人が去ってしばらく後、気を失っていた管制官達は目を覚ました。
そして、仲間のひとりが裏切った事実を思いだした責任者は外へ連絡を入れようとする。
だが、管制室の電話などの通信機器のすべてが破壊されており叶わなかった。

ならば、誰か行かせようとするが扉は何故か開かない。
どうやら、内側の鍵は壊された上で外から鍵をかけられているようだ――つまり、彼らは管制室に閉じ込められた状態である。

なんとかして外に連絡を入れようと右往左往している彼らは、この時まったく気づいていなかった。
港に新たな飛行艇が入ってきた事を、その記録が少ししたら消えてしまい……そこが『故障中につき使用不可』に変わってしまう事を。
例え気づけたとしても、閉じ込められている彼らにはどうする事もできないのだから……



足早に急ぐ杜詠とよみ知治ともはるは、理矩りく達のいる場所近くまでやって来ていた。
ふと歩みを止めた杜詠とよみは、一歩前を歩く知治ともはるに気になった事を訊ねる。

「管制室を出る時なんだが、鍵穴に一体何を入れたんだ?」
「あー、あれ?珠雨しゅうせんせーに、昔貰った特製の接着剤でーす!何かの時にそれを鍵穴とかに入れるといい、と教えてもらったんだよねー」

楽しそうに笑っている知治ともはるの様子に、一体どんな性能を持つ接着剤なのだろうか…と、杜詠とよみは考えを巡らせた。
杜詠とよみも、珠雨しゅう教授が色々と不可思議なものを作っているのは知っていた。
――だからこそ、少し気になったのだが…きっとそれらについて深く考えてはダメなのだろう。


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