10話:贖罪の行方

だから、琴音ことねは言っていたんだ。

『あなた達が犯した罪を――そして、私達の事を』

あなた達が犯した罪・・・・・・・・・というのは、世界の半分を破壊した先人達のおこないを指している。
私達の事・・・・というのが、つまり〈神の血族〉――

そう考えた瞬間、たくさんの記憶が流れ込んでくるような感覚に陥った。
…おそらく、失われていた記憶ものだろう。



――そう、あれは玖苑の…あの研究所が襲われた時の記憶ものだ。

あの日、研究所に併設されている医院内で異変が起こってしまった。
どういうわけか、離れた病室にいた入院患者まで『あの薬』の影響を受けてしまい…それに対応していたんだ。

最初は、別々の病室にいた数人だけだった…だから、地下の実験室のひとつにまとめて隔離していた。
だが、どういうわけか少しずつ影響を受けた者が1時間毎に増えていき……

何度調べても薬が漏れ出た痕跡は見つからない…という事は、誰かが医院内の患者をランダムに選んで投与しているとしか思えない状況だった。
まさか、走水そうすい綺乃あやの達が持ち出していたとは…この時点では誰も考えていなかったが。

原因究明の為に実験を一時休止させた半日後、あいつらが襲撃してきたんだ。
まさか、七弥ななやまでもが来ているとは思いもしなかった……

襲撃で研究所の警護にあたっていた者達が次々と斃され、ついには地下にある研究所の場所まで侵入を許してしまったのだ。
それが、今俺達のいる隠し部屋にあるパソコンで見た――あの襲撃映像に繋がる。

珠雨しゅう先生は生命をかけて、白季しらきを護り亡くなったのだ。
そして、その少し後に俺は白季しらきと合流した。
この時、右穂うすいに周囲を探るよう命じ別行動をしていて俺だけが白季しらきと合流する事となった。

炎が放たれた所内をなんとか脱出する為に行動している最中、道に迷っている様子の被験者である男2人と会う。
混乱している2人を落ち着かせながら、施設脱出を目指していたのだが火の手は思ったより早かった。
その上、追手の数も相当で俺達の行く手を阻もうと銃撃までしてくる状況だった。
だが、それは俺達の生命を狙うようなものではなく……足止めしようという意図が働いているようで気味悪く感じた。

――まぁ、狙いは彼ら・・だったのだろうが。

なんとか身を潜められそうな、狭い場所に4人で隠れる事でようやく追手を撒くのに成功した。
このまま4人で行動するのはリスクしかない…だから、二手に分かれて行動する事にしたんだ。

俺は被験者ひとりと出口を目指したので、白季しらきともうひとりの被験者がどのような行動をとっていたのかはわからない。
だが、何かがあって被験者が亡くなった……そして、その後おそらく夕馬ゆうまが助けに現れたのだろう。
それを目撃したわけではないので、想像でしかないが……

その頃、俺は被験者を連れて非常口まで辿り着いていた。
火の手はすぐそばまできていたせいで、被験者が俺を押し退けて非常口に走り……そして、外に出た瞬間誰かに銃撃された。

何が起こったのか、一瞬わからなかった…だが、気がつけば俺と行動を共にしていた被験者の男は頭から血を流して倒れていたのだ。
すでに息がないのは遠目からでもわかる……のだが、誰が狙撃してきたのか理解できなかった。

…恐る恐る扉の影から外の様子をうかがってみると、白煙をあげる銃を構えている七弥ななやの姿がそこにあった。
まさか、幼馴染との再会がこのような場面になろうとは…この時、苦笑するしかできなかったな。

そして、俺達は――



俺の様子で全てを思い出せた事に気づいたのだろう…白季しらき夕馬ゆうま、そして右穂うすいは安堵したように息をついた気配を感じた。
頭の中にあった靄みたいなものがなくなり、俺自身も内心安堵していた。

とりあえず…ふと先ほど訊ねようと思った事を、夕馬ゆうまに訊いてみる。

「……お前達2人が、走水そうすいを始末したのか?」
「あぁ、走水博士あいつも間諜だっただろ…零鳴れいめい国に行ってる冬埜とうやから情報を貰っていたからな」

誰が間諜なのかまではわからないので、一応警戒するよう言われていたのだという。
他国からのはもちろん、自国の他派閥からのもいたからな…

「そうだったのか、もしかしてだが…『あの機密』にも気づかれてたか」

静かに頷いた夕馬ゆうまに、俺は思わず大きくため息をついてしまった。
冬埜とうやがいる零鳴れいめい国でも何やら怪しい動きがあるという話は聞いていた…が、まるでこの国の裏の動きに合わせたかのようだな。

それにしても、走水そうすいが身分証を持っていてくれて助かった…
まぁ、事件後しばらくしてこの国を離れるつもりだったのだろうが――

一応、走水そうすい零鳴れいめい国籍の身分証を持っていた事を夕馬ゆうまに伝えておいた。
夕馬ゆうまから上へ報告してもらえれば、と思ってな…手に入れた身分証これは、まだ必要なので渡せないが。
それも含めて説明すると、夕馬ゆうまは「別に構わない」とだけ答えて笑った。
多分、冬埜とうや達が別の証拠を見つけているだろう……でなければ、夕馬ゆうま達に警戒するように言わないだろう。
走水そうすいひとり警戒したところで、間諜がいなくなるわけじゃないしな。

別の事に意識が向いていたからか……
それとも、誰にも悟られないよう気配を消していたからなのか……
その時、考え込んで俯いていた俺や右穂うすいは気づかなかった。
――白季しらきが床に落としていた銃をもう一度手にした事に。

白季しらき…」

夕馬ゆうまの声で、初めて白季しらきが銃を手に持ってこちらに向けた事に気づいた。
一体何をするつもりなのか、判断できずにいる俺に白季しらきはにっこりと笑みを浮かべる。

「うん…しっかり思いだしたようだし、今度は忘れないように気をつけないと。ね、倉世くらせ

そう言うと、白季しらきはこちらに向けていた銃口を自分の頭の…丁度こめかみ辺りに向けた。

白季しらき、何をするつもりだ!?」
「何って……僕が付いていながら君に誓いを忘れさせてしまった上、玖苑に住む数多の生命を失わせて世界に新たな傷を負わせた償いだよ」

俺の言葉に答えた白季しらきは俺が銃を取りだす間に撃鉄を起こし、引き金に手をかけ――

「やめろっ!!」

その時、ひとつの銃声が響いた……


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