9話:断罪の刃

(この声って…確か、七弥ななやっていう軍人さん?それと、えーっと…あの時、倉世くらせさんを犯人だと言った希衣沙きいさっていう軍人さんかしら?)



「――『連中の目を俺へ向けさせる為』だとお前は言ったが、それは何者なんだ?」
「……」

七弥ななやに訊ねられ、舌打ちをした希衣沙きいさがゆっくりと口を開いた。

「…それが誰かまでは知らない。綺乃あやのは何も言わなかったので…しかし、それは貴方のよく知る人物が知っていると思いますよ」
「どういう意味だ、それは?」

誰の事を指して言っているのかわからずにいる七弥ななやに、希衣沙きいさがため息をついて答える。

「本人に確認すればいい、まったく。手に入れようとしたはずが、逆にいい様にされ…せめて後々邪魔になるだろう貴方を始末できれば御の字だ、と考えたんですがね」
「それは残念だったな…だが、お前も利用されたんだ。これ以上、抵抗しなければ生命だけは……」
「…無理ですよ」

少し顔色を悪くさせた希衣沙きいさが、首を横にふると言葉を続けた。

「先ほど言ったでしょう…逆に、いい様にされたと。っ、まったく……何がある意味毒だ」
「毒…?おい、一体何があった?」

七弥ななやの疑問に答えず、ぼんやりと先ほど会っていたある青年達の会話を希衣沙きいさは思い出していた。



『――いつだったか、珠雨しゅう達が再現したものらしいんだけどねぇ。
なんでも、今は亡き国の研究者達が作った…ざっくり言うと自我だけを殺して人形のように変える・・・・・・・・・・・・・・・・・効果のある兵器みたいなものなんだって。
これを敵国の水源とかに仕込む事で自分達に有利な状況を作っていた、という話だよ。
わかりやすく説明すると、玖苑くおんでまかれたアレの原形だとか…確か、九條くじょう冬埜とうやが話してたっけ?あまり覚えてないけど…まぁ、せっかくだから原形に近いコレ・・が本当に使えるものなのか、珠雨しゅう達は人で実験までした事なかったらしいから君で試してみようと思うんだ』

『――完全再現じゃないそうだからなー…どういう効果が現れるのか、まったく未知数らしいぞ。
わかっている事は、玖苑くおんで使われたやつより凶悪なものだとか…まぁ、短時間で前頭葉が使いものにならなくなるみたいだ。
残った時間、どう過ごすか…よーく考えるんだな、希衣沙きいさ
さぁーて、奴らに対しての宣戦布告みたいな事もしたし…それじゃ、最期まで頑張れよー。あははは!』



「自我だけを殺める、毒…か。恐ろしいものが、あったものだ…七弥ななや隊長も、気をつけた方がいい」

目の焦点は定まらず、血の涙のようなものを流した希衣沙きいさが混濁しはじめた意識の中でそう呟いた。

「任務は…失敗したんだ、どうせ始末される…ならば、せめて一矢報いる事ができればと――だが、それも…」
「一体、何を…っ!?」

只ならぬ希衣沙きいさの様子に珍しく動揺した七弥ななやの手にある銃を、最期の力を振り絞り立ち上がった希衣沙きいさが奪い……

「やめろっ!」

七弥ななやの制止も虚しく、希衣沙きいさは自らの左胸……丁度、心臓辺りに銃口を向けると引き金を引いた。
身を隠し盗み聞いていた少女は、その銃声に驚いて身をすくめると座り込んでしまう。

止めようとした七弥ななやの目の前で希衣沙きいさの身体は力なく床に倒れ、胸に開いた小さな傷口から止め処なく赤い血が流れでていた。
すでに手遅れだとわかっていたが、無意識に止血しようと動いた七弥ななやは視界の端に映った少女の存在に気づく。

いつからそこに…そもそも、ここにいるはずのない少女が何故いるのか?
まったくわからないが、彼女の様子で一部始終を見聞きした事は間違いないだろう。

動かなくなった希衣沙きいさの方へ視線を向けた後、七弥ななやは少女のそばに駆け寄ると片膝を立てて声をかけた。

「…大丈夫ですか?」
「っ…」

七弥ななやの声に一瞬ビクついた少女は、恐る恐るといった様子で顔をあげる。
どうやら、この場にいるのが彼女ひとりのようで……七弥ななやは疑問に感じながら首をかしげた。

この少女は母親と共にラウンジにいたはず…少なくとも、自分が彼女を送り届けたのだから間違いはないはずだ。
だが、どうして彼女はひとりでいるのだろうか?

それを訊ねると、少女は小さな声で答えた。
彼女の話では、目が覚めると母親はおろか…ラウンジには、誰ひとりいなかったとの事。

そんなはずは…と言いかけて、七弥ななやはある事に思い当った。

自分の部下達の半数は織葉おりは様の手によって殺害され、残った者数人は港の方に待機させている。
という事は、やはりラウンジにいた奴らは久知河ひさちか綺乃あやのの手の者達だったのだろう。
それが誰もいなくなったという事は、任務に失敗したので撤退したのだろうか…?

(まったく…撤退するならするで、ひと言あってもいいだろうが)

もう愚痴に近い事を考えてしまった七弥ななやは深くため息をついて、どうしたらいいのか…わからずにいる少女に手を差し伸べた。


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