9話:断罪の刃

通路を歩く2つの影…ひとりは白金色の髪をした青年、もうひとりは濃い灰色の髪をした軍人の青年だ。

不意に立ち止まった白金色の髪の青年が、傍らにいる軍人の青年に声をかける。

「…ねぇ、理矩りく――ひとつだけ、僕のお願いを聞いてくれるかな?」
「?」

静かに首をかしげる軍人の青年・理矩りくに、白金色の髪の青年はゆっくり言葉を続けた。

「混乱のどさくさで持ち出せたものを、あの人・・・に預けたわけだけど…肝心の塑亜そあには、僕らが誰に何を預けたのかを知らせてないよね?」

今から数十分前…双子の少女の亡骸を見つけた現場で、2人は『ある人物』に出会ったのだ。
最初は『彼ら』と同じ目的で近づいてきたのか…と警戒したが、会話を重ねて自分達の敵でないと確認した。
まぁ、初めて会った時から『彼ら』と繋がっていない事はなんとなくわかっていたのだが……

まだ信用していない様子の理矩りくを無視して、白金色の髪の青年はその人物に玖苑くおんの研究所から持ち出したものを託したのだ。
青年にはやらなければならない事が残っていたし…何より、機嫌の悪いだろう塑亜そあに会うのが怖かったというのもある。
サンドバックにならない為に、ワンクッション置きたいというのが本音だったりするのだが……

その人物が塑亜そあに届ける事を了承してくれたので、お礼に『彼ら』の手の者に見つからず安全に脱出できる――この飛行艇にある『秘密の出口』なる場所を教えた。
設計した珠雨しゅうが作った、この飛行艇が飛んでいない時だけ使える緊急用のもの……それがまさか役立つ時が来るとはなぁ、と考えた青年はひとり心の中で笑う。

だが…その人物と別れた後、ふと青年は気づいた。
あの人・・・に託したものの、今のこの状況だと塑亜そあに敵か味方かの区別がつかないのではないかという事に。
現在、理矩りく曰く――あの『薬』の効果によって、港内は大変な騒ぎになっているようなのだから……

なので、先回りして塑亜そあと合流するか…あの人・・・について行くかしてもらいたいのだと理矩りくに頼んだわけである。
青年の意図を理解した理矩りくだったが、珍しく困惑した様子で青年を見る。
彼が即答できないのには、理由があった。

「大丈夫だよ。もうすぐ夕馬ゆうまも戻ってくるだろうし、そんな気配するし――だから、お願い…」

確かに、上司である夕馬ゆうまの気配が近くまで来ているようなので大丈夫だろうが……しかし、同時に気になる気配もしている。
懇願するような白金色の髪をした青年・白季しらきの言葉に、理矩りくは渋々といった様子で頷いた。

「…わかりました、白季しらきさん。ただし、くれぐれもお気をつけて」

理矩りくの心配を余所に、白季しらきはにっこり微笑むと頷いて答える。
完全に納得したわけではない理矩りくだったが、白季しらきに頼まれた事を伝える為に塑亜そあの元へ走った。

「うーん…もしかして、理矩りくも心配性なのかな?」

首をかしげて呟いた白季しらきは走り去る理矩りくの後ろ姿を見送り……そして、ゆっくり息をついてから誰に向けるでもなく語りかけた。

「…よかったねー、これで僕ひとりっきりだよ。僕に、何か用事があるんだよね?」

…だが、白季しらきの言葉に返事は返ってこない。
口元に小さく笑みを作った白季しらきは気にせず、言葉を続ける…もちろん、ちょっとした悪意も込めて。

「君の事、夕馬ゆうまから聞いているよ……バカで面白いヤツだって。ねぇ、綺乃あやの達に顎で使われてる気分ってどんな感じ?何を対価にやらされてるのか知らないけど、段取りが悪いよね。そんなんだから、三下のやる事しかさせてもらえないんだよ」
「…さすが、夕馬ゆうま殿の兄弟というべきか。人を小馬鹿にする言動が、本当にそっくりだ…まぁ、いい。貴様には、一緒に来てもらうぞ」

微かな怒りを込めた声が白季しらきの頭上から聞こえた直後に、白季しらきの目の前に濃い紫色の髪をした男が天井から降りてきた。
目の前の人物が何者であるのかを確認した白季しらきは、笑みを崩さず答える。

「あははは、そっかー…綺乃あやののやつ、そんな事まで調べてたんだねぇ。それにしても、君…僕が『はい、そうですか』って付いて行くと思ってるの?」

本当に夕馬ゆうまが言っていたとおりの人物だった為、内心おかしくて仕方なかった。

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