8話:悪夢の果てに…

「っ…?」

全身に走る激痛に、顔をしかめたのは…ひとりの、軍人の青年だ。
自らのこげ茶色の髪の毛をかきむしりながら、ゆっくり起き上がって寝ぼけ眼なまま辺りを見回す。

寝ぼけているとはいえ、自分が何処かの部屋にいるのはすぐに理解できた。
室内にあるのは、小さなテーブルと椅子…それと、簡易クローゼットと今いるベッドだけだ。

(飛行艇内にある、何処かの客室…か?何で…)

そこまで考えて、自分の身に起こった事を思い返す。
ラウンジを出た後、2人の少女の亡骸と…そして、部下達が襲われているのを見つけた事を。
そして、それをやったのは……

(…織葉おりは様、だった。何故こんな事に、そうだ!)

慌ててベッドから出ると、青年は部屋を出る。
壁には、手で血をなすったような跡が残っていたのでそれを頼りに進んでいく。

――通路をこのままいけば、ブリッジへ辿り着いてしまう……
それに気づいた青年は、自然と歩みを早めた。

少し行った辺りで足を止めた青年は、ゆっくり息を飲んだ。

「……これは――」

視線の先には、血に染まる衣服を身に着けた淑女が床の上に力なく横たわっていた。
――あの虚ろな瞳には、もう何も映らない。

だが、一体彼女の身に何が起こったのだろうか…?
青年は淑女のそばに近寄ると、彼女の瞼を閉じる。
そして、身体にある傷を調べてみると複数の銃で撃たれた痕があった。

(どうして…まさかっ!?)

自分は、淑女の体術を前に何もできなかった…その上、気を失ってしまうという失態を犯した。
生き残った者達は飛行艇から避難させたので、このような事はできないだろう。
…そもそも、人間離れした速さと力を持った淑女を止める事など誰にもできないはずだ。

ならば、答えはひとつしか思い浮かばなかった。
――何故、その答えが思い浮かんだのかは自分でもわからない。
愕然とした青年は、小さくその人物の名を呟いた。

「…倉世くらせ右穂うすい、か――」

あの2人ならば、できるかもしれない。
正確に言えば、片方が怯ませて……もう片方が致命傷を負わせればいいだけなのだから。

どんな理由であれ、殺してしまっては…もう、彼女の口から理由わけを訊ねられない。
この飛行艇で起こした殺人事件の動機を……

淑女の両手を胸の辺りで組ませた青年はゆっくりと目を閉じて、黙とうをささげた。
そして、飛行艇内の何処へ向かえばいいのか…少し思案してから、とりあえずラウンジへと戻る事を決める。

(あいつらを探して止めなければ、一体何が起こっているのか……その真相を訊かなければ)

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