8話:悪夢の果てに…

「そうか…義伯母上は亡くなられたんだね」

とある部屋…ため息をついて小さく呟いたのは、椅子に腰かけている黄緑色の髪をした青年である。

「義伯母上が玖苑くおん郊外で療養されていた事は知っていたけど、まさか彼らがこの騒ぎを利用して……」
『――そうですよねー…まさか、暗殺まで企てていたとは思わなかったけど。倉世くらせ右穂うすいも、自分達が利用されたと知ったら怒るだろうなぁ…あはははー』

青年の言葉に答えたのは、テーブルの上に置かれている通信機から聞こえる…何やら楽しそうな様子の、声の主だ。
そして、その声の主は何かを思い出したように言葉を続ける。

『――そうだ、葎名りつな様…その件の報告、お任せしますね。とりあえず、俺は白季しらき達と一緒に塑亜そあと合流するつもりですけど…そうそう、どーします?あの男の事は…』
「…あの男の件は、右穂うすいに命じてあるよ。夕馬ゆうま…キミは、飛行艇にいる部下達と共に白季しらきをそこから脱出させる事だけを考えるんだ。いいね?」

黄緑色の髪をした青年・葎名りつなが、少し考え込んだ様子で通信相手である夕馬ゆうまに言った。
夕馬ゆうまは笑いながら了承したのを確認した葎名りつなが通信を終えようとした時、葎名りつなの隣に控えていた淡い紫色の髪をした青年が声をかける。

「少しお待ちを、葎名りつな様。夕馬ゆうま塑亜そあから連絡があり、港内で『例のもの』が使用されたと報告を受けたのですが」
『――…あー、うん。多分、こちらを牽制しようとやった事だとは思いますけど…あっちはあっちで、少し焦っているのかもな。だって、目的のものが手に入りそうな位置にあるのに…手に入らないのだから、ね』
「だからと言って…あなたがいて、みすみす被害を拡大させるような真似をさせてどうする」

苛立ちを隠さずに言う青年を制すると、葎名りつなは優しい声音で言った。

「…斐歌あやうた夕馬ゆうま、とりあえずそちらの事はキミに任せるよ…それと、私の方から上層部に義伯母上の事を詳細は伏せて報告はしておく。だけど…殿下にだけは、本当の事を伝えておくよ?」

上司である葎名りつなの声に、淡い紫色の髪をした青年・斐歌あやうたは開きかけた口を閉じて頷いた。
それに対して、夕馬ゆうまは笑いながら答える。

『――うん…まぁ、仕方ない状況だしなぁ。すべてが終わったら、あの人にも怒られそうだ…はははー』

最後の方を苦笑しながら言った夕馬ゆうまの方から通信を切ったらしく、通信機の向こうからは何も聞こえなくなった。
それに気づいた葎名りつなは立ち上がると、小さくため息をつく。

「あの事件後すぐ――七弥ななやがあの飛行艇を使った時点で、やはり彼らにとって有利な状況になっていたようだね」
「そのようです、葎名りつな様…もしかすると、我々が動く事すらも計算に入れ計画されていた可能性もあります」

『アレ』を狙っていた2つの勢力が手を組んだのも頷ける、と斐歌あやうたは声を潜めて言った。

「今回の事を、七弥ななやが何処まで知っているのかはわからないけど……一度きちんと教えてあげた方がいいのかもしれないね。本当の事を…」

自分の信じる主が何かを企んでいると知れば、七弥ななやはこちら側に協力してくれるかもしれない。
倉世くらせの話によると…彼はどんな命令にも忠実に従うが、それが少しでも正しくないと気づけば命令に叛く事もあるという――
昔、王女の護衛をしていた際に何度かそういう事態があったそうだ。

そう考えた葎名りつな斐歌あやうたと共に、まずは上層部へ報告する為に部屋を出た。



部屋に残されているのは、テーブルの上に置かれた通信機――

突然繋がったような音がした後、小さな囁き声が聞こえてくる。
それは、先ほどまで聞こえていた夕馬ゆうまの声ではなく…暗く低い少年の声だった。

『――だから…邪魔なんだよ、お前達は』



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