7話:死の宴への招待状

とりあえず、ひと通り狂った軍人達を倒した後……銃に新たな弾を込めた塑亜そあ先生が、それを俺に手渡そうとする。

「新たに『薬』を使ったアホがいるだろう?爆発に乗じて、失敗作をこの港に撒いたらしい。狂ってしまった被害者には悪いが、もう助けられん…これでひと思いにやってやれ」
「………」

少し受け取るのに躊躇した俺に、塑亜そあ先生はさらに言葉を重ねた。

「言っておくが…新たに作られた『薬』の詳細な情報データはこちらにない。その資料を持っている奴らは、まだ飛行艇内にいる…つまり、わかるよな?」

――もし助けたければ、その資料を持つ者を探し出せ…という事だろう。
時間はかかるかもしれないが、先生達ならば何とかできるのではないだろうか。

ため息をついた塑亜そあ先生が、俺の手に銃と替えの弾が入った箱を握らせる。
そして、右穂うすいに視線を向けて顎で飛行艇の方向を指した。

「とりあえず、ここは俺達が何とかする…お前達は、もう戻った方がいいだろう?あぁ、そうだ。ついでに……」

俺の肩に手を置いた塑亜そあ先生は、声を潜めて囁く。

「暴発を装って、夕馬ゆうまに一発当ててもいい…というか、やれ。俺が許可する」
「ぇ…」

…とりあえず、塑亜そあ先生が夕馬ゆうまに対して殺意というか――すごく怒っているらしい。
しかし、教え子に…何恐ろしい事を頼んでいるんだ、この教師は。
というか…夕馬ゆうまは、また何をしたんだ?

ふと右穂うすいを見てみると、近くにいた軍人から銃と弾を受け取ると上着の内ポケットにしまっていた。
…まぁ、そこの方が見つかりにくいよな。
俺も右穂うすいに倣って、同じように銃と弾をしまっておく。

曖昧に塑亜そあ先生には返事をし、右穂うすいと共に飛行艇へ戻る事にした。
この場に長くいては、自由に行動をしている事を七弥ななやに気づかれるかもしれないからな……

あいつに気づかれる前に飛行艇へ戻る為、搭乗橋に戻ってきた。
ところどころ焦げてボロボロになった搭乗橋を再び通りながら…あの爆発でよく全壊しなかったものだ、と改めて感心してしまった。
こっそりと飛行艇内に戻り、まだ気を失っているらしい軍人達を避けてから左側の通路に向けて歩きだす。
――そして、こっそりと逃げ込んだ先の部屋に戻った。

「はぁ…」

思わず俺がため息をつくと、右穂うすいが首をかしげる。

「どうかなされましたか、倉世くらせ様?」
「いや…」

まぁ、短時間に色々あったから…とは言えなかった。
そういえば『新たに作られたものがある』と、塑亜そあ先生が言っていたな。
確かに、港内で使われたものは新たに作られた失敗作のようだった。
――新たに作られたのは、港内で使われた失敗作だけなのか?
まさか、あの男………

確か、『薬』の研究再開をあの男が提案してきたんだったな。
俺は参加するつもりはなかった…もちろん、珠雨しゅう先生や白季しらきだって――

「…っ」

そこまで考えた瞬間、またあの鈍い痛みが頭を襲ってきた。
右穂うすいが心配そうに、今にも倒れそうな状態の俺を椅子に座らせた。
何度か、ゆっくり呼吸をし落ち着いてきたところで…突然、部屋の外で何か鈍い音が聞こえてくる。
――それも、重みのある何かが壁にぶつかるような鈍い音が。

部屋の外を警戒する右穂うすいは、そっとドアに近づくと静かに鍵を閉めた。
そして、未だに浅い呼吸を繰り返している俺のそばに戻ってくると囁く。

倉世くらせ様…しばし、お静かに」

口に指をあてた右穂うすいは気配をできるだけ押し殺すように、と言った。
意味は分からない、が…何か危険な気配がしているようだ。
それが一体何なのか……その時はわからなかったが、すぐ後になってわかった。
――新たに作られた『薬』の効果と、塑亜そあ先生が言っていた「助けられない」の意味も一緒に。

通路では気がついたらしい十数人の軍人達や七弥ななやの声……
そして、ラウンジで俺を襲ってきた『あの女性』の笑い声が聞こえてきた。


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