1話:目覚めの悪夢

「――これから話す内容を、絶対に覚えろ…」

そう言った七弥ななやが、俺に名簿のようなものを渡してきた。

「これは……?」

名簿を指しながら、七弥ななやに訊ねる。
俺の質問攻めにも慣れてきたのか…七弥ななやは、さほど表情を変えずに名簿のようなものについて話しだす。

七弥ななや曰く…――この名簿のようなものは、この船に乗っている者達の名を記してあるらしい。
ただ…乗っている軍人達の名前は省いてある、とも言っていたな。

この船に乗っている者達は、俺と同じく…公には死亡した事になっているのだという――

パラパラと名簿を確認してみると、その中に俺の名前があるのに気づいた。
七弥ななやもそれに気づき、俺の肩に手を置く。

「お前の名前は、ついでに書いておいた。その方が報告書を出す時に楽だからな…」
「……ついでかよ!だが、報告書にする際は…もう一度書かないとならないのではな――」
「要は…報告書を受け取った上が、その事実さえ知らなければ問題はあるまい?誰かがしゃべらなければ…事実は闇の中だ」

そう言った七弥ななやが、にやりと笑う……
つまり、俺は何も知らなかった…聞かなかった事にすれば、この名簿をそのまま使用しても問題ない――という事だろう。

この静かなる脅しに、俺は小さく頷いておいた。

多分、記憶を失う前の俺は七弥ななやに随分な目にあわされていたんだろうな……
…自分で自分が、少しだけ気の毒に思えた。

「――で、これから話す内容だが…この生存者達について、だ。まずは…そうだな、名簿の上から順に説明するか」
「あぁ…よろしく頼む」

名簿を上から順に指しながら、七弥ななやの説明がはじめる…


織葉おりはという女性は、3歳になる一人息子を『あの事件』で失い…現在は、精神的に不安定になっているらしい。
正気を失っており誰彼かまわず襲ってくるので気をつけろ、という事だった。

次に…樟菜くすなという女性についてで、彼女は娘の音瑠ねると共にこの船に乗っているそうだ。
娘の音瑠ねるは、彼女曰く――親子共に俺の知り合いで、『あの事件』で婚約者を失ったのだという。

俺の部分は省かれた…が、その次に医者の杜詠とよみ――彼は、この医務室の主でもあるらしい。
今は、不安定な織葉おりはの世話をメインに頼んでいるのだそうだ。

最後は…この医務室に来た――白季しらきは、学舎に通う医学生だと言っていたらしい。
学舎とは国立紫要しよう学園の事を指しており、俗称としてそう呼ばれているようだ。


…記憶のない俺でもわかりやすいように説明してくれた七弥ななやは、ひと息ついた。

「…ここまでで、何か質問は?」
「……樟菜くすな音瑠ねるの親子だが、俺の知り合いなのか?」

彼女達の名前を聞いても、何も思い出せない事を告げると…七弥ななやは少し考え込んだ後に口を開いた。

「――確か、随分前に親戚だとお前から聞いた事がある…母親の樟菜くすなが、年の離れた従姉の夫の伯母だと………」
「親戚、なのか……?それは……何だか、遠いな」
「まぁ、血の繋がりは間違いなく無さそうだがな」
「それはそうだろうな……」

俺は小さく頷いて、七弥ななやに同意する。
だが、まぁ…遠い親戚が無事なのには安心したが――


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