7話:死の宴への招待状

「ねぇ…もう、大丈夫かな?」

辺りをうかがう長い黒髪の少女が、囁くように隣にいる黒いショートボブの少女に訊ねる。
この2人の少女は同じ顔立ちをしており、ひと目で双子の姉妹だとわかった。

彼女達は爆発が起こる前、顔見知りの教師である塑亜そあと会って寮へ戻るように促されたのだ。
だが…塑亜そあと別れた後、彼女達は帰るふりをして港内に留まる選択をした。
もちろん、塑亜そあや警備している軍人達に見つからないよう2階の通路脇の柱の陰に隠れているわけだが。

「うん…騒ぎは落ち着いたみたいだし、多分大丈夫だと思う」

囁き返すように、ショートボブの少女は答えた。
静寂に包まれた港内…今のところ、何かが起こっている気配はないようだ。
双子はお互いに頷き合って腰を低くかがめると、ゆっくり柱の陰から移動をはじめた。

静かに気配を消しながら移動し、玖苑くおんから着いた飛行艇へ続く搭乗橋前にたどり着く。

「…芭月はづき、多分ここ」

髪の長い少女が搭乗橋を指しながら囁くと、ショートボブの少女・芭月はづきは頷いて答えた。

「うん。ぁ、菜月なつき…」

何かの気配に気づいた芭月はづきが、髪の長い少女・菜月なつきの袖を引っぱりながら様子をうかがう。
よく耳をすましてみると、誰かがこちらに向かって来る足音が聞こえてきた。
それも2人…急いでいるようで、走ってきているようだ。

双子が慌てて近くにあった柱の陰へ隠れる、と同時に栗色の髪をした軍人と赤茶色の髪をした軍人の2人がそこを通り過ぎた。
見つからなかった事に安堵し、同時にため息をついた双子はこっそりと先ほど2人の軍人が通ってきた搭乗橋を行く――
爆発で破壊された通路の壁や何かが焦げた匂いに、双子は一瞬戸惑うが…意を決したように飛行艇内へ向かった。

「うわっ…」

爆発によって破壊され……歩きにくくなった通路には、ところどころ焦げたような跡や血痕が残っていた。
もしかすると…その瞬間、誰かがいたのかもしれない……

できるだけ現場を見ないよう通り抜けた双子は、飛行艇の入り口付近で驚いて息を飲む。
それもそのはず…そこには、倒れている十数人の軍人達の姿があったからだ。
一応、双子は彼らの脈拍を確認して安堵した。
そして、左右を確認した芭月はづき菜月なつきは首をかしげる。

「えっと、何処へ行けばいいんだろう?」
「確か…この飛行艇は、人や物を輸送する為のものだから――」

しばらく考えた2人の出した答えは、「ラウンジへ行ってみよう」だった。
そこに行けば、おそらく誰かしら――避難してきた人達がいるだろう、と考えたのだ。

場所は、目の前の壁に書かれている右への矢印とラウンジの案内でわかる――
それを確認した双子は、とりあえずそちらへと向かう事にした。

しばらく通路を歩いていると、何処からか小さな鼻歌のようなものが聞こえて双子は足を止める。

(…何だろう?)

双子が首をかしげて耳をすましてみると、どうやら自分達が向かう方向からのようだ。
聞こえてくる、その鼻歌は優しい子守唄のようで――
しかし、どこか狂ったような……そんな音程を奏でながら、こちらに近づいてくる。
それと同時に、何か湿った布が擦れるような音も微かに聞こえてきた。

双子はゆっくりと息を飲み込んで、近づいてくる何かに警戒する。

そこに現れたのは、ゆったりと腰まである長い茶色の髪に暗い色を基調とした服を着た淑女だ。
この淑女を見た双子は、声にならない悲鳴をあげた。
それは、淑女自身や身なりのところどころ赤黒い液体がついており……その手には、赤い液体の滴るナイフと銃を持っていた。

――この女性は危険だ…逃げなければっ!

本能的にそう悟った双子は、お互いに手を繋ぐと来た道を引き返すように走りだした。
2人の背後で、狂気じみた笑い声が聞こえてくる。

「うふふ、あはは…もしかして、追いかけっこかしら?まったく、私…苦手なのよ?だから、ね」

そして、淑女が手に持つ銃を双子に向けると、そのまま引き金を引いた。
銃弾は真っ直ぐに、双子の向かおうとする先の床を撃ち抜く。
思わず立ち止まってしまった双子に、淑女は優しい――しかし、何処か狂気をはらんだ声音で語りかける。

「うふふ…だぁめでしょう?逃げたりしたら…だって、悪いのは貴女達の方なのだから」

近づいてくる狂気の淑女に、あまりの恐怖に座り込んだ双子は震えながらお互いの身体を抱きしめ合った。
その様子を目にしても、淑女は双子の前にゆっくりと立つ。

「許さない…絶対に私達の邪魔はさせない、誰であっても」

呪文のように呟いて狂気の笑みを浮かべた淑女が、ゆっくりと振り上げたナイフを……

双子の姉妹は恐怖しながら、その様子を見ている事しかできなかった。


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