7話:死の宴への招待状

あの、夢明むめいの港で起きた爆発――玖苑くおんの街で起こったものと同じような爆発だった。
あれは間違いなく、あの時と同じで誰かが仕組んだものだろう。

そんな事を考えながら走っていると、不意に誰かに肩を掴まれた。
驚いて立ち止まり「こんな時に誰が?」と考えたところで我に返る。
――俺の肩を掴んだのは、先を走っていたはずの右穂うすいだった。

「…ぁ」
「大丈夫ですか…倉世くらせ様?」

俺の様子がおかしい事に気づいた右穂うすいは、少し行ったところで立ち止まると俺が追いつくのを待っていたようだ。

それにしても、俺は今何を考えていたのだろうか?
そもそも、何故――爆発が起こった時、玖苑くおんの二の舞のようだと考えたんだろうか?

落ち着く為、ゆっくりと深呼吸をしてから右穂うすいの顔に視線を向けた。
右穂うすいの、その表情は……俺を心配していて、失われたものが何かを話したい…が、それをせずに見守る事を決意しているかのような――

あぁ…そうだ、ひとつ思い出した。
目の前にいる右穂うすい…こいつは……

「…考えてみれば、だ。珠雨しゅう先生や課題の事などを思い出したのだから…次は、お前の事を思いだすべきだったよな」

きょとんとしている右穂うすいに、俺は苦笑しながら言葉を続けた。

「お前は…俺が学生の頃から、一緒にいるよな?」

珠雨しゅう先生の研究室を出入りし始めた頃くらいだったか…
もしかしたら、それよりも前から俺の護衛――いや、最初は監視だったのかもしれないが。
本格的に俺の補佐をしてくれるようになったのは、卒業した後だったよな。

その話をすると、右穂うすいは驚いたように目を開いて…そして、嬉しそうに微笑んだ。

「よかった…このまま、忘れられたままなのかと思っておりました」

右穂うすいは自分の役目が俺の護衛兼補佐であり、その為に俺が学生の頃からついていたのだと話してくれた。
…まぁ、そう命じたのは多分アイツらくらいしかいないだろうな。

少し頭もすっきりしてきたところで、俺は右穂うすいに訊ねた。

「どうやって、港内へ移動する…?おそらく、出入り口はおさえられてると思うぞ?」
「はい…ですが、大丈夫だと思います」

顎に手をあてた右穂うすいは、何故か自信ありげに答える。

右穂うすい…その自信は、何処から出てきた?
大体、この飛行艇内でもあんな事件が起こったんだ…全然、大丈夫ではないだろう。

俺の、そんな気持ちに気づいたのか…右穂うすいは少し先を指差して言った。

「ここと港とを繋ぐ搭乗橋は、おそらく夕馬ゆうま殿の懐刀である理矩りくが何とかしてくれていると思いますので」

――理矩りく…?また記憶にない…いや、待てよ。
あの、夕馬ゆうまの懐刀…おぼろげだが、記憶にあるような……



右穂うすいと共に港内へと続く搭乗橋の付近にやって来ると、十数人の軍人達がうつ伏せに倒れていた。
慌てて近づき確認すると、どうやら全員気を失っているようだった。
俺が安堵していると、右穂うすいは苦笑しながら呟いた。

「やはり、手刀で一発…でしょうね」
「そ、そうか…手刀で――」

この通路の警備が任務なら、誰かひとりくらい抵抗できなかったものか?
だが、まぁ…おかげで、港の様子を見に行けるわけだしな。

「…多少の事は気にしていたらダメだな、特に今は」

ひとり愚痴るように呟いた俺に、右穂うすいは首をかしげているようだが…そこはあえて気づかないふりをしておこう。
気を取り直した俺と右穂うすいは、港内の様子をうかがいに向かった。


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