7話:死の宴への招待状

ここは飛行艇内の、ラウンジ近くの通路。
そこで帽子を目深に被った軍人と白金色の髪をした青年の2人が、壁に寄りかかるようにして誰かを待っていた。

「…遅いなぁ」
「まぁ…ここは珠雨しゅうの自信作で、無駄に入り組んでいるからなぁ。いくら理矩りくでも、ここまで来るのには時間がかかるって…さすがに」

――一体、どんな自信を持っていたのだろうか…彼は。

そんな会話をしている2人の待ち人である理矩りくは、2人から見て左側からやって来た。
その手には、何故か青色のパーカーを持って……

2人の前で立ち止まった理矩りくは、頭を深く下げる。

「申し訳ありません…夕馬ゆうま隊長、遅くなりました。あと…白季しらきさん、これを――」

理矩りくは白金色の髪をした青年・白季しらきに持っていたパーカーを手渡した。
礼を伝えて受け取った白季しらきは肩にかけていた鞄を下ろし、白衣を脱ぐとパーカーを着ると再び白衣を羽織る。
そして、鞄を再び肩にかけた。

「ふぅ…これで、なんとかいつもの感じになったかなぁ」
「落ちてよかったなー…あれだけ血だらけだったのに、落ちるもんだな」

帽子を目深に被った軍人・夕馬ゆうまが、感心したようにパーカーを見て頷いた。

実は、白季しらきのパーカーは…あの襲撃事件の際に、珠雨しゅうや他の被害者達の血で染まってしまっていたのだ。
それを理矩りくが上司である夕馬ゆうまに頼まれ、飛行艇内にある乾燥機能付き洗濯機でこっそり洗っていたらしい。

…本当に色々な意味で何でもある飛行艇だと、押し付けられた倉世くらせは知っているのだろうか?

ふと、そんな事を白季しらき夕馬ゆうまの2人が考えていると…何かを思い出した様子の理矩りくは、夕馬ゆうまにひとつの記憶媒体を差し出した。

くだんの映像は、こちらに。それと、ご命令通り…倉世くらせにも見せておきました」
「ご苦労…しかし、とんでもないものを撮った上に見せてくれたものだな…綺乃あやのと達は――」

記憶媒体を受け取った夕馬ゆうまは、苛々しげな口調で呟いた。
そんな夕馬ゆうまの隣で、俯いていた白季しらきも同意するように力なく頷いて答える。

「…そうだね。それに、倉世くらせも見たのなら…大体の内容は知れたし、記憶もすぐに戻るだろうね」
白季しらきさんの仰る通りです…すべてをご命令通りこなしましたので」

理矩りくは無感情に、淡々と言った。
夕馬ゆうまの命令――それは『裏切り者』と『協力者』捜索の他に、綺乃あやのが撮影した映像を入手する事だ。

あの事件の際、珠雨しゅう白季しらきの保護に向かった夕馬ゆうまは気づいていた…仕掛けられていたカメラの存在に。
そして、カメラを通して別の場所に映像が保存されている事にも――
まさか、それが走水そうすいの元に送られてくるとは考えもしていなかったが。

走水そうすいの元に映像の一部が送られてきたと知った夕馬ゆうまは、後日なんとかして入手できないものかと考えていた。
だが、綺乃あやのの指示があったのか…それとも、白季しらきの誘導のおかげかはわからないが……走水そうすいが部屋を出てくれたおかげで入手するチャンスが訪れたのだ。

あの時――走水そうすいを護衛していた軍人達が眠っていたのを発見した時、隠し部屋に白季しらきがいるのを確認した夕馬ゆうまは隠密活動をしている理矩りくと合流した。
そして、その時…右穂うすいに誘われて倉世くらせが隠し部屋に向かっている事を理矩りくに知らせて2つの指示をだす。

ひとつは、走水そうすいの元に送られてきた映像の入手。
一部だけの映像であっても、それを手に入れておくに越した事はないだろう…と――

もうひとつは、その映像は襲撃事件を映したものなので倉世くらせにそれを見せる事。
映像ファイルを開いて、スリープ状態にしておけば、気になってみるだろうと。
倉世くらせが見つけなければ、右穂うすいが誘導でもするだろうという事も考えて――

隠し部屋を訪れた倉世くらせが、あの映像を見て記憶を取り戻しかけている事を部屋の片隅から理矩りくが確認していたのだ。
誰もいなくなったところで映像ファイルを回収・廃棄をし、ひっそりと通信機で夕馬ゆうまに報告を入れたらしい。
そして、飛行艇に乗り込む前に頼まれていた洗濯物を手に夕馬ゆうま白季しらきと合流して現在に至る。

「…ねぇ、それよりもさ」

白季しらきは窓の外を眺めながら、夕馬ゆうま理矩りくに訊ねる。

「さっきの狂気な事件、誰が『協力者』なのか……わかったの?」
「あぁー…それな」

思い出したように手をたたいた夕馬ゆうまは、無表情に佇んでいる理矩りくに目を向けた。
その視線に気づいた理矩りくは頷くと、白季しらきに囁くように口を開いた。

「はい…それは、先ほど夕馬ゆうま隊長と白季しらきさんと合流する前に調べておきました。その人物は、おそらく……」

その人物の名前を聞いて驚いた白季しらきは目を見開くと、ラウンジの方へ視線を送る。
ちょうど、3人が立つ場所からラウンジの中…その人物をよく知る人物が見えていた。

「何と言うか…皮肉な事だよなー」

独り言のように、夕馬ゆうまが苦笑して呟いた。


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