6話:夢明の悲劇

俺達が逃げ込んだ先の部屋…そこの窓から外を確認する。
そこには、朝焼けに染まった港が見えた。
多分…いや、間違いなく夢明むめいの港だ。

というか…もう着いてしまったのか、という気分でしかないが。
俺の気持ちを察したらしい右穂うすいは、申し訳なさそうに「心中、お察しいたします」と言った。

――まぁ…そうだよな。
だが、これからどうするか…?

下手に動けば、七弥ななや達に拘束されて…このまま罪を着せられるだろう。
そうなれば、軍法会議からの死罪に違いないな…

それを考えると…もう、乾いた笑いしかでない――いや、状況はまったく笑えないが。

「大体、あの男が…どうして、『あの薬』の詳細な情報を知っていたのだろうか?」

――……ん?ちょっと待て、あの薬・・・って何だ?

不意に、自分が呟いた言葉に自問した。
まったくの無意識に出た言葉に、自分でも戸惑っているのがわかる。
右穂うすいは心配そうにこちらをうかがっている事に気づいて無意識に助けを求めていた。
椅子を俺のそばに運んできた右穂うすいに、促されるまま座る。
そして、落ち着かせようとした右穂うすいは俺の両肩に手を置いて、微笑みながら口を開いた。

「落ち着いてください…大丈夫です。いいですか?ゆっくり整理していきましょう」

俺がゆっくり頷くと、右穂うすいは俺の両肩から手を離して言葉を続ける。

「『あの薬』とは紫鴉しあ博士が作り出した、強靭な力を手に入れる為の薬……の失敗作です」

元々は、大昔に秘密裏に作られた薬だったらしい。
それを、俺が改良したようなのだが…やはり、どんなに改良を加えても失敗作は失敗作でしかなかったそうだ。

使用すれば、理性も知性も失われ…最終的に使用者の心が破壊されてしまうという、恐ろしい薬なのだと右穂うすいが説明してくれた。

改良された分、多少の知性と理性は残る状態にはなったらしいが……心は破壊されてしまうのだから、知性と理性が多少残ったところで使い物にならない。
しかし、危険なものに変わりないわけだ。

右穂うすいの話に、俺はぼんやりとだが…その当時の事を思い出していた。

――確か…珠雨しゅう先生に、課題だとやらされたんだったな。
あぁ…そうだ。
その時、白季しらきが呆れながら言っていた。

『…珠雨しゅう、勝手にそれ・・を出していいの?塑亜そあに怒られるよ、また』
『大丈夫ですよ、白季しらきさん…今回は塑亜そあさんに、きちんと許可をもらいましたから』

「あぁー…そうだった。珠雨しゅう先生が、これは卒業課題だと…塑亜そあ先生も使用を許可してくれた、とか……なぁ、右穂うすい?」

椅子に深く座った俺は、必然的に天井を見上げる形となる。
右穂うすいに声をかけると、静かな様子で返事が返ってきた。

「はい、何でございますか?」
「『あの薬』については、大体思い出せた、が……」

あれは、確か――課題で改良した後、やはり危険なものだと判断され…塑亜そあ先生と珠雨しゅう先生が破棄し封印されたはずだ。
それが何故、今回の事件とどこで繋がるのだろうか……?

その事を右穂うすいに訊ねようとした瞬間、何処かで何かが爆発するような大きな音が響き渡ってきた。
微かだが、爆音と共にこの飛行艇も揺れた気がする……

倉世くらせ様…窓の外をっ!」

状況がわからず首をかしげていると、右穂うすいが慌てたように声を荒げた。
その様子に、俺も急いで窓辺へ駆け寄り確認する。

俺達のいる部屋の窓から見える夢明むめいの港、の一部…ちょうど飛行艇と港とを繋ぐ搭乗橋から黒煙が上がっていた。
誰かが爆発物を、搭乗橋に仕掛けたのだろうか…?
その爆発現場はもちろん、港内の様子も何処かおかしい事に――遠目からうかがっていても気づけた。

あの現場を見ていると…何か、とても嫌な予感がしてくる。

それが、一体何を意味するのか…?

この時の俺には、まったくわからなかった。

でも、これは――おそらく、玖苑くおんの二の舞のような……


***

8/9ページ
いいね