6話:夢明の悲劇
俺達が部屋の中に入ると、そこには誰もいなかった。
ただ、誰かの荷物は残されている事から俺達が来る前に部屋を出たのだろう。
テーブルの上には、いくつかの薬品と道具…それと、メモ書きされたたくさんの紙類が置かれているようだ。
何処かで見たような薬品ばかりが置かれているのを確認しながら、ふと机に置かれたスリープ状態のパソコンが気になった。
近づいて、真っ暗なモニターに目を向けながらキーを適当にひとつ押してみる。
モニターが点くと、映像ファイルが置かれていた。
その映像ファイルを再生してみると、そこには――
とある施設に侵入した軍人達が、次々と白衣を着た人々や警備していた軍人達を殺害していくところが映し出されていた。
「な…んだ、これは」
血の気が引いていくのを感じながら、俺は思わず呟いた。
――あまりにも酷い、無抵抗の人々が次々と倒れていく……
中には応戦しようとする警備の軍人達もいたが、多勢に無勢で次々と倒れていった。
右穂 も、俺の隣でその映像を…ただ表情無く、見ているだけだ。
一体、誰が撮ったものなのだろうか…?
何が目的なんだ…?
わからないが、この撮影者に怒りを感じる。
右穂 も同じ事を考えていたようで、小さく「許せない」と呟いていた。
見ている事に耐えられなくなった俺は、震える手で映像を止める。
もう見たくない気持ちというか……知り合いが亡くなる瞬間を見せつけられているようで、嫌だった。
「…ん?」
映像を止めて、ある事に気づいた。
この映像の場所は知らない、はずだが……何かで既視感があるような気がした。
いや、知らない場所ではない。
知っている…俺は、この場所を知っている……
「…倉世 様?」
右穂 が心配そうに声をかけてくれたが、この時の俺はそれどころではなかった。
椅子に座り、パソコンのモニターを睨みつけながら…ゆっくりと映像を戻す作業をはじめる。
そして、あるシーンで止めた。
「これは…」
俺の呟きに、首をかしげた右穂 もモニターを見た。
そのシーンには、俺と右穂 …そして、床にしゃがみ込んでいる白季 と白季 を庇うように覆い被さる白衣を着た中年の男。
――そうだ…この、白季 を守ろうとしている中年の男性は……
「珠雨 …先生?」
…間違いない、珠雨 先生だ。
俺の――そうだ…恩師、だ。
そして、この飛行艇を押しつけてきた研究者……
という事は……この映像は、あの現場を――
「…倉世 様っ!?」
右穂 が慌てたように、俺の肩を掴んだ。
そこで、無意識に自分の頭をおさえている事に気づいた。
まだ、微かに頭の痛みが残っている感じだ……
心配そうに顔を覗き込んできた右穂 に、俺は首を横にふってから確認するように訊ねる。
「大丈夫だ…右穂 、この場所はお前も知っているよな?」
「…はい。玖苑 にある研究所の、第一実験室に間違いありません。カメラの位置からして…おそらく棚の上あたりからだと思います」
モニターを見ながら、右穂 がゆっくりと答えた。
右穂 の言葉に、なんとなく記憶にあるような気はする…が、はっきりとしない。
だが、わかった事もある……
俺達が映像にある場所――玖苑 の研究所にいた事。
そこに白季 や珠雨 先生もいた事……
そして、珠雨 先生が死んだ事実。
「キャー!!」
俺と右穂 がモニターに目を向けていると、何処からか女性の悲鳴が聞こえてきた。
一体、何処から…いや、何があったんだ?
ん…ちょっと待て、この悲鳴は――
「音瑠 の…?」
「そのようでございますね…行きましょう、倉世 様!」
悲鳴が聞こえてきた場所への案内を右穂 に頼み、俺達は隠し部屋から駆けだした。
――駆けだしていく2人の姿を、ひとりの軍人が静かに見送っている。
そして、音もなく隠し部屋に入るとモニターに映し出されたままの映像に視線を向けた。
「あの様子ならば、大丈夫だろう…これで、倉世 の記憶が戻るきっかけとなるはず――後は、夕馬 隊長のもうひとつの命をこなすだけ…」
パソコンの、開いていた映像ファイルを閉じる。
そして、ポケットから出した記憶媒体をパソコン本体に挿して、映像ファイルを保存した。
記憶媒体を外すと、またポケットから別の記憶媒体を出してパソコン本体に挿してから保存されていたソフトを使って残っている映像ファイルだけを完全に削除する。
削除用のソフトの入った記憶媒体を外すと、2つをポケットにしまった彼は隠し部屋を静かに出ていった。
***
ただ、誰かの荷物は残されている事から俺達が来る前に部屋を出たのだろう。
テーブルの上には、いくつかの薬品と道具…それと、メモ書きされたたくさんの紙類が置かれているようだ。
何処かで見たような薬品ばかりが置かれているのを確認しながら、ふと机に置かれたスリープ状態のパソコンが気になった。
近づいて、真っ暗なモニターに目を向けながらキーを適当にひとつ押してみる。
モニターが点くと、映像ファイルが置かれていた。
その映像ファイルを再生してみると、そこには――
とある施設に侵入した軍人達が、次々と白衣を着た人々や警備していた軍人達を殺害していくところが映し出されていた。
「な…んだ、これは」
血の気が引いていくのを感じながら、俺は思わず呟いた。
――あまりにも酷い、無抵抗の人々が次々と倒れていく……
中には応戦しようとする警備の軍人達もいたが、多勢に無勢で次々と倒れていった。
一体、誰が撮ったものなのだろうか…?
何が目的なんだ…?
わからないが、この撮影者に怒りを感じる。
見ている事に耐えられなくなった俺は、震える手で映像を止める。
もう見たくない気持ちというか……知り合いが亡くなる瞬間を見せつけられているようで、嫌だった。
「…ん?」
映像を止めて、ある事に気づいた。
この映像の場所は知らない、はずだが……何かで既視感があるような気がした。
いや、知らない場所ではない。
知っている…俺は、この場所を知っている……
「…
椅子に座り、パソコンのモニターを睨みつけながら…ゆっくりと映像を戻す作業をはじめる。
そして、あるシーンで止めた。
「これは…」
俺の呟きに、首をかしげた
そのシーンには、俺と
――そうだ…この、
「
…間違いない、
俺の――そうだ…恩師、だ。
そして、この飛行艇を押しつけてきた研究者……
という事は……この映像は、あの現場を――
「…
そこで、無意識に自分の頭をおさえている事に気づいた。
まだ、微かに頭の痛みが残っている感じだ……
心配そうに顔を覗き込んできた
「大丈夫だ…
「…はい。
モニターを見ながら、
だが、わかった事もある……
俺達が映像にある場所――
そこに
そして、
「キャー!!」
俺と
一体、何処から…いや、何があったんだ?
ん…ちょっと待て、この悲鳴は――
「
「そのようでございますね…行きましょう、
悲鳴が聞こえてきた場所への案内を
――駆けだしていく2人の姿を、ひとりの軍人が静かに見送っている。
そして、音もなく隠し部屋に入るとモニターに映し出されたままの映像に視線を向けた。
「あの様子ならば、大丈夫だろう…これで、
パソコンの、開いていた映像ファイルを閉じる。
そして、ポケットから出した記憶媒体をパソコン本体に挿して、映像ファイルを保存した。
記憶媒体を外すと、またポケットから別の記憶媒体を出してパソコン本体に挿してから保存されていたソフトを使って残っている映像ファイルだけを完全に削除する。
削除用のソフトの入った記憶媒体を外すと、2つをポケットにしまった彼は隠し部屋を静かに出ていった。
***