6話:夢明の悲劇

「君さ…僕を待たせておいて、何処に行っていたの?」

ラウンジ近くの通路にある長椅子に腰かけた白金色の髪をした青年が、むすっとしたまま言った。

「せっかく少しの間、別行動する時間がとれたのに…」
「まぁまぁ、そう言うなって…白季しらき

白金色の髪をした青年・白季しらきの言葉に、苦笑しながら答えたのは帽子を目深に被った軍人だ。
白季しらきの隣に腰かけると、声を潜めるように言葉を続ける。

「そうそう、倉世くらせに会ったぞー…俺は、お前の為にきちんと時間を稼いだだろう?」
「うー…まぁ、その点に関しては感謝するよ。僕はまだ、倉世くらせに会うわけにはいかないからなぁ」

うなだれ気味に答えた白季しらきは、何かを思い出したように帽子を被った軍人に訊ねた。

「ぁ、夕馬ゆうま…もしかして、塑亜そあを呼んだのかな?」
「んー…ちょうど出張帰りだったらしいが、頼んだら二つ返事で協力してくれたぞー」

帽子を目深に被った軍人・夕馬ゆうまは、笑いながら答えた。

…実際は「二つ返事で協力」ではない。
それは遡る事、数時間前…ちょうど、倉世くらせが挨拶をしていた頃――

夕馬ゆうまは誰にも気づかれないよう、ラウンジ前の通路に隠れるように立っていた。
そして、離れた場所から倉世くらせの言葉を聞きながら通信機で誰かと連絡を取る。

『――…誰だ?』

通信機の向こうから、不機嫌そうな男の声が聞こえてきた。

「んー…随分不機嫌そうだなぁ、塑亜そあ

口元に笑みを浮かべた夕馬ゆうまが、通信機の向こうにいる男・塑亜そあに声をかけた。
夕馬ゆうまの声を聞いた塑亜そあは、深いため息をつく。

『――その話し方は、夕馬ゆうまだな。何の用だ?俺は今、出張からの帰りなんだが……』
「知ってる知ってる、珠雨しゅうが言ってたから。出張って、確か…湊静そうせいへ行ってたんだよな?」
『――だからどうした?』
「じゃあ、知らないよな?昨夜の事件…」
『――昨夜の事件…?知らんな。何があった?』

夕馬ゆうまは声を潜めるようにして、事件のあらましを伝えた。
すべてを聞いた塑亜そあは、しばらく沈黙してから静かに言う。

『――…そうか。奴らがアレ・・を狙っているのは気づいていたが…まさか、俺が出張へ出るタイミングを狙ってくるとはな』
「本当に、お前っていつも悪いタイミングで急ぎの仕事が入るよなぁー。あはは」
『――笑い事か。で、お前が無事ならば…白季しらき珠雨しゅうも無事だな?』
「あー…残念、珠雨しゅうはな……」
『――…そうか。素晴らしい研究者だったのだがな』
「うん…で、本題だがなー。急ぎ繋がりで、これから夢明むめいの港を封鎖してくれないか?」
『――…おい。急ぎ繋がりって、一体何だっ!?』
「お前にしか頼めるやつがいないんだよねー…理矩りく達には、とりあえず裏切り者と協力者の捜索を頼んでてさ。そもそも、ここに乗ってたらできないし…暇そうなやつの中で、頼める相手がお前しかいないんだよな」
『――暇って、お前っ…後で覚えていろよ!』

怒りで声を震わせた塑亜そあは、ぶっつりと通信を切った――

…その時の内容を話した夕馬ゆうまは、笑いながら口を開く。

「――って、わけでな。塑亜そあは、快諾してくれた」
「いや…それって、快諾じゃないよね?」

苦笑いしつつ、白季しらきは考える。

(着いたら、塑亜そあに絞められちゃうんだろうなぁ。僕も…)

多分、また連帯責任をとらされるのだろうな…と、白季しらきは密かに恐怖していた。
そんな事は知らぬとばかりに、夕馬ゆうまが笑っていると――

「キャー!!」

何処からか、絹を裂くような女性の悲鳴が聞こえてきた。
驚いた夕馬ゆうま白季しらきは互いに顔を見合わせて、悲鳴が聞こえてきた方向へ走りだすのだった。


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