4話:赦されざる咎人
パソコンに向かい、考え込む白衣の男の後頭部に何かが当たる。
――それは、小さな鉄の塊で……
「ふふっ…やーっと見つけたよ。まさか、こんなところにいるなんて…さすがの僕でも気づかなかったよ」
男の背後で、無邪気に笑いながら何者かが言う。
「この飛行艇の隠し部屋を知る者は、本当に少ないから…ねぇ、走水 博士」
「っ…誰だ?」
白衣の男・走水 は、視線だけを後ろへ向けた。
そこには、白っぽい服を着ている――白金色の髪をした人物が、銃口を走水 に向けて立っていた。
走水 は苦笑して、背後に立つ人物へと声をかける。
「ここには…確か、限られた者だけしか入れないはずだけど?」
「そうだね。でも、僕には『コレ』があるから何処でも出入り自由なんだ」
そう答えると、白金色の髪の人物は首にかけた『手のひらサイズの長方形のもの』を見せた。
走水 が視線だけを後ろへ向けて、それ を確認する。
「そ、れは珠雨 教授の身分証……一体、何故?」
「何故…?君なら、その理由はわかっているよね?」
白金色の髪の人物は、持っている銃を走水 の後頭部に何度か当てつつ言った。
その言葉に、走水 は思い出したように息を飲んで口元に小さな笑みを浮かべる。
「…あぁ、そうか。お前は、珠雨 教授のお気に入りの学生――確か、白季 くんか?」
「嬉しいなぁ…僕の事は覚えてくれていたんだね。君、自分が認めた者以外の名前は覚えようとしなかったのに…」
嬉しそうに微笑む白金色の髪の人物・白季 だったが、その目はまったく笑ってない。
「僕の事、少しは認めてくれていた…って事なのかな?」
「…あの珠雨 教授が認めていた、という点で覚えていただけだよ。しかし、今日は一体何の用かな?あぁ、その銃は下してもらえるかい?そのままでは、少々話しにくい…」
自分の後頭部に向けられた銃口を指差して、走水 は困ったような表情を浮かべた。
しばらく走水 の様子をうかがっていた白季 であったが、ため息をついて銃を下げる。
…だが、下げただけで引き金から手を離さない。
走水 は息を吐くと、ゆっくりと振り返った。
「……で白季 くんは何故、私を探していたのかな?」
「なんだか、その余裕な感じも腹が立つなぁ…まぁ、今はいいけど」
室内にあるソファーに腰掛けた白季 は、言葉を続ける。
「いくつか聞きたい事があってね…その前に、いいの?」
「…何が、かな?」
白季 の言葉に、走水 は首をかしげた。
そして、思案するように顎に手をやった走水 はパソコンをちらりと見る。
「あぁ…ならば、少し待ってもらえるかな?」
そう言うとパソコンに向き直り、キーボードをたたいて打ち込んでいく。
返信作業が終わるのを待つ間、何か気になったらしい白季 は走水 に声をかけた。
「ところで、だけど…誰から?」
「綺乃 だよ。あの女、いち早く逃げ出していたのだけど……何故か、今になって連絡をよこしてきた」
キーをたたきながら、走水 が呆れた口調で答える。
そして、数分で返信し終えるとソファーに座る白季 の方を再び向いた。
「…待たせてしまったね。それで、用件は何かな?」
「その前に、綺乃 は何て言ってきたのかな?」
ソファーの肘掛け部分に腕を置いた白季 は、さして興味なさげに訊ねる。
白季 の、そんな様子に走水 が苦笑して答えた。
「なーに、たいしたことではないよ。ただ…私の持つ『あの情報』が欲しいだけ、だろうがね」
「ふーん、君が持っている情報なんて…さほど重要なものではないのにね」
口元にだけ笑みを浮かべた白季 は、肘掛けに置いた方の手で頬杖をつく。
「大体さ、盗み取ったもの……しかも、断片的な資料だけで成功するとは思えないけどね」
「な…ん、だとっ!?」
白季 の言葉に、走水 の顔から笑みが消えた。
そして、怒りをこらえたものに変わり……
「盗み取った、とは心外だな…ここにあるものは、私が襲撃者たちから護った我々の研究成果だ!今回だけ しか参加していないお前に、一体何がわかると言うんだっ!!」
机に置かれた書類や資料を叩いた走水 が白季 を睨みつけ、怒鳴るように言った。
だが、白季 は物怖じせず…そんな走水 の様子に笑う。
「あはは、我々の研究成果 ?笑わせないでくれるかな。君の持つ『それ』は、数年前に一度 完成した時から不完全なもの…君達の成果、と言えるような代物ではないよね」
「…お前、一体何を知っている?」
笑っている白季 の様子で、何かを察した走水 は低い声で訊ねた。
「あれは――確かに、我々が研究し始める数年前から研究されていたものだ……今回初めて参加したお前が、資料に書かれていたもの以外の内容を知り得るはずがない。まさか…珠雨 教授が、極秘事項を話したのか?」
「まさか…さすがの珠雨 でも、研究内容を簡単に口外するわけがないよ」
そう答えて、小さく笑う。
「ねぇ…倉世 も完成させる事ができなかった『それ』を、君は完成させられるのかな?」
「まさか、倉世 から何か聞いたのか…?まぁ、いい…何が足りぬのかは、ここにある資料で大体わかっている。すぐにでも、完成させられるだろう」
目の前のソファーに座る白季 の様子をうかがいながら、走水 は言った。
そして、走水 は『白季 の話の意味』を考える。
(一体、どういう事なんだ?七弥 の話では、倉世 は記憶を無くしているはずではなかったか…?まさか、すぐに記憶を取り戻していたのか…それならば、何故ここ に来ない…?)
黙り込んだ走水 の様子を見て、楽しそうに笑いながら白季 は言う。
「ふふっ…『一体、どういう事なんだ?』と考えているのかな?」
「っ!?」
白季 の言葉に、走水 は小さく息を飲んだ。
その様子に笑みをおさえた白季 は、言葉を続ける。
「図星、顔にそう書いてあるから。なら、すぐにでも完成させてもらおうかな?」
「お前は…一体、何が目的だ?第一、私が素直に協力すると――」
走水 が言い終える前に、乾いた音と共に何かが彼の頬をかすめると後ろの壁に小さな穴が開いた。
驚いた走水 が白季 を見ると、にっこりと微笑んだ白季 が銃口を走水 に向けて撃っていた。
「今のは、わざとだよ…次は当てる」
「…脅しか?だが、今の銃声で誰かがここに来るかもしれないぞ?大体、この部屋は警備という名の監視が何処よりも厳重なのだから」
頬についた血を指でなぞった走水 は、扉の方を視線だけで指す。
だが…白季 は扉の方に視線を向けた後、あまり気にした様子を見せず微笑んだ。
「…いたかなぁ、そんな人達?まぁ…疲れて眠っている人達 なら、何人かいたけどねぇ」
「……なるほど、先に手を打っておいたという事かな?」
苦笑した走水 は、降参だと両手を軽く上げた。
「わかった、お前の言う通りにしよう。ただし……」
「ただし?」
白季 が不思議そうに首をかしげると、走水 はにっこり微笑んで言った。
「私ひとりでは、手が足りない。白季 くん、その銃を下ろして…手伝ってもらえるかな?」
一瞬、驚いた表情を浮かべる白季 だったが口元だけに笑みを作ると銃を下ろした。
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――それは、小さな鉄の塊で……
「ふふっ…やーっと見つけたよ。まさか、こんなところにいるなんて…さすがの僕でも気づかなかったよ」
男の背後で、無邪気に笑いながら何者かが言う。
「この飛行艇の隠し部屋を知る者は、本当に少ないから…ねぇ、
「っ…誰だ?」
白衣の男・
そこには、白っぽい服を着ている――白金色の髪をした人物が、銃口を
「ここには…確か、限られた者だけしか入れないはずだけど?」
「そうだね。でも、僕には『コレ』があるから何処でも出入り自由なんだ」
そう答えると、白金色の髪の人物は首にかけた『手のひらサイズの長方形のもの』を見せた。
「そ、れは
「何故…?君なら、その理由はわかっているよね?」
白金色の髪の人物は、持っている銃を
その言葉に、
「…あぁ、そうか。お前は、
「嬉しいなぁ…僕の事は覚えてくれていたんだね。君、自分が認めた者以外の名前は覚えようとしなかったのに…」
嬉しそうに微笑む白金色の髪の人物・
「僕の事、少しは認めてくれていた…って事なのかな?」
「…あの
自分の後頭部に向けられた銃口を指差して、
しばらく
…だが、下げただけで引き金から手を離さない。
「……で
「なんだか、その余裕な感じも腹が立つなぁ…まぁ、今はいいけど」
室内にあるソファーに腰掛けた
「いくつか聞きたい事があってね…その前に、いいの?」
「…何が、かな?」
そして、思案するように顎に手をやった
「あぁ…ならば、少し待ってもらえるかな?」
そう言うとパソコンに向き直り、キーボードをたたいて打ち込んでいく。
返信作業が終わるのを待つ間、何か気になったらしい
「ところで、だけど…誰から?」
「
キーをたたきながら、
そして、数分で返信し終えるとソファーに座る
「…待たせてしまったね。それで、用件は何かな?」
「その前に、
ソファーの肘掛け部分に腕を置いた
「なーに、たいしたことではないよ。ただ…私の持つ『あの情報』が欲しいだけ、だろうがね」
「ふーん、君が持っている情報なんて…さほど重要なものではないのにね」
口元にだけ笑みを浮かべた
「大体さ、盗み取ったもの……しかも、断片的な資料だけで成功するとは思えないけどね」
「な…ん、だとっ!?」
そして、怒りをこらえたものに変わり……
「盗み取った、とは心外だな…ここにあるものは、私が襲撃者たちから護った我々の研究成果だ!
机に置かれた書類や資料を叩いた
だが、
「あはは、
「…お前、一体何を知っている?」
笑っている
「あれは――確かに、我々が研究し始める数年前から研究されていたものだ……今回初めて参加したお前が、資料に書かれていたもの以外の内容を知り得るはずがない。まさか…
「まさか…さすがの
そう答えて、小さく笑う。
「ねぇ…
「まさか、
目の前のソファーに座る
そして、
(一体、どういう事なんだ?
黙り込んだ
「ふふっ…『一体、どういう事なんだ?』と考えているのかな?」
「っ!?」
その様子に笑みをおさえた
「図星、顔にそう書いてあるから。なら、すぐにでも完成させてもらおうかな?」
「お前は…一体、何が目的だ?第一、私が素直に協力すると――」
驚いた
「今のは、わざとだよ…次は当てる」
「…脅しか?だが、今の銃声で誰かがここに来るかもしれないぞ?大体、この部屋は警備という名の監視が何処よりも厳重なのだから」
頬についた血を指でなぞった
だが…
「…いたかなぁ、そんな人達?まぁ…
「……なるほど、先に手を打っておいたという事かな?」
苦笑した
「わかった、お前の言う通りにしよう。ただし……」
「ただし?」
「私ひとりでは、手が足りない。
一瞬、驚いた表情を浮かべる
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