1話:目覚めの悪夢
「………っ!?」
目を覚ますと、ベッドの上に横になっていた。
白い天井に白い壁、そして白い布団…?
……ここは、何処だ?
辺りを見渡してみたが、白い部屋には誰もいなかった。
起き上がろうと動くと、ズキンと全身に痛みが走った。
ふと自分の腕を見ると、包帯が巻いてあった。
痛む腕を動かして、頭や身体に触れてみた。
…あちらこちらに包帯が巻いてある。
という事は、怪我をして運ばれた…のだろうか?
もしそうならば、ここは医務室か病院のどちらかだろう。
そういえば…何故、怪我をしてしまったのだろうか…?
…記憶にない……
一体、何があったのか思い出せない……
――…それだけではない。
何か、頭の中に靄がかかったように何も出てこない。
…自分が一体誰なのかさえも――
急に不安になり、頭を抱え、名前を思い出そうと必死になった。
思い出そうとすればするほど、ただ頭痛だけが強くなり、それも感じている不安に拍車をかけてくる。
――ガチャ…
突然、ノックもなしに扉が開く音がした。
扉の方を見ると、こげ茶色の癖のある髪をした軍服姿の青年が立っていた。
多分、俺と同じ歳か少し上くらいか…
彼は碧色の瞳を大きく見開き、足早にこちらにやって来る。
そして、俺の頭に巻かれた包帯に触れながら声をかけてきた。
「…目が覚めたようだな。倉世 」
……倉世 ?
目の前にいる、この男は…今、俺の名前を言ったのか?
どう反応していいのかわからず困っていると、青年は不思議そうに首をかしげる。
おそらく、俺が記憶を失っている事を知らないのだろう…
――まあ、言っていないのでわからないよな…
とりあえず、何か言った方がいいだろう…と思ったのだが、まず彼が誰だかわからない。
ここは、直球になるが聞いてみるか……
「なぁ…お前、誰?」
「……は?」
あー…直球過ぎたか?
突然の誰何 に、青年は目が点になっている。
そして、少し間が空いた後に彼は深刻そうに呟いた。
「…やはり、打ち所が悪かったか…?おい、お前はどこまで覚えている?」
「どこまで………まったく、全然。今、お前から自分の名前らしいものを聞いたが、まったくピンとこない」
俺は本当の事を答えたんだが、何故かこの男は疑いの眼差しをこちらに向けてくる。
――はっきり言うが……これは、演技じゃないぞ!!
俺の抗議の眼差しに気づいたのか…彼は何か考え込んでしまった。
そして聞こえないくらいの小さな声で呟く。
「………こんな…で……か?」
「……?何か言ったか?」
聞きとれなかったので、青年に訊いてみた。
…だが、彼は首を横にふる。
「いや…何でもない。俺は、お前の親友 で七弥 だ」
――七弥 …………
この名を聞いても、まったくピンとこない。
そんな俺の様子に青年・七弥 はため息をつき、ベッドの隣にあるチェストの引き出しから手鏡を取り出すとそれを俺に向けた。
「……自分の事も、わからないか?」
鏡に映った自分の姿を見ても、あまりピンとこない。
あぁ、これが俺なのか…という程度だ。
予想通り頭に包帯が巻かれており、右頬――いや、鏡越しだから左頬か…そこに、ガーゼが貼られている。
一体、どんな事態に巻き込まれたら…こんな大怪我をするのだろうか?
「…本当に、まったくなのだな……」
七弥 がそう言うと、鏡をチェストの引き出しに戻す。
というか、俺は全然覚えていないと言わなかったか?
コイツ…まだ疑っていたのか……
「…仕方ない、説明しよう」
七弥 は丸椅子を持ってきて座ると、俺の目を見ながら話しはじめる。
「お前の名前は、倉世 ――我が国の…と言っても、お前は覚えていないだろうが…冥 国の軍人だ――」
冥 国というのは、この世界最北に位置する里遠 大陸の北部に位置する国家らしい。
『ある事件』の重要な目撃者である俺を、本国まで護送している最中らしく…その際、親友である七弥 が護衛役を命じられたそうだ。
「――ついでに、気づいてないだろうが…ここは冥 国軍が所有している飛行艇〈隠者の船〉にある医務室だ」
「そうだったのか……だが、覚えていないのに証人になるものなのか?」
納得しかけた俺は、思わず訊ねた。
証人が完全に記憶を失っているのだから、証言したところであまり意味がないはずだ。
「大体、『ある事件』って何だ?…一体、何があったんだ?」
俺の問いに、七弥 はまったく答えない。
その代わりに、七弥 が新聞らしき紙を差し出してきた。
どうやら、それは号外のようで――受け取って記事を読む。
そこには、こう書かれていた………
冥 国東部にある街、消える!!
――未明の冥 国東部にある玖苑 にて、謎の病が発病した。
この病は、一度発症すると治癒させる事を不可能だという。
事態を重く見た冥 国政庁は玖苑へ派遣し、街を閉鎖、発病した住人を粛清すると発表した。
なお、死者は数百人弱、生存者はいない…
………これは、一体何なんだ?
街ひとつ、自国の軍に滅ぼされた…というのか?
病が蔓延したからといって、粛清するような事なのだろうか?
俺が納得いかぬ表情を浮かべていると、七弥 は俺から新聞を取り上げる。
「…事件が起こったのは、昨日の事だ」
「昨日……で、俺とどう関係している?おれが目撃者だと言ったな…それには、生存者はいない と書かれていたぞ」
「公にされている情報は、多少操作されているものだ。その為、お前が生存している情報も極秘扱いされている…」
七弥 は立ち上がると、壁にかけられていたらしい軍服の上着を取ると俺に向けて放り投げた。
「目が覚めたのだから、それを着ろ…いつまでも寝ているな。お前が丸一日眠っていたおかげで、俺は仕事を倍こなさないとならなかったんだ」
…どうやら、七弥 はかなり怒っているようだ。
――そう言われてもな……
何も覚えていないので、手伝うどころか足手まといになると思うのだが。
それにしても、機嫌の悪い七弥 の視線が痛い。
とりあえず、俺は大人しく上着を着る事にした。
目を覚ますと、ベッドの上に横になっていた。
白い天井に白い壁、そして白い布団…?
……ここは、何処だ?
辺りを見渡してみたが、白い部屋には誰もいなかった。
起き上がろうと動くと、ズキンと全身に痛みが走った。
ふと自分の腕を見ると、包帯が巻いてあった。
痛む腕を動かして、頭や身体に触れてみた。
…あちらこちらに包帯が巻いてある。
という事は、怪我をして運ばれた…のだろうか?
もしそうならば、ここは医務室か病院のどちらかだろう。
そういえば…何故、怪我をしてしまったのだろうか…?
…記憶にない……
一体、何があったのか思い出せない……
――…それだけではない。
何か、頭の中に靄がかかったように何も出てこない。
…自分が一体誰なのかさえも――
急に不安になり、頭を抱え、名前を思い出そうと必死になった。
思い出そうとすればするほど、ただ頭痛だけが強くなり、それも感じている不安に拍車をかけてくる。
――ガチャ…
突然、ノックもなしに扉が開く音がした。
扉の方を見ると、こげ茶色の癖のある髪をした軍服姿の青年が立っていた。
多分、俺と同じ歳か少し上くらいか…
彼は碧色の瞳を大きく見開き、足早にこちらにやって来る。
そして、俺の頭に巻かれた包帯に触れながら声をかけてきた。
「…目が覚めたようだな。
……
目の前にいる、この男は…今、俺の名前を言ったのか?
どう反応していいのかわからず困っていると、青年は不思議そうに首をかしげる。
おそらく、俺が記憶を失っている事を知らないのだろう…
――まあ、言っていないのでわからないよな…
とりあえず、何か言った方がいいだろう…と思ったのだが、まず彼が誰だかわからない。
ここは、直球になるが聞いてみるか……
「なぁ…お前、誰?」
「……は?」
あー…直球過ぎたか?
突然の
そして、少し間が空いた後に彼は深刻そうに呟いた。
「…やはり、打ち所が悪かったか…?おい、お前はどこまで覚えている?」
「どこまで………まったく、全然。今、お前から自分の名前らしいものを聞いたが、まったくピンとこない」
俺は本当の事を答えたんだが、何故かこの男は疑いの眼差しをこちらに向けてくる。
――はっきり言うが……これは、演技じゃないぞ!!
俺の抗議の眼差しに気づいたのか…彼は何か考え込んでしまった。
そして聞こえないくらいの小さな声で呟く。
「………こんな…で……か?」
「……?何か言ったか?」
聞きとれなかったので、青年に訊いてみた。
…だが、彼は首を横にふる。
「いや…何でもない。俺は、お前の
――
この名を聞いても、まったくピンとこない。
そんな俺の様子に青年・
「……自分の事も、わからないか?」
鏡に映った自分の姿を見ても、あまりピンとこない。
あぁ、これが俺なのか…という程度だ。
予想通り頭に包帯が巻かれており、右頬――いや、鏡越しだから左頬か…そこに、ガーゼが貼られている。
一体、どんな事態に巻き込まれたら…こんな大怪我をするのだろうか?
「…本当に、まったくなのだな……」
というか、俺は全然覚えていないと言わなかったか?
コイツ…まだ疑っていたのか……
「…仕方ない、説明しよう」
「お前の名前は、
『ある事件』の重要な目撃者である俺を、本国まで護送している最中らしく…その際、親友である
「――ついでに、気づいてないだろうが…ここは
「そうだったのか……だが、覚えていないのに証人になるものなのか?」
納得しかけた俺は、思わず訊ねた。
証人が完全に記憶を失っているのだから、証言したところであまり意味がないはずだ。
「大体、『ある事件』って何だ?…一体、何があったんだ?」
俺の問いに、
その代わりに、
どうやら、それは号外のようで――受け取って記事を読む。
そこには、こう書かれていた………
――未明の
この病は、一度発症すると治癒させる事を不可能だという。
事態を重く見た
なお、死者は数百人弱、生存者はいない…
………これは、一体何なんだ?
街ひとつ、自国の軍に滅ぼされた…というのか?
病が蔓延したからといって、粛清するような事なのだろうか?
俺が納得いかぬ表情を浮かべていると、
「…事件が起こったのは、昨日の事だ」
「昨日……で、俺とどう関係している?おれが目撃者だと言ったな…それには、
「公にされている情報は、多少操作されているものだ。その為、お前が生存している情報も極秘扱いされている…」
「目が覚めたのだから、それを着ろ…いつまでも寝ているな。お前が丸一日眠っていたおかげで、俺は仕事を倍こなさないとならなかったんだ」
…どうやら、
――そう言われてもな……
何も覚えていないので、手伝うどころか足手まといになると思うのだが。
それにしても、機嫌の悪い
とりあえず、俺は大人しく上着を着る事にした。