3話:憎しみと悲しみと裏切りと…

あれから俺と七弥ななやはお互いをまったく見る事もなく、気まずい状態だ。
はっきり言うと、誰か…ここから俺を連れ出してくれると嬉しい状況だった。
そんな事を考えていると、目の前に人影が現れた。

「――…倉世くらせ

この声の主は、もう何度も俺に話しかけてくるアイツしかいない……

白季しらき……」

この、気まずい状態のこの場に白季しらきが現れてくれたのは嬉しかった。
…だが、あのような発表をしたばかりだ。
白季しらきに何を言われるのか、わからないせいもあって怖かった。

俺の…そんな心配事など知らない白季しらきは、いつものやわらかな笑みを浮かべると俺の顔を覗き込んできた。

「…大丈夫だったかい?」
「ぁ、あぁ」

突然で驚いたが、白季しらきの問いに頷いて答えた。
俺の返事で安心したように微笑んだ白季しらきが、俺の隣に座る七弥ななやを見る。

「…大胆な事をしたね、七弥ななや?」
「何の事だか……」

小さく笑みを浮かべた七弥ななやは、白季しらきに目を向けながら答えた。

「…貴方は、読んだのでしょう?あの紙に書かれている内容を――」

どうやら、七弥ななや白季しらきが俺に紙を返した瞬間を見ていたらしい。
――あぁ…そうだった。
ラウンジへ向かう前に七弥ななやから渡された紙を、こっそり俺のポケットから抜き取った白季しらきはあの内容を誰よりも先に知っていたはずだ。

七弥ななやの言葉に、白季しらきが口元に笑みを浮かべる。

「君、やっぱり気づいていたんだね。うん、僕は読んだよ…ねぇ、倉世くらせ?」
「ぁ…あぁ、俺が見る前にな」

微笑みながら同意を求める白季しらきに、俺は頷く事しかできなかった。
七弥ななやがこちらをちらりと見た後、白季しらきに視線を戻す――

……気のせいか、睨まれた気がするぞ?

「ふふ…もしかして、僕に見てほしくなかったのかな?」
「…部外者に、公表前のものは読まれたくないでしょう?」

むっとした様子の七弥ななやが、事務的に答えた。

「一体いつ、倉世くらせから奪ったのか…わからないですが、困ります」
「…そうだよね。ごめんね、七弥ななや

悪びれた様子もない白季しらきは、微笑みながら七弥ななやに謝罪する。
そして、そのまま七弥ななやに近づくと耳元で何かを囁いた。
俺には、まったく――白季しらきが何を囁いたのかは聞こえなかったが、何か…七弥ななやの気に障る事を言ったらしい。
七弥ななやは怒りを押し殺したまま立ち上がると、そのままラウンジから出ていってしまった。

「…………」

一体、何が起こったのか……
俺にはわからず、七弥ななやが去った方向に目を向けていると…

「あれ…怒らせてしまったかな?」

白季しらきが困ったような表情を浮かべると、小さく呟いた。

「――僕は、そんなつもりなかったんだけどね…」
「一体、何を言ったんだ?七弥ななやに……」

俺は白季しらきが何を言ったのか――それが気になって訊ねたのだが、白季しらきは苦笑したまま、何も答えなかった。


***


(…何故、知られていた?)

七弥ななやは、ただただ足早に通路を進んでいた。
その間も、白季しらきの囁いた言葉が頭の中で繰り返される。

(公には発表されていないあの情報・・・・――あの街の生き残り達でさえ知らない、倉世くらせが読んだ紙にも…そして、希衣沙きいさもそれだけは口にしなかったあの事実・・・・を何故?)

不意に立ち止まった七弥ななやは、窓の外の景色に目を向けた……
外の景色はすっかり夜の闇に包まれ、星空以外は何も見えない。

(――そもそも、アイツら・・・・はそれだけの事をやったんだ…責めを受けるべき事だろうがっ!!)

窓ガラスに映る表情は、怒りと憎しみを織り交ぜたものになっていた。

(しかし、あの場にいた者達は全員始末された・・・・・・・・・・・・・・・・と聞いている…目撃者がいるはずはない――だが、何故…?うまく逃げおおせたのか、はたまた誰かが見逃したのか…?)

小さく息をついた七弥ななやは、再び歩きはじめる。

(どちらにしろ…倉世くらせに、余計な事を吹き込まれないよう手を打っておいた方がいいかもしれないな)

通路の突き当りに辿り着いた七弥ななやは、目の前にある扉に触れた。
触れると同時に扉が開くと、そこはソファーと簡易ベッドなどが置かれた部屋だ。

そこに入ると同時に、七弥ななやは密かにため息をついた。


***

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