0話裏:ほの暗き目覚めの時

仕方がないので倒れている子供の傍へ近づくと、息子ははじめて父親の存在に気づいたようで小さく「パパ?」と呟いた。

倒れている子はすでに息をしておらず。首の骨を折られて死んでいるようだ。
その細い首には、小さな手の跡がくっきりついていた……

子供は、今は死んでいるのだが…おそらく『薬』の効果も相まって早々に再生して息を吹き返すだろう。
なので小さな身体に、持っていた注射器を一本刺して中身を入れた――これで、この子が誰かを傷つける事はない。

嵯苑さおんの行動を見ても、何の声も上げない息子の腕を引いて廊下に出た。
一体何があったのかを息子に問うと、どうやら彼は体調を崩した子を心配して三階へ向かったが何処にもおらず二階へ降りたのだという……

二階に行くと突然扉が壊れて、中から友達が顔を出して手招きしてきたらしい。
そして部屋に入るといきなり首を絞められ、気がつくと友達がぐったりと倒れていたのだという話を嵯苑さおんは静かに聞いていた。

「…そうか。大丈夫、さっきパパが元気になるお薬を入れてあげたから少ししたら元気になるよ。だから、君も元気になるお薬の注射をしてひと眠りしようね」
「うん…ねる…パパ、おやすみなさい」

そう答えた息子の細い腕に、新たに出した注射器を刺して薬を入れる。
そして小さな身体を抱き上げて、あやすように優しく背中をぽんぽんとたたいた。
ゆっくりと瞼を閉じた息子の顔を見て、嵯苑さおんは静かに涙を流す――これで、我が子は眠るように逝けるのだと安堵と悲しみを感じながら。

最愛の妻に似た茶髪を手櫛を通すように、優しく撫でた嵯苑さおんは声をださずに小さな身体に顔を埋める。

我が子は防御本能で叔父や友人を攻撃してしまったのだろう、と生命尽きた小さな身体を抱きしめたまま彼は考えた。
おそらく【戦闘人形】として、息子はほぼ完成しかかっていたのだろう…それこそ、珠雨しゅうの言っていた「あの時代では、ついぞ誕生しなかった兵器が現代になって完成しようとしている」という言葉そのままの意味で。

何故、大昔の負の遺産で苦しめられなければいけないのか…脳裏に浮かぶ言葉を飲み込んで、再び我が子を強く抱きしめて泣いた。

しばらくそうしていたから、ふと腕時計を確認する――すっかり夜になってしまっていた。
我が子を壁に寄りかかるように座らせ、首の折れた子をベッドへと横たえて胸元に手を組ませる。
静かに黙祷を捧げて、壊れていた扉を申し訳程度だが閉めておく。

そして空き部屋からシーツを持ってくると、眠っている・・・・・我が子にかけた。

「…少し待ってなさい、上の階のみんなも休ませてくるからね」

嵯苑さおんは一度四階にある院長室へ戻ると、注射器に薬物を入れて用意する。
もちろん、下の階にいる患者の人数分と余分分を白衣のポケットに入れた。
本数が多いと、ポケットから見える注射器がすごいなと密かに思う。

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