0話裏:ほの暗き目覚めの時

嵯苑さおん珠雨しゅうと別れてから院長室へ向かい、【戦闘人形】を内側から壊す薬の入った注射器を何本か用意した。
本当なら一族の者達の承認がいるのだが、今はそう言っていられない状況である。

最近、息子と仲良くなった子供達は五人…その内のひとりは体調を崩し、【戦闘人形】化が急激に進行してしまったのだ。
おそらく偽医師の仲間が何かを――そういえば『あれ』が減っては増えを繰り返しているという報告を受けたな、と思い出した嵯苑さおんはある可能性に気づく。
珠雨しゅうも何か気にしてか、何度も『薬』を調べては改良した特効薬をひとつ届けに来ていた…その時は早い頻度で持ってこなくても、と思ったが今回のような事を警戒してだったんだろう。

一時的になくなっていた『薬』は持ち出されたわけじゃなく、早い段階で【戦闘人形】化しつつある患者のいる病棟に撒かれていた――それも、ほんの少しずつをこぼしておけば誰も気づかない。
だから息子の歳下の友人が体調不良で倒れたのだろう…そして、傍にいただろう息子と残りの子供達も同様に。

用意した注射器を白衣のポケットに入れ、デスクの上に置かれた写真立てに目を向けた。
写真に写っているのは生まれたばかりの息子を抱きしめた最愛の妻の、元気であった頃の最後の姿だ。
この写真を撮った翌日に【戦闘人形】化がはじまったのだ、玖苑くおんの住人ではなかったというのに。
調べてみると、彼女の祖父母、両親共に玖苑くおんの人間の血を引いていた…いわゆる先祖返り、だった。

「…すまない」

そう呟いた嵯苑さおんは写真から視線を逸らし、院長室から出て息子の病室へ向かう。
息子の部屋は特別室で、院長室のある四階と同じ階にあるのだ。
もしかすると息子はベッドに座ってつまらなそうにしており、自分の姿を見て文句を言うかもしれない…それをなだめて最期の時を過ごすのもいいかもしれない。

息子の部屋の扉をノックし、名前を呼びながら入った嵯苑さおんが動きを止めた。
室内は血で汚れており、床には血だまりがあった。
そして、その血だまりの上に倒れているのは自分の代わりに息子を見てくれていた叔父だ…すでに事切れているのはひと目見てわかった。
彼の喉が切られているらしいので、おそらく即死だっただろう。
凶器はおそらくだが、部屋にあったおもちゃのどれかだろうと思う…おもちゃが全部壊れているので、どれなのか断定できない。

「…一体何処へ?」

息子の姿が部屋にはない、という事は院内の何処かへ行っているのだろうが血で足は汚れていなかったのか足跡などなかったせいでわからなかった。
向かうとしたら売店か、友人達の病室か休憩室かくらいだろう……

心当たりといえば友人達の病室かもしれない、と部屋を出る前に亡くなった叔父へ頭を下げて三階へ向かった。
三階までは西の一般病棟、東の隔離病棟と分かれており連絡通路が各階にあるのだ。
ちなみに、院長室のある四階は東側のみである。

_

13/18ページ
いいね