0話裏:ほの暗き目覚めの時

すでに『薬』の効果がでてしまっているのか、患者の何名かの様子もおかしいのだと。
一族の医師や看護師が総出で対処しているのだが、このままでは一般病棟に影響が及んでしまう…ただでさえ、玖苑くおんの住民は【戦闘人形】の因子を持っているというのに。

「…わかりました。嵯苑さおんさん、落ち着いて」

混乱気味の嵯苑さおんの肩に手を置いた珠雨しゅうは、彼を落ち着かせようと優しく言葉を続ける。

「とりあえず、まず研究者メンバー全員を集めて情報収集しましょう。もちろん裏で特効薬の用意を急がせるので、症状が軽い者から投与していき…事態を、これ以上広げないようにします」
「重い者や、兵器化した者は…先輩、どうするつもりですか?」

軽い者は珠雨しゅうの用意する特効薬で助かるだろうが、それ以外の――息子を含めた患者達はどうなるのか?

本当は頭ではわかっている、どうすれば最善の策になるのかを。
手元にある特効薬だけでは【戦闘人形】化しはじめている患者全員に使用できない、数人分しか量的にできないのだ。

嵯苑さおんは縋るように、珠雨しゅうから現実を突きつけてもらおうと返事を待っている。
珠雨しゅうも何を言ったらいいのかわかっているのだが、少しだけ躊躇いを感じたらしい。
だが、これは避けられない事だからと答える声は沈んでいた。

「…残りの時間がなくなった、と考えてください。やる事はわかっていますよね、嵯苑さおんさん…苦しみから解放してあげるんです、貴方の手で」
「あ、あぁ…」

力なく両膝をついた嵯苑さおんは、珠雨しゅうの白衣を掴んで嗚咽する。
声を押し殺して、絶望の涙を流し続ける彼の赤い髪を優しく撫でた珠雨しゅうは片膝をついて視線を合わせた。

「ずっと貴方はご子息を救う手立てを探していたのでしょう、二十年・・・近くも。その間、ご子息は幼い子供のまま…だから、貴方は『あれ』に縋るしかなかった。【戦闘人形】の機能を狂わせる可能性があったから、という着眼点はさすがです。私を呼んだのは、確証を得たかったから…だから、こちらが用意した被験者のひとりを【戦闘人形】に変えましたね?」
「…様々な論文を読んでいる時に、『あれ』のレポートを見つけたんです。自分なりに作り、一度試したんだ兵器化した者に…そうしたら、一日だけ人に戻ったんですよ。だから、あの男走水が話を持ってきた時はチャンスだと思った…」

もう誤魔化さなくてよくなった嵯苑さおんは、本当の理由を語る――これで、この地獄が終わると思ったのだと。

「その時に作ったものの残りを、ふたりの・・・・被験者に使いました」
「おや、ふたりに…ですか?えーっと、ならあの生き残っているふたりで間違いない?」

もうひとりに関しては、まったく気づかなかったらしい珠雨しゅうは首をかしげた。

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