0話裏:ほの暗き目覚めの時

数日して『薬』を投与された患者の何人かは、急激な変化に耐えられなかったのか死亡してしまった。
それ以外は【戦闘人形】化が進んでしまったので嵯苑さおん達が秘密裏に死なせていた、もちろん走水そうすい達に調べられても気づかれないように死因を変えてだ。
…おそらく、その事に気づいていたのは珠雨しゅうだけだろう。

そして、嵯苑さおんの息子も被験者として選ばれた…というのも、彼の子もほとんど自分の意志で動けなくなっていたからである。
最初は躊躇っていた嵯苑さおんも、息子の残り時間を人らしく過ごさせたくて最終的にカルテを渡したのだ。
嵯苑さおんの息子の存在を知っているのは珠雨しゅう走水そうすいだけだったので、他のメンバーは何故嵯苑が躊躇っているのかわからないようだった。

――『薬』の投与で意識レベルも回復し、自分の意志で動けるまでになったので一定の効果はあるようだ。
嵯苑さおんはその事に安堵しながらも珠雨しゅうに渡された特効薬を毎日息子に投与した、もちろん珠雨しゅう以外に気づかれないように。
そのおかげで彼の息子は車椅子で院内を動き回り、同じく入院している子供達と友達になり遊びまわれるようにまで回復したので嵯苑さおんをはじめとした一族の者達は安堵していた。
残り時間を考えるとわずかな間になるが、その間だけでも人らしく…子供らしく過ごせるように、と見守る事にしたらしい。

だが、そこで事件が起こった――嵯苑さおんの息子が父親の部屋で見つけた医院の地図を元に、立ち入り禁止区域の存在を知ってしまったらしい。
鍵がかけられているので入れないはずが、仲良くなった子供のひとりがピッキングのやり方を本で読んだ事があるとかで鍵を開けてしまい入り込んでしまったのだ。

そこが立ち入り禁止区域になっていた理由は、地下にある研究施設に繋がる場所だったからである。
ここの階段なら、ほとんど人の出入りはない…だから、子供達にとっては秘密基地のような雰囲気があったのだろう。
玩具をたくさん持ち込んで、日中のほとんどをそこで過ごしていたらしい――もちろん帰る時はおもちゃを片付けて持ち帰っているのだが、ある日おもちゃの車やビー玉などを置き忘れて帰ってしまった。
普段なら帰る前に確認をするのだが、遊んでいた子供のひとりが体調を崩してしまい慌てていた為に置き忘れたらしい。

そのせいで事故が――研究者のひとりが『薬』を持ったまま、落ちていたビー玉とおもちゃの車に足を取られダクトに『薬』を撒いてしまったのである。
どうやら『薬』の入った瓶ひとつがダクトの中に飛んで入ってしまい、どうする事もできなかったらしい……それが判明したのが事故から二日経った後だった。
その現場には研究者が何人かいたというのに、転んでしまった研究者を起こして無事に残った『薬』を医院の方へ運んだだけで報告しなかったのだ。

倉世くらせと新人研究員の会話を立ち聞きした嵯苑さおんは顔を青くさせて、どうしたらいいのかわからず珠雨しゅうを頼ろうと考え探し回った。
しばらくして二階にある奥の、検査室から話し声が聞こえてくる事に気づき近づいてみる。
扉が微妙に開いており、静かに覗き込んでみるとそこには探し人である珠雨しゅうの姿があった。
彼は通信機で誰かと話ているようで、嵯苑さおんの気配に気づいていないらしい――一体誰と何を話しているのか、聞き耳をたててみる。

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