0話裏:ほの暗き目覚めの時
遊月13日――この日の朝、走水から訊ねられた嵯苑は返答に困っていた。
「…嵯苑院長、ここ数か月で気づいたのだがね。この医院に入院している者達の大半…君のご子息もだが、同じ病なのだろう?」
「それは――何故、その事に気づいた?全員、症状が違うというのに」
全身の何処から症状がでるのか、個体差がある……
だから、その秘密だけは気づかれないだろうと何処かで高を括ってしまっていたのだ。
そもそも長い間、代々一族で治す方法を探していた――たまたま自分が妻にした女性は因子を持っており、子に遺伝してしまっただけ。
しかも、嵯苑の妻は出産後に発症して一年後に死亡してしまっている。
これは玖苑の街にかけれらた、呪いのようなもの――古の、負の遺産ともいえる不治のもの。
走水は嵯苑の耳元に囁きかける、悪魔のような言葉を。
「この研究は、この街にかけれらた呪いを解くのに役立つはずだよ。だから、彼らにも協力してもらいたい…ご子息の、残された時間の為にも」
…息子だけではない、何人かの患者はかなり進行してしまっている。
おそらく走水は、空いた時間に患者達の容態を調べたのだろう。
彼の言葉はもっともなのだ、時間がない…このままでは、息子達は大切なものを失い終わってしまうのだ。
「わかった、何人か末期の患者を渡す…すでに家族もなく、問題になる事がない者を」
「――待ってください、約束が違います。そんな危険を冒す必要はないでしょう?」
走水との会話を聞かれた嵯苑は内心で舌打ちするが、それを表にださず表情なく反論する。
「そもそも、今回の被験者は戦闘訓練を受けていた者達ばかり…珠雨先輩も、そこが気になっていたのでは?」
――このままでは、たいした成果もなく残りの被験者も使えなくなって終わってしまうのだから。
嵯苑の言葉に、難しい表情を浮かべる珠雨は何も答えなかった。
近くにいた倉世にも意見を求めようと走水が訊ねるも、珠雨から説明を聞いた後に困った表情を浮かべるだけで何も答えない。
結局会議にて話し合い、多数決で患者を使う事が決まった。
その準備をする最中に、珠雨は嵯苑の腕を引いて別室へ向かう。
そして嵯苑を部屋に押し込んで自分も入ると、後ろ手で素早く鍵を閉めた。
「何故、わざわざ危険な橋を渡るんです?これが露見したらどうなるか、わからない貴方ではないでしょう」
「わかってますよ。でも時間がない…この医院が何の為にあるのか、貴方は知らないでしょう?だったら口出ししないでください!」
目の前に立つ珠雨を押しのけた嵯苑に、とても小さな言葉が聞こえてくる。
「……ってました」