0話裏:ほの暗き目覚めの時

先輩である珠雨しゅうが訪れて一体どのくらいの時間が経ったのか、と思った嵯苑さおんはちらりと時計を確認する。
時刻は、まだ0時てっぺんを回った辺りだった…え、本当に寝ないつもりなのか?自分はそろそろ休みたいところなのだが。

珠雨しゅうの方に、ちらりと目を向けてみるが本人はけろりとしていた。
もしかして、ここへ来る前にひと眠りしてきたのか…それより学舎の教授職というのは、自分が思っているのと違い暇なのか?
そんな訳ないだろうが!周りが気の毒な事に絶対なってるだろう。

心の中で自分にツッコミを入れつつ、お茶のボトルを開けて飲む…いや、そもそもこの院長室にお湯の入ったポットと茶葉があるから下でわざわざ買ってこなくても大丈夫なんだが。

――わざわざ買ってきたのは、もしかして本当に話がしたかっただけなのかな?

目の前に座る男の様子をうかがいみるが、昔から知る感情の読めない顔のままこちらに目を向けている。
自分が学生の時は、何を考えているのかわからず振り回されて大変だった。
きっと准教授である、あの青年――確か、塑亜そあと名乗っていたか。
彼も教授である珠雨しゅう先輩に振り回されているのだろうな、そう考えると親近感のようなものを感じる。
おそらく大変な思いをしているだろうから、後で差し入れを持っていこう……

「おや、嵯苑さおんさん…どうしました?ボーっとしていますが」
「…時間的に、ボーともしますが?昔から先輩は本当に眠くないんですね、学生時代から気になってましたが」

珠雨しゅうから声をかけられて、嵯苑さおんははっとした様子で答えた。
遠回しに、そろそろお開きにしたいと言ってみたのだが相手は何処吹く風のようだ。
それに、学生時代――寮生活でよく珠雨しゅうと共に課題やレポート作成などやっていた時から気づいていたが、彼は数日寝なくても平気そうだった。
一度真似てみたが3日目で保健室送りとなり、養護教諭をはじめとした教師陣に説教された事は今でも穴を掘って隠れたくなるくらい恥ずかしい思い出のひとつだ。

――選択した科は違っていたが、この人に負けたくなくてがむしゃらにやってきた学生時代だった。
総合成績はいつも彼のひとつ下で、卒業するまで一度も勝てなかった…という嫌な事まで思い出してしまったじゃないか。
だから夜更かしするのは苦手なんだ、と心の中で深くため息をついた。

「先輩…昔からわからないのですが、どうして私をかまうんですか?」

接点と言えば寮の部屋が隣で授業の席は自由なのに隣に座っていたし、食堂でもよく一緒になっていた。
年齢は、ふたつしか違わなかったはず。
気づくと自分をかまってくる彼の存在が日常の一部にまでなっていたのだ、不本意ではあるが。

「うーん、自分に似ているなーと思ったのがはじまりでしょうかね?湊静そうせい国の国立学園から編入したばかりで、私も心細かったんです」

首をかしげた珠雨しゅうは、当時の事を思い出しながら答えた。
嵯苑さおんは思った、自分と似ている?心細かった?何を言っているんだ…先輩と似ているとしたら警護でいる夕馬ゆうまという軍人だし、心細い人間がひとりで間違いを教えた教師と丸一日やり合わないだろう。
一体誰の話をしているんだ、と。

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