0話:終焉の街

気がつけば、それから二ヶ月経った郁月いくつきの上旬…外は夏の暑さも和らぎ、木々は秋の色合いに染まっていた。
…この頃には用意された被験者も数は減り、今はもう三名しかいない。
さすがに、仲間達がいなくなる過程を見ていたからか…抵抗らしい抵抗もなく、かなり大人しくなっていた。

珠雨しゅう先生の配慮か…走水そうすい博士と単独で会う事が減っていたので、おそらく白季しらきから話を聞いたのだろう。
向こうから接触してきたあの日以降、こちらが警戒を強めているのに多分気づいたからか…二度目の接触はなかった。
どちらかといえば綺乃あやの女史と会う方が多いので、最終日まで接触はないだろう。
――まぁ、俺の答えはもう決まっているものだがな。

ただ、この綺乃あやの女史も何か隠している節はある気がした。
そもそも、どうしてこの実験に参加したいと自分の研究室の者達を連れて来たのだろうか?
夕馬ゆうま理矩りくから聞いたのだが、走水そうすい博士の研究室と綺乃あやの女史の研究室を出入りする研究者達が雑談の中で話していたらしい…何処にでもおしゃべりなやつはいる、という事か。

瀬里十せりとの方は、呼び出し回数がかなり減ったようだ…どうやら、副院長が派遣の回数を減らしたらしい。
おかげで特効薬の方は、こちらの送る資料を元に造れているという話を珠雨しゅう先生から教えてもらったのでひと安心はしている。
――しかし、急にどうして派遣回数を減らしたのだろうか?
もしかして、探りを入れているのに気づかれたか…と考えたが、向こうの主治医から止めてほしい旨が伝えられたそうだ。
そりゃそうだよな、と俺は納得してしまった。

25日の夜半過ぎ、俺が仮眠用のベッドで休んでいると白季しらきに起こされる。
彼の手にはココアを淹れたカップがあり、それを俺に差しだした。
一体どうしたのか、寝ぼけ眼で訊ねると白季しらきは困った様子で声を潜める。

夕馬ゆうまから連絡…瀬里十せりとと連絡が取れなくなって、様子を見に行くと医院で患者に襲われていたって。どうも患者のふりをして襲撃されたみたいだよ」

怪我はひどくないが、意識不明な状態だと言葉を続けた。
予想していたが、まさか患者のふりをしてまで邪魔したいのか…考えると頭が痛くなってくる。

優しい甘さのココアと衝撃的な報告で、完全に目が覚めてしまった。

「…それで、瀬里十せりとが抜ける穴はどうする?」
「しばらくは真宮まみやが兼任して采配するみたいだけど、後任はまだ決まってない…瀬里十せりとは容態が落ち着き次第、しばらく姿を隠させるってさ」

もう、ほぼ容態は安定しているので瀬里十せりとを《闇空の柩》傘下の医院へ移すそうだ。
誰の仕業なのか…第一容疑者として考えられるのは、くだんの副院長くらいか?
わかりやすく邪魔をしていたのは彼くらいなので、今のところ容疑者として名があがるだろう。

倉世くらせも気をつけて…僕、なんか嫌な予感がするんだ。起こしてごめんね、ゆっくり休んで」

それを伝えたかったから…と言って、白季しらきは部屋を出ていった。
多分、この件で隣の部屋にいる夕馬ゆうまに呼ばれているのだろう…なので、部屋には俺ひとりだけだ。

白季しらきも言っていたが、とても嫌な予感がしていた。
できれば俺達の予感が外れて、最後日まで何事もなければいいのだが――


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