0話:終焉の街

少し遅めの昼食を終え戻ってきた俺と白季しらき珠雨しゅう先生と塑亜そあ先生は会議室で被験者の情報が書かれたカルテを見ていた。
どうやら全員、死傷者が多数出た凶悪な事件を起こした為に死刑判決を受けたようだ。
彼らは刑執行によって死亡後、遺体を引き取る身内もおらず…戸籍上でも死亡処理されている。
つまり、ここに連れてこられた時点で彼らの運命は決まっているようなものだ。

とりあえず初日は、被験者六名をもう一度診察しただけで終えた。
――ひとりを除いて健康には問題ないようだ…が、最終的に何人生き残るのだろうか?
彼らはまだ目覚めていないので、これ以上は何もできなかった。
薬を投与してから身体の変化については、さすがに機材だけで測れない。

その後、眠っている被験者達をそれぞれ独房へ入れた…もちろん、彼らの拘束だけは必要最低限動ける状態のままにしてだ。

俺達は地下研究所にある、いくつかある仮眠室のひとつを借りる事となった。
同室者は白季しらき珠雨しゅう先生と塑亜そあ先生で、警護をする夕馬ゆうま達は隣の部屋を借りたようだ。
まぁ、夕馬ゆうま達は任務があるので休む時間はあまりないだろう……

先日までの疲れが出たのか、日記を書き終えた俺は寝台に入ってすぐ眠ってしまったが…白季しらき塑亜そあ先生は、まだ起きていて何やら小声で話し込んでいる様子だった。
珠雨しゅう先生は嵯苑さおんと少し話があるからと言って、ふたりで院長室で夜通し何やら話し込んでいたらしい――と、翌日に白季しらきから聞かされて知った。
夜通しというが…おそらく、明け方まで話をしていたのではないだろうか?
珠雨しゅう先生はけろりとしていたが、嵯苑さおんの方は少し眠そうだった。


2日目は、被験者達からの罵倒ではじまった…というか、何故か重犯罪者に誘拐犯扱いを受けたので夕馬ゆうまが爆笑していた。
笑いのツボに入ったらしく、笑いすぎて酸欠気味になっていた…もちろん、邪魔になるからと塑亜そあ先生に蹴りだされていたが。

刑が執行され戸籍上で死んでいる事、これからおこなう実験についてを走水そうすい博士がわかりやすく説明していた。
彼らから『人権を無視したおこない』だと非難されたが、死んでいる彼らはすでに人としての権利などないに等しい。

あまりにうるさい被験者ひとりには、仕方なしに睡眠薬で眠らせて原型オリジナルの薬を投与した。
眠っているのでどういった変化が起こるのか…まったくわからないので、強固な拘束に変えて独房に戻す。

そして、残りの被験者五名の内二名に走水そうすい博士のチームが改良した薬を投与してから全員を独房へ戻した。
まずは綺乃あやの女史と研究者数人で経過観察をし、その報告書を走水そうすい博士と共に読んで今後の予定を組んだ。

原型オリジナルの薬を投与された被験者は夜になって全身の痛みを訴え、全身を拘束されたまま暴れていた。
おそらく全身筋肉痛のような症状がでているのだろう…が、このまま騒がれては他の被験者を怯えさせてしまうかもしれないので鎮静剤を与えて大人しくさせておく――あの様子だと、あまり長い時間は持たないだろう。


3日目からは先に薬を投与した被験者三名の経過観察をしながら薬を改良し、まだ投与していない被験者に使用する事となった。
すでに投与済みの被験者も含めて、必要に応じて薬を再投与したり…診察や治療したりと同時進行でおこなわなければならない。


ひと月くらい、そんな作業を繰り返しおこなっていた。
原型オリジナルの薬を投与された被験者に関しては、筋肉が増強され通常の拘束では捕らえていられなくなってしまう。
何度か拘束具を破壊して逃げ出そうとしたので、その度に夕馬ゆうま達が『猛獣用の拘束具』を使用して独房に戻していた…ただ、その拘束具で何時いつまで抑えられるのかわからないが。


霞月かづきの中旬、原型オリジナルの薬を投与された被験者が『猛獣用の拘束具』を壊して独房から逃げ出そうとした。
いや、本人に逃げ出す意志はもうないだろう――意識の方が、先月末くらいから混濁し始めていたのだから。
意外に持った方かもしれない…だが、このままでは危ない。
責任者である嵯苑さおんと、走水そうすい博士と塑亜そあ先生の許可が下りたので夕馬ゆうま達が何らかの方法で処分をした。
処分した被験者の骸は、今回どのような変化を起こしたのか調べる為の検体となる。

ひとり処分された影響か、残りの被験者達があまり抵抗しなくなった…おそらく、抵抗したらすぐ殺されると考えたのだろう。


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