12話:永久の闇への旅路

学舎の門を出ると、黒い普通車が歩道こちら側の後ろのドアを開け…運転手らしき男が、誰かを待っているようだった。
朝から誰かの迎えとは大変だな、と横目に足早に立ち去ろうとしたが――

「えーっと…もしかして、お前が七弥ななやか?」

突然声をかけられ、俺は立ち止まって車体に寄りかかる男を確認する…が、知り合いではなかった。
その人物…納戸色の髪に黄緑色の瞳をした男は、少々不満げな様子でもう一度問いかけてくる。

「聞こえてる?七弥ななや、で間違いない?」
「……」

このタイミングでの名指しである…疑うな、という方が無理な話だ。
逃げるべきだろう、と判断したところで相手が口早に言ってきた。

「いや、わかるけどな…逃げたくなる気持ち。でも、こっちは真宮まみやの坊ちゃんに頼まれてるんだ…詳しい話は中でするから乗って」

真宮まみやの事を坊ちゃんと呼んでいるが、年齢的にはあまり変わらない気もするんだが?
この男、一体何者…って、多分《闇空の柩》のメンバーなのだろうな。

右手親指でドアの開いている後ろの座席を指す彼の目は、何故か据わっていた。




「あぁ、ちゃんとシートベルトして持ち手に掴まって…後ろの、撒くから」

運転席に座った男が言うが早いか、アクセル全開で車を走らせる――おかげで、隣の座席に置いた荷物が全て転げ落ちてしまった。
慌てて車の持ち手を掴んで、後ろをこっそりと確認した俺は息を飲んだ。
門を出たばかりで気づかなかったが、いつの間にか待ち伏せされていたらしい…数台の白い普通車が、この車を追ってきていた。

数十分くらいやみくもに走り回り、なんとか白い車を撒けたようだ…運転している男もそれに気づいたのか、車のスピードを通常の速度にする。

「あーもう、僕はこの国の道事情とか知らないってのに…知治ともはる、暇ならナビしろ!」

乗った時、それがある事に気づかなかったが…運転席と助手席の間に置かれている通信機に向け、彼は知治ともはるに呼びかけた。
すぐに、通信機のスピーカーから呑気そうな笑い声と共に知治ともはるが返事をする。

『――えー、何…朔人さくひとさん、冬埜とうや様に置いてかれたわけ?まぁ、ナビくらいなら俺にお任せをー!』
「違う、冬埜とうやに置いてかれたわけじゃない…明日には、この国を離れる予定。そもそも、珠雨しゅうの荷物を片付けに来ただけだというのに……」
『――あー、学舎研究室の方にあったやつ?そっちは俺が行けねーもん、仕方なくない?で、終わったところを真宮まみや様に頼まれたわけか……ごしゅーしょーさまー』
「うるさい!真宮まみやの坊ちゃんといい、お前といい…はぁ。少しの間、こっちの話に入らずナビゲートだけしてろ」
『――ん、りょーかい!』

そう答えた知治ともはるは通信を切ったようだ…が、ナビを頼まれたのではなかったか?
首をかしげた俺に、男…確か、朔人さくひとと呼ばれていた彼がバックミラー越しからこちらを見た。

「紹介が遅れてしまったけど、僕は朔人さくひと…《闇空の柩》に属する〈狭間の者〉だ。さっきも話した通り、この国を拠点としてないので道はわからない」
「……もしかして、夢明むめいの港が爆発する前に飛び立った飛行艇に乗ってきたのか?」

あの正体不明の飛行艇が何なのか、気にはなっていた――一体、何時いつから停泊していたのかも……

肯定するように頷いた朔人さくひとが、その飛行艇で零鳴れいめい国から来たのだと教えてくれた。
…つまり、あの飛行艇は零鳴れいめい国籍という事か。

国同士の問題など大丈夫なのか、という問いには…早朝な上に港があんな状況ではわからないだろう、と朔人さくひとは答えた。
まぁ…何かしらの対策はしたのだろうと考え、朔人さくひとに気になった事を訊ねる。

知治ともはるは静かだが、きちんとナビをしているのか…?」
「ん、あぁ…運転席こっちのパネルに、知治あいつが安全な道を探って表示してくれてるから大丈夫だよ」

おそらく、知治ともはるがあちらこちらの監視カメラに繋いで確認しているから安全は確保できているだろうという。
何と言うか…無駄に、秘密警察で培ったやり方をフル活用しているなという感想しか思い浮かばなかった。

つい物思いにふけっていると、朔人さくひとが不思議そうな表情を浮かべて訊ねてきた。

「そういえば、お前…追われてるってのに、妙に冷静だね。老婆心ながら言うと、そんな状況に慣れるなよ?」
「いや、慣れているわけではないが……まぁ、こうなるのは時間の問題だと思っていた。何処からの追手なのかも、なんとなくわかっているつもりだ……」

遅かれ早かれ、俺の存在が消えている事はバレるだろうと考えていたので想定内ではある。
ただ、俺が国立紫要学園学舎に向かっていた事を読まれていたのには驚きだが……

「ふーん…まぁ、いいや。僕としてはお前を無事に送り届けて、冬埜とうや紫麻しあさのところに帰れればいいし……」

それだけ言うと、朔人さくひとは運転に集中しているのか…何も語らなくなった。
この国の道事情は知らないと言っていたので、ナビがあるとはいえ大変なんだろう……邪魔にならないよう、静かに窓の外の景色を見るだけにした。



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