6話:王女と従者と変わり者と…
王女がルカリオに促され、城へ帰ってから数十分後。
セネトは、まだクリストフの部屋にいた――いや、正確に言うと…王女とルカリオが帰る際、セネトは途中まで送ろうと考えていた。
しかし、恐ろしい笑みを浮かべたイオンが逃さぬようセネトの肩に手を置いてそれを阻んだのだ。
その、ただならぬ気配に気づいたルカリオは王女に「早く戻らなければ、抜け出した事がバレる」など言うと足早に帰っていた。
取り残される形となったセネトは内心、置いていかないでと叫ぶしかできず……
「き…キリル叔従父、これは一体…?」
とある光景を目にしたキリルの従甥は、叔従父 に訊ねた。
――というのも、とある用事があってクリストフの部屋を訪れた彼は口元に笑みを浮かべたイオンによって床の上で正座させられ俯いているセネトの姿を見たのだ。
何があったのか知ろうと部屋の主であるクリストフに目を向けると、デスクを背にして窓の外を眺めながらお茶を飲んでいた。
手招きで、困惑している従甥を呼んだキリルが声を潜めて説明する。
「まぁ…見ての通り、イオンが怒りを爆発させただけだ。我が主 は現実逃避されている…ところでヴェンデル、今日はどうした?」
「あぁ、なるほど。それで…いえ、少々クリストフ殿にお話が――」
呆れた視線をセネトに向けたヴェンデルは、キリルに用件を伝えた。
現実逃避しているクリストフに声をかけたキリルは、彼をソファーに座らせると傍らに控える。
クリストフは首をかしげて用があるというヴェンデルの言葉を待っていると、彼は持ってきた書類と紙袋をテーブルに置いた。
「ダンフォース様より書類と、アードレアの薬師が作った胃薬を――」
「うわぁ、ついにあいつにまで僕の胃の心配をされるとは…」
胃薬の入った紙袋を見つめ頭を抱えるクリストフが独り愚痴る傍らで、キリルは紙袋の中を確認してクリストフのデスクの上に置く。
それは別に従甥であるヴェンデルを疑っているわけでなく、従者として当たり前の行動なのだ。
キリルの行動を横目で見ていたクリストフは、置かれた書類に目を通す。
「…そうですか、わかりました。この件は僕の方で引き受けますよ、あいつにもそう伝えてください。ヴェンデル、ご苦労様です。ところで――」
「何か…?」
伝え忘れた事でもあったか…と、ヴェンデルは首をかしげるとクリストフが声を潜めた。
「…その、あなたとテルエルの怪我の具合はどうですか?あの時、少々頭に血が上っていて――帰ってから、姉さん達にやり過ぎだと怒られてしまいました」
申し訳なさそうに俯いたクリストフが、土下座せんばかりに頭を下げて謝罪する。
あの時…クリストフはテルエルの右肩の関節を外した上に多少痛めつけてしまったのだが、それを知ったクリストフの姉達にそれはやり過ぎである事やヴェンデルにもテルエルの痛みが伝わっているのだと説教されたらしい。
知らなかったとはいえ、やり過ぎてしまった事をクリストフは反省したようだ。
一瞬驚いた表情を浮かべたヴェンデルだったが、すぐ無表情に戻すと首を横にふった。
「いや、もうほとんど治癒しているので気になさられなくとも大丈夫。こちらもやり過ぎたので、それとこの事をダンフォース様は知らぬので他言無用に…」
「わかりました…」
深く頷いたクリストフを見て安堵したヴェンデルは、2人と…まだセネトに説教しているイオンに頭を下げて退出する。
――閉ざされた扉を横目で見つめるヴェンデルは、深くため息をついた。
(…やはり、間違いなさそうだな。だとすると――)
***
ここまでにして差し上げましょう…とにこやかに笑うイオンの説教がはじまって1時間半、セネトはずっと正座しっぱなしであった。
なので足が痺れてしまい、セネトは床の上で伸びてしまっている。
「くっそ、足が言う事を聞かねー…」
「だろうな…トラブルメーカー1号」
呆れたように言ったキリルが伸びているセネトの足をつつくと、悶絶しながら床を這った。
「はぁはぁ…てめー、やりやがったな」
「何を言う…こうすれば、早く動けるようになるだろう?」
キリルが意地の悪い笑みを浮かべると、セネトは口元をひきつらせながら何とか逃げようと床を這っていた――
「邪魔をするぞ、クリストフ!セネトを引き取りに来た」
ノックもなしに部屋を訪れた訪問者を、部屋にいた全員が目を向けた。
訪問者の正体は、セネトと同じ赤灰色の髪をした中年男性で…彼が何者であるのか、よく知るセネトは動きを止めて顔が青ざめていく。
中年男性がセネトの父親であると気づいたクリストフは何があったのか訊ねると、彼は「少しな…」と答えて息子 を見た。
「セネト…今夜はゆっくり、じっくりと話をしよう。なぁ…」
目が座っているセネトの父親は青ざめて固まるセネトを担ぎ上げると、クリストフ達に「邪魔したな」と声をかけてそのまま去っていった。
――どうやら、ダンフォースの部屋であった一件の請求書がセネトの実家であるユースミルス家に届けられたらしい。
…届けたのが、テルエルだというのはここだけの話だが。
***
セネトは、まだクリストフの部屋にいた――いや、正確に言うと…王女とルカリオが帰る際、セネトは途中まで送ろうと考えていた。
しかし、恐ろしい笑みを浮かべたイオンが逃さぬようセネトの肩に手を置いてそれを阻んだのだ。
その、ただならぬ気配に気づいたルカリオは王女に「早く戻らなければ、抜け出した事がバレる」など言うと足早に帰っていた。
取り残される形となったセネトは内心、置いていかないでと叫ぶしかできず……
「き…キリル叔従父、これは一体…?」
とある光景を目にしたキリルの従甥は、
――というのも、とある用事があってクリストフの部屋を訪れた彼は口元に笑みを浮かべたイオンによって床の上で正座させられ俯いているセネトの姿を見たのだ。
何があったのか知ろうと部屋の主であるクリストフに目を向けると、デスクを背にして窓の外を眺めながらお茶を飲んでいた。
手招きで、困惑している従甥を呼んだキリルが声を潜めて説明する。
「まぁ…見ての通り、イオンが怒りを爆発させただけだ。
「あぁ、なるほど。それで…いえ、少々クリストフ殿にお話が――」
呆れた視線をセネトに向けたヴェンデルは、キリルに用件を伝えた。
現実逃避しているクリストフに声をかけたキリルは、彼をソファーに座らせると傍らに控える。
クリストフは首をかしげて用があるというヴェンデルの言葉を待っていると、彼は持ってきた書類と紙袋をテーブルに置いた。
「ダンフォース様より書類と、アードレアの薬師が作った胃薬を――」
「うわぁ、ついにあいつにまで僕の胃の心配をされるとは…」
胃薬の入った紙袋を見つめ頭を抱えるクリストフが独り愚痴る傍らで、キリルは紙袋の中を確認してクリストフのデスクの上に置く。
それは別に従甥であるヴェンデルを疑っているわけでなく、従者として当たり前の行動なのだ。
キリルの行動を横目で見ていたクリストフは、置かれた書類に目を通す。
「…そうですか、わかりました。この件は僕の方で引き受けますよ、あいつにもそう伝えてください。ヴェンデル、ご苦労様です。ところで――」
「何か…?」
伝え忘れた事でもあったか…と、ヴェンデルは首をかしげるとクリストフが声を潜めた。
「…その、あなたとテルエルの怪我の具合はどうですか?あの時、少々頭に血が上っていて――帰ってから、姉さん達にやり過ぎだと怒られてしまいました」
申し訳なさそうに俯いたクリストフが、土下座せんばかりに頭を下げて謝罪する。
あの時…クリストフはテルエルの右肩の関節を外した上に多少痛めつけてしまったのだが、それを知ったクリストフの姉達にそれはやり過ぎである事やヴェンデルにもテルエルの痛みが伝わっているのだと説教されたらしい。
知らなかったとはいえ、やり過ぎてしまった事をクリストフは反省したようだ。
一瞬驚いた表情を浮かべたヴェンデルだったが、すぐ無表情に戻すと首を横にふった。
「いや、もうほとんど治癒しているので気になさられなくとも大丈夫。こちらもやり過ぎたので、それとこの事をダンフォース様は知らぬので他言無用に…」
「わかりました…」
深く頷いたクリストフを見て安堵したヴェンデルは、2人と…まだセネトに説教しているイオンに頭を下げて退出する。
――閉ざされた扉を横目で見つめるヴェンデルは、深くため息をついた。
(…やはり、間違いなさそうだな。だとすると――)
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ここまでにして差し上げましょう…とにこやかに笑うイオンの説教がはじまって1時間半、セネトはずっと正座しっぱなしであった。
なので足が痺れてしまい、セネトは床の上で伸びてしまっている。
「くっそ、足が言う事を聞かねー…」
「だろうな…トラブルメーカー1号」
呆れたように言ったキリルが伸びているセネトの足をつつくと、悶絶しながら床を這った。
「はぁはぁ…てめー、やりやがったな」
「何を言う…こうすれば、早く動けるようになるだろう?」
キリルが意地の悪い笑みを浮かべると、セネトは口元をひきつらせながら何とか逃げようと床を這っていた――
「邪魔をするぞ、クリストフ!セネトを引き取りに来た」
ノックもなしに部屋を訪れた訪問者を、部屋にいた全員が目を向けた。
訪問者の正体は、セネトと同じ赤灰色の髪をした中年男性で…彼が何者であるのか、よく知るセネトは動きを止めて顔が青ざめていく。
中年男性がセネトの父親であると気づいたクリストフは何があったのか訊ねると、彼は「少しな…」と答えて
「セネト…今夜はゆっくり、じっくりと話をしよう。なぁ…」
目が座っているセネトの父親は青ざめて固まるセネトを担ぎ上げると、クリストフ達に「邪魔したな」と声をかけてそのまま去っていった。
――どうやら、ダンフォースの部屋であった一件の請求書がセネトの実家であるユースミルス家に届けられたらしい。
…届けたのが、テルエルだというのはここだけの話だが。
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