1話:嘆きの墓標
「そんな危険を冒すようなマネはしないつもりだ…というより、相棒は不死身のようなやつがいいな」
「…それは、もう人間ではないぞ?魔の者と組むのは、特に止めぬが…だが、組まされた方が気の毒じゃのぅ」
自分の理想を語るセネトを横目で見たネーメットは、本当に気の毒そうな声で嫌味を言う。
ネーメットの視線に気づいたセネトは、ムッとした様子で言い返した。
「……どういう意味だよ、それ?」
「そのまんまの意味じゃよ…だから、なかなか決まらんのだ。協会が抱える問題の一つになっておるわ」
大きくため息をついたネーメットは、まだ文句を言いそうなセネトを置いて部屋の中に入っていく。
納得いかないセネトがイライラした様子で自分の髪をかくと、ネーメットの後を追っていった。
室内はとても静かで、薬品の匂いがたちこめていた――
セネトとネーメットが室内を見回してみると、たくさんの培養槽などの機材…テーブルの上には書類や書物、何かの薬品が置かれているのは確認できる。
培養槽のひとつを覗き込んだセネトは、表情をひきつらせた。
「うへぇ…この培養槽の中、人らしきものが入ってるよ…」
セネトが覗き込んだ培養槽の中には、おそらく死者なのだろう…青白い顔をしている幼い少女の亡骸が入っているようだ。
「…って事は、これ全部に入っているのか?随分、悪趣味だな…」
「問題は、それだけではないぞ…蘇生実験だけでなく、人工生命の研究もしておるようじゃ…」
床に散らばる書類一枚を拾い上げたネーメットが、そこに書かれているものを読みながら培養槽のガラスを指で叩いた。
ネーメットの見ているものが気になったセネトも床に散らばっている書類を適当に拾ってみるが、あまり興味が持てなかったらしくすぐに捨ててしまう。
「……どっちにしても、絶対まともなやつじゃないよな」
「お前さんにだけは 、言われたくないじゃろうのぅ…」
『だけは』を強調して言われたセネトがムッとしているが、ネーメットは気にせず無視した。
そして、奥にある培養槽のそばへ移動したネーメットは手招きでセネトを呼んだ。
首をかしげたセネトはネーメットの隣に向かうと、その培養槽を覗き込む。
中には、ゆったりとしたウェーブがかった長い髪の――年の頃は、おそらくセネトと同じくらいの少女が眠っていた。
この少女も、他の培養槽の中にいる人々と同じで青白い顔をしていた。
「…綺麗だろう?」
突然、背後から声が聞こえ…驚いたセネトとネーメットは振り返る。
そこに立っていたのは、紺色のストレートショートの髪に茶色の瞳をした青年だった。
青年は黄緑色のケープ付ローブに術式の描かれたリボンを巻きつけたものを身につけている事から、おそらく件の魔術士なのだろう。
「綺麗っちゃ綺麗だけど…悪趣味なのには変わりないぞ?」
「………」
セネトの言葉に、青年は曖昧に微笑むだけだった。
何も言ってこない青年の様子にセネトは戸惑いながら考え込み、少女の眠る培養槽のガラスを指で叩きながら口を開く。
「そんなんじゃ…一生恋人とかできないと思うぞ?」
それでも何も返さないのでセネトは自分がまずい事を言ってしまったかと焦っていると、おもむろに青年が呟いた。
「――んだ」
「は?」
聞きとれなかったセネトが思わず聞き返すと、俯いた青年はもう一度同じ言葉を紡ぐ。
「死んだんだ…彼女は。きみ達の後ろにいるのが、私の恋人だよ」
「死んだ…もしかして、お前が殺めたのか?」
セネトは、背後にある培養槽へ視線を向けながら青年に訊ねた。
青年は首を横にふると、悲しそうな表情を浮かべ答える。
「まさか…私ではないよ。彼女が誰に殺められたのか…今でもわからない」
「…魔術士ハミルト・イーストページ。お前さんの…事情もわかるが、死者を冒涜した罪は重いぞ」
そう言ったネーメットは、懐から一枚の髪を出すと青年・ハミルトへ見せた。
「捕獲指令――そうか、なるほどね」
自分を捕える旨の書かれた指令書に目を向けたハミルトは、口元に小さな笑みを浮かべて指を鳴らす。
すると、ネーメットが持っていた指令書は一瞬にして燃え上がり…ネーメットは慌てず、紙から手を放した。
「私は…大人しく捕らえられるわけにはいかなくてね。諦めるわけにはいかないんだ――彼らの力を借りてでも、絶対にね」
「それは…一体?」
セネトは訊ねるがハミルトは何も答えず、ローブのポケットから何かを取り出すと培養槽へ向ける。
その瞬間、それは淡く黒い光で術式を描きだしてすぐに消えてしまった。
「…ふ、不発したのか?」
思わず呟いたセネトの頭を、ネーメットは平手ではたく。
「あれは、かなり略式ではあるが…死霊術の一種だ」
「…って事は、つまり?」
頭をおさえながらセネトが訊ねると、ネーメットは呆れたように部屋にある数多の培養槽を見た。
「あの培養槽の中に入っておるのは、死者達じゃからのぅ…」
培養槽のガラスにひびが入り、それが勢いよく割れて中を満たしていた液体が吹きだす。
そして、それと同時に中から"何か"が這いだしてきた。
「う゛…あ゛あ゛……」
這いだしてきたそれらの身体は濡れており、全身を引きずるような不自然な動きをしながら唸り声をあげる。
その様子を見たセネトは、思わず息を飲んだ。
「げっ…怖っ、這ってきてるぞ!」
「ふむ…ひぃ、ふぅ…ざっと数えて、10体かのぅ」
ひいているセネトの隣で這いだしてきた死者達を数えるネーメットが、何かを思い出したように振り返った。
「あぁ…我らの後ろにあるものを合わせれば、11体じゃったのぅ。ほっほっほ」
何やら楽しそうなネーメットに、セネトは心の中で思う……
――こういう慣れだけは絶対にしたくないものだ、と。
***
「…それは、もう人間ではないぞ?魔の者と組むのは、特に止めぬが…だが、組まされた方が気の毒じゃのぅ」
自分の理想を語るセネトを横目で見たネーメットは、本当に気の毒そうな声で嫌味を言う。
ネーメットの視線に気づいたセネトは、ムッとした様子で言い返した。
「……どういう意味だよ、それ?」
「そのまんまの意味じゃよ…だから、なかなか決まらんのだ。協会が抱える問題の一つになっておるわ」
大きくため息をついたネーメットは、まだ文句を言いそうなセネトを置いて部屋の中に入っていく。
納得いかないセネトがイライラした様子で自分の髪をかくと、ネーメットの後を追っていった。
室内はとても静かで、薬品の匂いがたちこめていた――
セネトとネーメットが室内を見回してみると、たくさんの培養槽などの機材…テーブルの上には書類や書物、何かの薬品が置かれているのは確認できる。
培養槽のひとつを覗き込んだセネトは、表情をひきつらせた。
「うへぇ…この培養槽の中、人らしきものが入ってるよ…」
セネトが覗き込んだ培養槽の中には、おそらく死者なのだろう…青白い顔をしている幼い少女の亡骸が入っているようだ。
「…って事は、これ全部に入っているのか?随分、悪趣味だな…」
「問題は、それだけではないぞ…蘇生実験だけでなく、人工生命の研究もしておるようじゃ…」
床に散らばる書類一枚を拾い上げたネーメットが、そこに書かれているものを読みながら培養槽のガラスを指で叩いた。
ネーメットの見ているものが気になったセネトも床に散らばっている書類を適当に拾ってみるが、あまり興味が持てなかったらしくすぐに捨ててしまう。
「……どっちにしても、絶対まともなやつじゃないよな」
「お前さんに
『だけは』を強調して言われたセネトがムッとしているが、ネーメットは気にせず無視した。
そして、奥にある培養槽のそばへ移動したネーメットは手招きでセネトを呼んだ。
首をかしげたセネトはネーメットの隣に向かうと、その培養槽を覗き込む。
中には、ゆったりとしたウェーブがかった長い髪の――年の頃は、おそらくセネトと同じくらいの少女が眠っていた。
この少女も、他の培養槽の中にいる人々と同じで青白い顔をしていた。
「…綺麗だろう?」
突然、背後から声が聞こえ…驚いたセネトとネーメットは振り返る。
そこに立っていたのは、紺色のストレートショートの髪に茶色の瞳をした青年だった。
青年は黄緑色のケープ付ローブに術式の描かれたリボンを巻きつけたものを身につけている事から、おそらく件の魔術士なのだろう。
「綺麗っちゃ綺麗だけど…悪趣味なのには変わりないぞ?」
「………」
セネトの言葉に、青年は曖昧に微笑むだけだった。
何も言ってこない青年の様子にセネトは戸惑いながら考え込み、少女の眠る培養槽のガラスを指で叩きながら口を開く。
「そんなんじゃ…一生恋人とかできないと思うぞ?」
それでも何も返さないのでセネトは自分がまずい事を言ってしまったかと焦っていると、おもむろに青年が呟いた。
「――んだ」
「は?」
聞きとれなかったセネトが思わず聞き返すと、俯いた青年はもう一度同じ言葉を紡ぐ。
「死んだんだ…彼女は。きみ達の後ろにいるのが、私の恋人だよ」
「死んだ…もしかして、お前が殺めたのか?」
セネトは、背後にある培養槽へ視線を向けながら青年に訊ねた。
青年は首を横にふると、悲しそうな表情を浮かべ答える。
「まさか…私ではないよ。彼女が誰に殺められたのか…今でもわからない」
「…魔術士ハミルト・イーストページ。お前さんの…事情もわかるが、死者を冒涜した罪は重いぞ」
そう言ったネーメットは、懐から一枚の髪を出すと青年・ハミルトへ見せた。
「捕獲指令――そうか、なるほどね」
自分を捕える旨の書かれた指令書に目を向けたハミルトは、口元に小さな笑みを浮かべて指を鳴らす。
すると、ネーメットが持っていた指令書は一瞬にして燃え上がり…ネーメットは慌てず、紙から手を放した。
「私は…大人しく捕らえられるわけにはいかなくてね。諦めるわけにはいかないんだ――彼らの力を借りてでも、絶対にね」
「それは…一体?」
セネトは訊ねるがハミルトは何も答えず、ローブのポケットから何かを取り出すと培養槽へ向ける。
その瞬間、それは淡く黒い光で術式を描きだしてすぐに消えてしまった。
「…ふ、不発したのか?」
思わず呟いたセネトの頭を、ネーメットは平手ではたく。
「あれは、かなり略式ではあるが…死霊術の一種だ」
「…って事は、つまり?」
頭をおさえながらセネトが訊ねると、ネーメットは呆れたように部屋にある数多の培養槽を見た。
「あの培養槽の中に入っておるのは、死者達じゃからのぅ…」
培養槽のガラスにひびが入り、それが勢いよく割れて中を満たしていた液体が吹きだす。
そして、それと同時に中から"何か"が這いだしてきた。
「う゛…あ゛あ゛……」
這いだしてきたそれらの身体は濡れており、全身を引きずるような不自然な動きをしながら唸り声をあげる。
その様子を見たセネトは、思わず息を飲んだ。
「げっ…怖っ、這ってきてるぞ!」
「ふむ…ひぃ、ふぅ…ざっと数えて、10体かのぅ」
ひいているセネトの隣で這いだしてきた死者達を数えるネーメットが、何かを思い出したように振り返った。
「あぁ…我らの後ろにあるものを合わせれば、11体じゃったのぅ。ほっほっほ」
何やら楽しそうなネーメットに、セネトは心の中で思う……
――こういう慣れだけは絶対にしたくないものだ、と。
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