5話:幼い邪悪[後編]

セネトが黒髪の青年を睨みつける…が、当の青年は涼しい顔でそれを見返してるだった。
相手が何も答えないので、仕方なくセネトはルフェリスとヴァリスに声をかけようと目を向けて気づく。
そこに2人の姿はなく…いや、セネトから少し離れたところにヴァリスは右肩をおさえながらうずくまっており…ルフェリスは倒れたところを何者かに髪を引っぱられ、苦しげに顔を上げさせられていた。

2人の、その姿を…そして、彼らの傍らに立つ何者かを確かめたセネトは納得したように頷く。

「ちっ、もう一人って…そっちにいたのかよ。つーか、てめーら…何者なんだって、おれは聞いてんだけど?」

苦笑いしたセネトは、ルフェリスの髪を引く人物に目を向けた。
――その人物は紫色の髪をした青年で、無表情に2人を見下ろす。
セネトの言葉を無視した紫色の髪の青年はルフェリスの髪を掴んだまま、反対の手でヴァリスの胸倉を鷲掴んだ。
そして、そのまま黒髪の青年の元まで引きずるとヴァリスだけを黒髪の青年の前に突き飛ばした。
倒れ込んだヴァリスの頭を、黒髪の青年が踏みつけて感情のない声音で声をかける。

「まったく…一族の面汚し共が。せっかく与えられた時を、ずいぶん無駄に使ったようだな…」
「エレディアとアードレアの"血の誓約"を守れぬとは、両家の名を汚したも同じ…万死に値するぞ」

紫色の髪をした青年が、黒髪の青年の言葉に続けて言う――同じく、感情のない声音で。
結界を無理矢理解除され受けたダメージと、存在まるっと無視されたのに腹を立てたセネトは黒髪の青年を押し退けて紫色の髪をした青年の手を払う。

「だーかーらー…お前らは、誰かと聞いてるんだ!それと、こいつらをどうするつもりだ?というか、時を与えたって…どういう意味だ。だいたい、おれの魔法に無理矢理干渉しやがって――」

息を切らせたセネトが一気にまくしたてながら、突如現れた2人の青年を交互に指差した。
この青年2人の正体が、エレディア家とアードレア家の者である事を先ほどの会話で理解できるが…あえて、何者なのかを訊ねたのだ。

しばらく無言でセネトに目を向けていた黒髪の青年は、セネトの…指差す方の腕をとり、一気にセネトの背後へ引くと答える。

「私はヴェンデル・エレディア…この、ヴァリスの親戚にあたる者だ」
「俺はテルエル・アードレア…この男、ルフェリスの親戚にあたる…だよな?」

黒髪の青年・ヴェンデルの次に口を開いたのは、紫色の髪の青年・テルエルだった。
…彼は感情もなく言うと、冷たくルフェリスとヴァリスへ視線を向ける。
その視線の意味に気づいたルフェリスとヴァリスは黙ったまま…決して、ヴェンデルとテルエルの方を見ようとしなかった。

ルフェリスとヴァリスの様子で、彼らの立場を理解したセネトは痛みを堪えながら訊ねた。

「っ…という事は、お前ら2人もフレネ村の人間なんだろ?確かに、赦されない事をしたかもしれないが…元をただせば、お前らにだって責任あるだろうが」

なるべく自分の方へと注意を向けさせながら、セネトはわざと挑発めいた事を言った。
セネトの言葉に…ヴェンデルとテルエルは互いに顔を見合わせると、口元だけに笑みを浮かべて答える。

「フレネ村にあったエレディア、アードレアは…リグゼノに故あって仕えていた分家…その、最後の者がルフェリスとヴァリスの養い親らであった。なので、我々はフレネ村の者ではない」
「我らはフレネ村にあった分家の――最後の血族を殺め、養い子達をも利用するフレネの者の断罪…そして、エレディアとアードレアの名を貶めたこの者達とお前達の救援に来ただけ」


フレネ村の凶行を最初に止めようとしたのが、エレディアとアードレアの分家の者達――つまり、ルフェリスの育ての親とヴァリスの育ての親であったのだとヴェンデルとテルエルは語った。


初めて聞いた真実にルフェリスとヴァリスは、愕然としていた…それもそのはず、育ての親は魔物に殺されたと彼らは思っていたのだから。
…だが、何かが腑に落ちたらしいルフェリスとヴァリスは俯くと静かに涙を流していた。

「どうやって調べたかは…聞かなくても予想できるが、この2人に"血の誓約"をさせたのは何故だ…?」

ルフェリス達の言葉の端々で、何を意味しているのかわかったイアンはヴェンデルとテルエルに訊ねる。

「何故…イアン殿は知っておられるのでは?あぁ…もしかして、この2人はエレディアとアードレアの血族ではない事が気になられたか?」

それに答えたのは、肩をすくめているテルエルだった。

確かに、ルフェリスとヴァリスはアードレアとエレディアに拾われたと話していたのを思いだしたセネトは首をかしげる。
セネトはわかっていないだろうな、と感じたイアンはヴェンデルとテルエルへ銃を向けて舌打ちをした。

「リグゼノの裏切りに、エレディア家とアードレア家が報復としてお前らを派遣したんだろう…救援というには、少々無理あるだろうが」
「そ、そんなもの…大体、誰も呼んでねーし。そもそも、解決しそうな時にのこのこ出てきやがって…」

我に返ったセネトはヴェンデルの手を払いのけ、もう一度術式を描きだす。
「誰も呼んでいない」というセネトの言葉に、同意するように頷いたクリストフは口を開いた。

「この件は僕とイアンが受けたもの、あなた方の上司であるダンフォースが受けたものではない。引きなさい!」
「解決しそうな時にのこのこ…とは、心外な――確かに、ダンフォース様が受けたものではないが…」

呆れたような様子でヴェンデルが答えると、小さくため息をついたテルエルが言葉を続ける。

協会一、ニを争う問題児・・・・・・・・・・・を連れてくる――その、神経はわからない。それを考慮し、ダンフォース様は貴方方だけでは荷が重いと判断され…とても心配されていた」
「おい!その問題児・・・って、おれの事かー!!そーいえば、その変な噂はエレディアが発信源だったよな。ふざけるな!」

どう考えても、それが自分の事だろう…と、怒ったセネトはヴェンデルとテルエルに抗議する。
用意していた術式に、魔力を込めて口早に詠唱したセネトはヴェンデルとテルエルへ向けて魔法を放つと空から雷が降り注いできた。

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