5話:幼い邪悪[後編]

「僕は、こいつらがユミリィを襲おうとしているところを助けようとした…けど、多勢に無勢――助ける事ができなかった。そして、僕も生命を奪われた…死の間際に、あの方・・・に救っていただいたんだ…だから、僕はユミリィの魂がいなくなる前に夢術を使った」

その後、新たな力に慣れぬ間にミリスが殺害され…妹を助ける為に、また夢術を使用したのだとルフェリスは続けた。

「そうか、なるほどな…唯一残ったヴァリスを守る為にも、【夕闇の風】にあの情報屋を呼ばせたのか?」

フレネ村の人々の動向がわからぬ以上、ヴァリスに探らせるのは危険だと判断したのだろう…と、イアンは考えたのだ。
小さく頷いたルフェリスは、口元に笑みを浮かべる。

「…そうだよ。僕を助けてくださったコルネリオ様――あの方に相談をし、あの情報屋を呼んでいただいたよ」
「つーことは、もしかして…おれ達が来る事も、予想済みだったってわけか?」

素朴な疑問を口にしたセネトに、ヴァリスが苦笑すると答えた。

「予想も何も…私が応援を呼ぶように、ナルヴァから村長へ助言するよう言っただけです。目撃者として…いえ、立会人が必要かと思いまして――でも、まさか・・・…」
「おい、ちょっと待て!そのまさか・・・の続きは、"トラブルメーカー"とか言うつもりか!?しかも、2人も~とか言うつもりだったのかー!!」

なんとなく、ヴァリスの言いたかった事を察したセネトが威嚇するように叫んだ。
セネトの威嚇に、ミリスは怯えたようにヴァリスの背に隠れたまま服を握り締めて震えていた。

少女の…その様子にクリストフとイアンが、異口同音でセネトを叱りつける。

「バカ、怯えさせて…何考えている?」
「う゛っ…と、とにかくだ。おれは、"トラブルメーカー"ではない――断じて!!」

とりあえず、ヴァリス達の中での自分の存在認識を訂正しておかねばっ…と、セネトは主張してみたのだが軽くスルーされてしまったのでうなだれた。
小さく咳払いをしたユミリィは意地の悪そうな笑みを浮かべ、顎に手をあてて声をかける。

「そんな事より…あなた達は、黙って見てればいいのよ。それとも、やっぱり邪魔するつもり?」

――その瞬間、周囲に不穏な空気が流れはじめ…そんな中でも、ユミリィはくすくすと笑っていた。
警戒するセネトがユミリィ達に向けて術式を描くと、組み上げながら答える。

「邪魔するも何も…お前ら、本当は自分達を止めてほしいと思ってんだろ?こんな状況になったし、おれ達という証人もできた…だから、こいつらもさすがに隠せないっ!」

この復讐劇を止めたい…でも、このままではフレネ村によって生命を奪われた人々が浮かばれない――そのような思いを、ルフェリス達から感じ取れたからだ。


しかし……


「あら…でもぉ、そんな事を考えてない人達もいるみたい。わたし達が魔物になるなんて、逆恨みしてくるなんて…ってね」

ほら、こんな人達…やっぱり守る価値なんてないわ――と、ユミリィは軽蔑するようにフレネ村の人々を見た。
ルフェリスもユミリィの言葉に同意すると、腰に下げていた剣を手にしてフレネ村の人々へ向ける。

「僕達は、もう引き返す事はできない…これだけの事をしたんだ。すべてが終わろうと終わるまいと、僕らは――」
「だからって、『はい、どーぞ』と言えるわけないだろ!気持ち、というか…おれも、あいつらを赦せねーけど…これ以上、させるわけにはいかない!」

フレネ村の人々を護るように、前に立ったセネトが周囲を空気の壁で包み込むとルフェリスは不満げに眉をひそめて舌打ちした。
そして、セネトの様子をうかがいながら…後ろにいるヴァリスへ視線だけで何かを指示し、ゆっくりと構える。
兄の指示に頷いたヴァリスに、セネトが2人に対して警戒を強めていると…ふいにルフェリスが走りだし斬り込んできた。

セネトのはった空気の壁の結界によって、ルフェリスの攻撃を防ぐ…だが――

「素晴らしい判断だと思いますが…こちらは、こうさせてもらいます」

その声はルフェリスの背後から…いつの間にか動いていたヴァリスが、瞬時に術式を描きだすとセネトの作った空気の壁に投げつけた。
何をしてきたのか理解できず、呆然としていると…突然、空気の壁が消し飛び――その、無理矢理術を相殺解除された反動でセネトは苦しげに胸をおさえて片膝を立て座り込んだ。

「っ!?」
「…邪魔をするなら、君から動けなくした方がいいね」

そう言ったルフェリスがセネトへ向けて剣の刃を振り下ろす、がセネトは慌てて刃を両手で挟んで受け止めた。

「っ…あ、危ねーだろ!」

反動作用でダメージの残っているセネトは徐々に押されていき、隙を見たルフェリスが刃を一度上げてセネトの手を逃れた後に再び振り下ろす。
さすがに、止められない…と覚悟したセネトの耳に、呆れたような声が聞こえてきた。

「まったく…何、一人で突っ走ってるんですか?セネト…」

ルフェリスの刃を持っていた杖で受け止めたクリストフがため息をつくと、刃を絡めるようにして飛ばしたのだ。
3人から少し離れた位置にルフェリスの剣は刺さり、その場にいる全員が動きを止めた。

「た、助かった…ってか、もっと早く助けろよ!」

文句を言っているセネトに、クリストフは呆れたように首を横にふる。

「いや…珍しく、何か考えがあって結界というか…空気の壁を作ったんだろうと。そもそも、ですが…守りはウィルネス殿やナルヴァがやってくれると思いますよ」
「へ?つーことは、おれ一人…無駄にダメージ受けただけ、じゃねーか!!あー!」

ガックリとうなだれ、逆切れに近い怒りをクリストフにぶつけたセネトが自分の両頬をたたくと…改めて、ルフェリス達へ目を向けた。
ルフェリスはクリストフに剣をもぎ取られたので利き手首をおさえ、こちらの動向を窺っているようである。
兄の後ろにいたヴァリスはミリスとユミリィの前に立ち、ルフェリスの背中を心配そうに見ていたが…何か決意したような、自信があるような表情を浮かべた。

彼らの様子に、まだ何か企んでいるのでは…と感じたセネトは、クリストフへ視線を向けて指示を待つ。
――実は先ほどのように、一人痛い目にあうのが嫌だったりする……

そんなセネトの、他力本願に気づいたクリストフだったが…そこは大目に見る事にし、どう動くべきか思案した。

…この4人はお互いに攻撃や防御、補佐などの連携を何も言わずともできるのだろう。
彼らが自分の部下なら――多少、仕事が楽かもしれないのにな…と考えてしまったクリストフは苦笑して提案する。

「それじゃ、セネトはルフェリス殿を止めなさい。僕は…ヴァリス殿を――イアンは」

視線だけで指示したクリストフに、イアンが表情を変えずに頷いた。
確かに4人を個々に止めれば話は早いよな、と納得したセネトは肩を鳴らして立ち上がる。

「よーし…さっきの仕返しをしてやる。おれに挑んできた事を、後悔させてやる!」

一瞬ヴァリスが兄と目を合わせて頷くと、苦笑混じりに願った。

「できれば、暴走だけは…やめてくださいね。無駄に被害がでてしまうので――」

ヴァリスの言葉を聞いたセネトは、頬をひきつらせて心の中で叫ぶ。

――だから、いつも暴走してねーて!どんな噂が流れてんだよ、まったく……


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