1話:嘆きの墓標
今回の仕事はアルノタウム公国にある、とある墓地で発生した"眠れぬ死者"の討伐と原因の調査――および、この地で目撃されている魔術士の捕縛がメインである。
本来ならば、"眠れぬ死者"を討伐し終えた時点で"オラトリオ教団"の聖職者を呼んで浄化と祈りの儀を行ってもらう予定であったが…セネトのおかげで、それどころではなくなってしまった。
そして…おそらく、墓地を破壊してしまった事で教団の方から抗議が入るだろう。
それを考えたネーメットは、深くため息をついた。
「後の処理は…あやつと共に考えるとするかのぅ」
「何か言ったか、ネーメットのじいさん?」
墓地を荒らした張本人であるセネトは、不思議そうに首を傾げてネーメットに聞き返した。
「後がどうとか…」
「いや、気にするでない…それよりも、何かないか調べておけよ」
何もわかっていない様子のセネトに声をかけたネーメットは、再び深くため息をつく。
「…まぁ、それ以前に何も残っておらんじゃろうがのぅ…」
墓石すら残っていない墓地に、乾いた風が吹き抜けていった……
「おっかしいな~…魔術士のやつ、どこにいるんだ?出てこい!」
何も残っていない墓地内を捜索しながら、セネトが頭をかいて叫んだ。
セネトの声が虚しく響く中、ネーメットは独り愚痴るように呟く。
「"出てこい"と言うて、素直に出てくるやつがおるか。地上は…ほれ、お前さんが焼き払ってしまったじゃろ?…意図してか、せぬかは知らぬがのぅ」
もう何度目になるかわからないため息をついたネーメットは、焦げた木を蹴り倒しているセネトに視線を向けた。
この状態は、どう見ても墓荒らしをしているようにしか見えない……
「意図なんてしてないけどな。んな事より…地上にいないとなると、地下か?」
そう言ったセネトが地面を踵でたたくと、ネーメットは同意するように頷いた。
そして、ある一ヶ所に目を向けたネーメットが少し奥まった場所を指す。
「まぁ…目立たぬ場所と言えば、あそこくらいかのぅ」
ネーメットが指した場所は焼け焦げた大木の生えている辺りで、そちらへ向かった。
その場所を踵でたたいてみると、コンコンと地面をたたく音とは明らかに違う金属製のものをたたくような音がしている。
気になったらしいセネトが砂を軽く払いのけてみると、金属製の扉が姿を現した。
「ここが入口…って事か」
小さく呟いたセネトは扉の取っ手を引くと、古びた金属の音を鳴らしながら開く。
扉の先は真っ暗で、まるで深い闇の中に入るようだ。
「時間が惜しい…行くぞ、セネト」
入るのに躊躇しているセネトの襟を掴んだネーメットは、彼を引きずりながら地下へと続く階段を降りていく。
……引っぱられているセネトは、何度か転びそうになりながらもついて行くので精一杯であった。
地下はひんやりとしており、とても静かで――本当に、件の魔術士がここにいるのだろうか?
そんな事を考えながら、セネトは欠伸をしていた。
「…ここで、ゆっくり休暇をとりたいな」
「なんじゃ…お前さんは、休暇がほしいのか?」
セネトの襟を掴んだままのネーメットは、笑いながら言葉を続ける。
「そんなにほしいのであれば…ワシがお前さんを、ここに埋めてやってもよいのじゃぞ。ほっほっほ」
「いくらなんでも、おれが死ぬだろうが…それは」
面白そうに笑っているネーメットに、セネトは抗議する…が、軽く無視をされてしまった。
「そうかのぅ…意外にも生きていそうじゃぞ?お前さんなら…」
(…生きていたら、おれは魔物か化け物って事になるだろ…ったく、このジジイは)
心の中で愚痴ったセネトは、頬を膨らませてネーメットを睨み付けたのだった……
階段を降りていくと、金属製の扉が見えてきたので2人は歩みを止めた。
ふり返りながら、セネトは呟く。
「ここがゴールって事か…意外に、地下深くにあるんだな。んで、この扉の向こうには…一体何があるんだろうな」
首を傾げ、扉に手を当てたセネトは中の様子と魔力の流れを感じとろうと目を閉じた。
「室内から人の気配がするような、しないような…?」
「どちらなのか、はっきりせんか…」
気配を探ったはずのセネトの言葉に、ネーメットは呆れた口調で訊ねる。
だが、複雑そうな表情を浮かべたまま彼は探り続け…やがて、目を開けると言った。
「多分だが…誰かいる、と思うから…この扉をぶっ壊そう!」
「ま、待たぬか…このような狭い場所で術を使う――」
セネトの言葉に慌てたネーメットが止める間もなく、セネトの描きだした術式から生みだされた風が渦を巻いて金属製の扉を吹き飛ばす。
しかし、術で発生した風は力を有り余したようで2人が立つ狭い地下階段内を吹き抜けていった。
「…でない、と言っておるのにのぅ」
乱れた髪と服を直しながら、ネーメットが同じく乱れた髪と服を直しているセネトに呆れ口調で言う。
「人の話は最後まで聞かんと…いつか、命に関わるような事になるぞ。お前さん、の相棒が」
退魔士は基本的に、2人一組でチームを組む事になっていた。
今までは、それでも単独行動をとる者もいたのだが…数年前より単独での行動が禁じられたのだ。
セネトにも相棒はいたのだが、病気で亡くなってしまい…現在は1人であった。
正式な相棒が決まるまでの間、代理として協会幹部の者が務める事となっている。
…今回、たまたま担当がネーメットだった。
本来ならば、"眠れぬ死者"を討伐し終えた時点で"オラトリオ教団"の聖職者を呼んで浄化と祈りの儀を行ってもらう予定であったが…セネトのおかげで、それどころではなくなってしまった。
そして…おそらく、墓地を破壊してしまった事で教団の方から抗議が入るだろう。
それを考えたネーメットは、深くため息をついた。
「後の処理は…あやつと共に考えるとするかのぅ」
「何か言ったか、ネーメットのじいさん?」
墓地を荒らした張本人であるセネトは、不思議そうに首を傾げてネーメットに聞き返した。
「後がどうとか…」
「いや、気にするでない…それよりも、何かないか調べておけよ」
何もわかっていない様子のセネトに声をかけたネーメットは、再び深くため息をつく。
「…まぁ、それ以前に何も残っておらんじゃろうがのぅ…」
墓石すら残っていない墓地に、乾いた風が吹き抜けていった……
「おっかしいな~…魔術士のやつ、どこにいるんだ?出てこい!」
何も残っていない墓地内を捜索しながら、セネトが頭をかいて叫んだ。
セネトの声が虚しく響く中、ネーメットは独り愚痴るように呟く。
「"出てこい"と言うて、素直に出てくるやつがおるか。地上は…ほれ、お前さんが焼き払ってしまったじゃろ?…意図してか、せぬかは知らぬがのぅ」
もう何度目になるかわからないため息をついたネーメットは、焦げた木を蹴り倒しているセネトに視線を向けた。
この状態は、どう見ても墓荒らしをしているようにしか見えない……
「意図なんてしてないけどな。んな事より…地上にいないとなると、地下か?」
そう言ったセネトが地面を踵でたたくと、ネーメットは同意するように頷いた。
そして、ある一ヶ所に目を向けたネーメットが少し奥まった場所を指す。
「まぁ…目立たぬ場所と言えば、あそこくらいかのぅ」
ネーメットが指した場所は焼け焦げた大木の生えている辺りで、そちらへ向かった。
その場所を踵でたたいてみると、コンコンと地面をたたく音とは明らかに違う金属製のものをたたくような音がしている。
気になったらしいセネトが砂を軽く払いのけてみると、金属製の扉が姿を現した。
「ここが入口…って事か」
小さく呟いたセネトは扉の取っ手を引くと、古びた金属の音を鳴らしながら開く。
扉の先は真っ暗で、まるで深い闇の中に入るようだ。
「時間が惜しい…行くぞ、セネト」
入るのに躊躇しているセネトの襟を掴んだネーメットは、彼を引きずりながら地下へと続く階段を降りていく。
……引っぱられているセネトは、何度か転びそうになりながらもついて行くので精一杯であった。
地下はひんやりとしており、とても静かで――本当に、件の魔術士がここにいるのだろうか?
そんな事を考えながら、セネトは欠伸をしていた。
「…ここで、ゆっくり休暇をとりたいな」
「なんじゃ…お前さんは、休暇がほしいのか?」
セネトの襟を掴んだままのネーメットは、笑いながら言葉を続ける。
「そんなにほしいのであれば…ワシがお前さんを、ここに埋めてやってもよいのじゃぞ。ほっほっほ」
「いくらなんでも、おれが死ぬだろうが…それは」
面白そうに笑っているネーメットに、セネトは抗議する…が、軽く無視をされてしまった。
「そうかのぅ…意外にも生きていそうじゃぞ?お前さんなら…」
(…生きていたら、おれは魔物か化け物って事になるだろ…ったく、このジジイは)
心の中で愚痴ったセネトは、頬を膨らませてネーメットを睨み付けたのだった……
階段を降りていくと、金属製の扉が見えてきたので2人は歩みを止めた。
ふり返りながら、セネトは呟く。
「ここがゴールって事か…意外に、地下深くにあるんだな。んで、この扉の向こうには…一体何があるんだろうな」
首を傾げ、扉に手を当てたセネトは中の様子と魔力の流れを感じとろうと目を閉じた。
「室内から人の気配がするような、しないような…?」
「どちらなのか、はっきりせんか…」
気配を探ったはずのセネトの言葉に、ネーメットは呆れた口調で訊ねる。
だが、複雑そうな表情を浮かべたまま彼は探り続け…やがて、目を開けると言った。
「多分だが…誰かいる、と思うから…この扉をぶっ壊そう!」
「ま、待たぬか…このような狭い場所で術を使う――」
セネトの言葉に慌てたネーメットが止める間もなく、セネトの描きだした術式から生みだされた風が渦を巻いて金属製の扉を吹き飛ばす。
しかし、術で発生した風は力を有り余したようで2人が立つ狭い地下階段内を吹き抜けていった。
「…でない、と言っておるのにのぅ」
乱れた髪と服を直しながら、ネーメットが同じく乱れた髪と服を直しているセネトに呆れ口調で言う。
「人の話は最後まで聞かんと…いつか、命に関わるような事になるぞ。お前さん、の相棒が」
退魔士は基本的に、2人一組でチームを組む事になっていた。
今までは、それでも単独行動をとる者もいたのだが…数年前より単独での行動が禁じられたのだ。
セネトにも相棒はいたのだが、病気で亡くなってしまい…現在は1人であった。
正式な相棒が決まるまでの間、代理として協会幹部の者が務める事となっている。
…今回、たまたま担当がネーメットだった。