4話:幼い邪悪[中編]
見たところ、ヴァリスが大きな怪我を負っている様子は見られない…が、おそらく殴打されて気を失っていたのだろう。
打撲だけで済むとは、さすがエレディア家の人間だなぁ…と、セネトは密かに思ったのだった。
「そうだ、何があったのか…あとで聞くからな、ヴァリス」
「はい…お手数おかけします…」
ヴァリスは痛みの為か、消え入りそうな声で答えて頷いた。
2人が短い廊下に戻ると、そこには別の部屋を調べていたイアンやクリストフがすでに戻ってきていた。
それと、クリストフの足元に座り込んでいる一人の人物――
「えーっと…アイツは村長の息子で、使えない方!」
「あの、ナルヴァ…です。セネト殿…」
存在をすっかり忘れていたらしいセネトが指差すと、ヴァリスが呆れた様子でそれを訂正する。
そのやり取りを聞いたクリストフが呆れたような表情を浮かべ、イアンは表情を変えずに憔悴して座り込んでいるナルヴァを見ていた。
ナルヴァの着ている衣服はところどころが裂けて血がついており、身体のいたるところに打撲や切り傷があるようだ。
「…んで、コイツはどこの部屋にいたんだ?」
「そこの部屋の、家具の下敷きになっていましたよ。おかげで生命を落とさず済んだようですが…僕らが来た時に、全てを話してくれていれば助けられた生命がたくさんあったでしょうね」
セネトの疑問に、クリストフは自分が調べていた扉の先を指して答え――そして、座り込んでいるナルヴァを横目で見た。
だが、ナルヴァはクリストフの言葉に反応せず…じっと床に目を向けているだけだった。
その様子に、クリストフはもう一度ため息をついて腰をかがめてナルヴァの肩をたたく。
「…今、貴方がしなければならない事はこの村で生き残っている人々を広場にいるミカサの元へ連れていく事です。退魔士であるのならば、今すべき事をやりなさい」
「……はい」
消え入りそうな声で答えたナルヴァはちらりとヴァリスを見た後、クリストフの顔に怖ず怖ずと視線を向けた。
クリストフがナルヴァの目を見ながら優しく諭すように頷くと、何か決意をした表情を浮かべて頷き返したナルヴァは立ち上がって足早に外へ向かっていく。
「立ち直り早っ!なぁ…アイツ一人で大丈夫なのか?」
一人で出ていったナルヴァを見送ったセネトは、外の方を指差しながら訊ねた。
「大丈夫だと思います…一応、ナルヴァも退魔士になる為の試験を受けてますし。それに、彼はああ見えて術の類が得意らしく…多分、生き残った人々の盾くらいにはなるかと…」
それに答えたのはクリストフ、ではなくセネトの隣にいるヴァリスだ。
「…コイツも、何気に毒あるよな。誰かさんに似て……」
ヴァリスの言葉に、セネトはちらりとクリストフに目を向けると…その視線に気づいたらしいクリストフが声をかける。
「何か言いましたか…セネト?」
「いーえ、何でもありません…ただ、意外なほど素直にナルヴァがいう事を聞いたなーと思っただけだよ」
誤魔化すように答えたセネトは、ゆっくりとクリストフから目を逸らした。
セネトが誤魔化そうとしているのに気づいたクリストフだったが、とりあえず今は置いておくとして――ナルヴァについて話しはじめる。
「そうですね…まぁ、今まで何も言われる事がなかったのでしょう。良くも悪くも自分の意志で動いていなかっただけ…とりあえず、あれで動いてくれたので助かりました」
「いや…まぁ、それはそうだけどな。うーん…とりあえず、おれらも外へ行かね?」
クリストフの言葉に、薄ら寒い何かを感じたセネトだったが…そこは触れぬ方がいいだろうと考え、もう一度外を指差した。
イアンが同調するように頷くと、セネトの肩を借りているヴァリスの腕をとると自らの肩を貸す。
申し訳なさそうに頭を下げたヴァリスは、少し俯くとある提案を口にした。
「あの…この村にとどまるよりも、すぐ近くにある隣村のアーヴィルへ避難した方が良いかもしれません。もちろん…朝を待って、なのですが――このままですと、第二第三の被害 がでてしまうかもしれませんし」
「…確かに、そうですね。あと数時間ほどで夜が明けますし、このままここにいても生き残った人々を守りながら魔物などの討伐はできません…大体、おさえきれないでしょうし、ね」
ポケットから懐中時計を出して時間を確認したクリストフがちらりとセネトを見た後、イアンやヴァリスの方を向いた。
その視線の意味に気づいたイアンとヴァリスが深々と頷く。
「そうだな…更なる大惨事になりかねん」
「はい…」
「ちょーっと待て!!第二第三の被害 ってのは、死霊やら魔物やらがわんさか…って事だろ?それに、クリストフ!何、意味深におれを見た!?で、イアンはどういう意味で言ったー!!」
セネトはヴァリスに確認した後、クリストフとイアンに目を向けて叫ぶが――当のクリストフとイアンは、きょとんとした表情を浮かべていた。
ヴァリスの方は…というと、不思議そうにセネトを見て口ごもる。
「いえ…あの、その……まぁ」
「……おい」
ゆっくりと視線を外したヴァリスは俯くが、何となく察したセネトは彼をただただ無言で見つめた。
呆れてため息をついたイアンが顎で外を指して、ヴァリスと共に外へ向かっていく。
クリストフは頷いて答えると、セネトの頭を軽くはたいて2人の後を追って外に出た。
残されたセネトは何か納得ができず舌打ちをして、先に行った3人の後を追って外へ向かうのだった。
***
打撲だけで済むとは、さすがエレディア家の人間だなぁ…と、セネトは密かに思ったのだった。
「そうだ、何があったのか…あとで聞くからな、ヴァリス」
「はい…お手数おかけします…」
ヴァリスは痛みの為か、消え入りそうな声で答えて頷いた。
2人が短い廊下に戻ると、そこには別の部屋を調べていたイアンやクリストフがすでに戻ってきていた。
それと、クリストフの足元に座り込んでいる一人の人物――
「えーっと…アイツは村長の息子で、使えない方!」
「あの、ナルヴァ…です。セネト殿…」
存在をすっかり忘れていたらしいセネトが指差すと、ヴァリスが呆れた様子でそれを訂正する。
そのやり取りを聞いたクリストフが呆れたような表情を浮かべ、イアンは表情を変えずに憔悴して座り込んでいるナルヴァを見ていた。
ナルヴァの着ている衣服はところどころが裂けて血がついており、身体のいたるところに打撲や切り傷があるようだ。
「…んで、コイツはどこの部屋にいたんだ?」
「そこの部屋の、家具の下敷きになっていましたよ。おかげで生命を落とさず済んだようですが…僕らが来た時に、全てを話してくれていれば助けられた生命がたくさんあったでしょうね」
セネトの疑問に、クリストフは自分が調べていた扉の先を指して答え――そして、座り込んでいるナルヴァを横目で見た。
だが、ナルヴァはクリストフの言葉に反応せず…じっと床に目を向けているだけだった。
その様子に、クリストフはもう一度ため息をついて腰をかがめてナルヴァの肩をたたく。
「…今、貴方がしなければならない事はこの村で生き残っている人々を広場にいるミカサの元へ連れていく事です。退魔士であるのならば、今すべき事をやりなさい」
「……はい」
消え入りそうな声で答えたナルヴァはちらりとヴァリスを見た後、クリストフの顔に怖ず怖ずと視線を向けた。
クリストフがナルヴァの目を見ながら優しく諭すように頷くと、何か決意をした表情を浮かべて頷き返したナルヴァは立ち上がって足早に外へ向かっていく。
「立ち直り早っ!なぁ…アイツ一人で大丈夫なのか?」
一人で出ていったナルヴァを見送ったセネトは、外の方を指差しながら訊ねた。
「大丈夫だと思います…一応、ナルヴァも退魔士になる為の試験を受けてますし。それに、彼はああ見えて術の類が得意らしく…多分、生き残った人々の盾くらいにはなるかと…」
それに答えたのはクリストフ、ではなくセネトの隣にいるヴァリスだ。
「…コイツも、何気に毒あるよな。誰かさんに似て……」
ヴァリスの言葉に、セネトはちらりとクリストフに目を向けると…その視線に気づいたらしいクリストフが声をかける。
「何か言いましたか…セネト?」
「いーえ、何でもありません…ただ、意外なほど素直にナルヴァがいう事を聞いたなーと思っただけだよ」
誤魔化すように答えたセネトは、ゆっくりとクリストフから目を逸らした。
セネトが誤魔化そうとしているのに気づいたクリストフだったが、とりあえず今は置いておくとして――ナルヴァについて話しはじめる。
「そうですね…まぁ、今まで何も言われる事がなかったのでしょう。良くも悪くも自分の意志で動いていなかっただけ…とりあえず、あれで動いてくれたので助かりました」
「いや…まぁ、それはそうだけどな。うーん…とりあえず、おれらも外へ行かね?」
クリストフの言葉に、薄ら寒い何かを感じたセネトだったが…そこは触れぬ方がいいだろうと考え、もう一度外を指差した。
イアンが同調するように頷くと、セネトの肩を借りているヴァリスの腕をとると自らの肩を貸す。
申し訳なさそうに頭を下げたヴァリスは、少し俯くとある提案を口にした。
「あの…この村にとどまるよりも、すぐ近くにある隣村のアーヴィルへ避難した方が良いかもしれません。もちろん…朝を待って、なのですが――このままですと、
「…確かに、そうですね。あと数時間ほどで夜が明けますし、このままここにいても生き残った人々を守りながら魔物などの討伐はできません…大体、おさえきれないでしょうし、ね」
ポケットから懐中時計を出して時間を確認したクリストフがちらりとセネトを見た後、イアンやヴァリスの方を向いた。
その視線の意味に気づいたイアンとヴァリスが深々と頷く。
「そうだな…更なる大惨事になりかねん」
「はい…」
「ちょーっと待て!!
セネトはヴァリスに確認した後、クリストフとイアンに目を向けて叫ぶが――当のクリストフとイアンは、きょとんとした表情を浮かべていた。
ヴァリスの方は…というと、不思議そうにセネトを見て口ごもる。
「いえ…あの、その……まぁ」
「……おい」
ゆっくりと視線を外したヴァリスは俯くが、何となく察したセネトは彼をただただ無言で見つめた。
呆れてため息をついたイアンが顎で外を指して、ヴァリスと共に外へ向かっていく。
クリストフは頷いて答えると、セネトの頭を軽くはたいて2人の後を追って外に出た。
残されたセネトは何か納得ができず舌打ちをして、先に行った3人の後を追って外へ向かうのだった。
***