0話:世界の舞台裏から
――翌朝。
廃墟となった街の入口付近に1台の馬車が止まり、数人が集まっていた。
集まっている者達は皆同じ紋様が描かれた腕章を付けており、そこに描かれている紋様はフローラント退魔士国のものだ。
フローラント退魔士国は、数百年前に世界を救った3人の退魔士が建国した国で――今では、この国に暮らしている人々のほとんどが退魔士をしている。
この国の退魔士達は例外なく協会に属し…本部はフローラントに、支部は各国にとそれぞれ置かれていた。
その彼らが集まっている理由は、ただ一つ――
「…これは酷いな…」
目の前に横たわる3人を見て、白衣を着た青年は呟いた。
そして、持っていた大きめの布を横たわる3人の身体にそっとかける。
横たわっている3人は血で染まった衣類を身につけており、身体のいたるところにある傷と首筋に小さな2つの穴のような傷もあった。
辺りの壁や瓦礫などに、おびただしい量の血が飛び散っているのも確認できる。
「…昨夜、やられたようです」
悲しむように、白衣の青年は言葉を続けた。
「おそらく、直接の死因は失血によるものかと…」
「…間違いなく、僕の所に属する退魔士――ハウエル・オルセア、ミネリア・ジェレイド、ユディエラ・シュレイアの3名です。先日、"蘇った死者"の討伐をすると言っていたのですが…」
白衣の青年の隣にやって来た銀髪の青年が、伏せ目がちに布をかけられ横たわる3人の亡骸を見つめた。
「まさか、このような事になるとは…」
「――という事は仕事をしている途中か、あるいは本部へ報告に戻る途中で何者かにやられたのか…」
銀髪の青年の隣に立った茶髪を肩の上で切りそろえた青年が舌打ちをし、銀髪の青年に嫌味ぽく話しかける。
「先月も2人やられていたよな…それもお前のところのが――一体、何をやらしているんだ?」
「…普通の仕事ですよ。それ以外に、一体何があるんですか?」
茶髪の青年を横目で見ながら、銀髪の青年はため息混じりに続けた。
「そう言うあなたの所も被害が出ているでしょう。僕の所が特別被害が多いわけではない」
2人の間に冷たい、険悪な空気が流れ始めた事に気づいた白衣の青年は「いつもの事だ」と無視を決め込む。
もし何か言えば、矛先が自分に向けられてしまうだろう事をよく心得ていたからだ。
「…いい加減にしないか、2人共!」
険悪な2人の間に割って入った勇気ある人物は、右目に眼帯をした…集まったメンバーの中では年長者になる男だった。
「今回のも、前回のも…誰のせいでもないぞ」
「おそらく…前回同様、〈ユーゼンヴェルトの6貴族〉の一人である【灰白の影】にやられたのだろうかと…」
右目に眼帯をした男に報告するように、白衣の青年は言う。
「それと…もう一人、何者かがいたようです」
「もう一人…だと?」
茶髪の青年が眉をしかめながら訊ねると、小さく頷きながら白衣の青年は答えた。
「ユディエラ・シュレイアの傷口が他の2人の傷口と違い、刃物によるものなので…それに亡骸のあった場所も違っていますし……」
「なるほど…な」
右目に眼帯をした男は、自分の灰黒色の髪をぐしゃぐしゃとかきむしりながらため息をつく。
「…吸血鬼が2人か……おそらく、その何者かとは【灰白の影】の配下のヤツだろう――最近、目撃情報が多かった上に一番目立った動きをしていやがったからな…」
「総帥の命で警戒をしていたというのに…」
小さく消えそうな声で、悲しそうな表情を浮かべたまま銀髪の青年は呟いた。
同僚達も、悲しみを秘めた表情で静かに横たわる3人の亡骸へ視線を向ける。
――3人の亡骸が馬車に乗せられていくのを彼らは頭を下げ、静かに鎮魂の祈りを捧げた。
3人の魂が静かな眠りにつけるように…と。
廃墟の街に冷たい風が吹き抜けていった。
***
廃墟となった街の入口付近に1台の馬車が止まり、数人が集まっていた。
集まっている者達は皆同じ紋様が描かれた腕章を付けており、そこに描かれている紋様はフローラント退魔士国のものだ。
フローラント退魔士国は、数百年前に世界を救った3人の退魔士が建国した国で――今では、この国に暮らしている人々のほとんどが退魔士をしている。
この国の退魔士達は例外なく協会に属し…本部はフローラントに、支部は各国にとそれぞれ置かれていた。
その彼らが集まっている理由は、ただ一つ――
「…これは酷いな…」
目の前に横たわる3人を見て、白衣を着た青年は呟いた。
そして、持っていた大きめの布を横たわる3人の身体にそっとかける。
横たわっている3人は血で染まった衣類を身につけており、身体のいたるところにある傷と首筋に小さな2つの穴のような傷もあった。
辺りの壁や瓦礫などに、おびただしい量の血が飛び散っているのも確認できる。
「…昨夜、やられたようです」
悲しむように、白衣の青年は言葉を続けた。
「おそらく、直接の死因は失血によるものかと…」
「…間違いなく、僕の所に属する退魔士――ハウエル・オルセア、ミネリア・ジェレイド、ユディエラ・シュレイアの3名です。先日、"蘇った死者"の討伐をすると言っていたのですが…」
白衣の青年の隣にやって来た銀髪の青年が、伏せ目がちに布をかけられ横たわる3人の亡骸を見つめた。
「まさか、このような事になるとは…」
「――という事は仕事をしている途中か、あるいは本部へ報告に戻る途中で何者かにやられたのか…」
銀髪の青年の隣に立った茶髪を肩の上で切りそろえた青年が舌打ちをし、銀髪の青年に嫌味ぽく話しかける。
「先月も2人やられていたよな…それもお前のところのが――一体、何をやらしているんだ?」
「…普通の仕事ですよ。それ以外に、一体何があるんですか?」
茶髪の青年を横目で見ながら、銀髪の青年はため息混じりに続けた。
「そう言うあなたの所も被害が出ているでしょう。僕の所が特別被害が多いわけではない」
2人の間に冷たい、険悪な空気が流れ始めた事に気づいた白衣の青年は「いつもの事だ」と無視を決め込む。
もし何か言えば、矛先が自分に向けられてしまうだろう事をよく心得ていたからだ。
「…いい加減にしないか、2人共!」
険悪な2人の間に割って入った勇気ある人物は、右目に眼帯をした…集まったメンバーの中では年長者になる男だった。
「今回のも、前回のも…誰のせいでもないぞ」
「おそらく…前回同様、〈ユーゼンヴェルトの6貴族〉の一人である【灰白の影】にやられたのだろうかと…」
右目に眼帯をした男に報告するように、白衣の青年は言う。
「それと…もう一人、何者かがいたようです」
「もう一人…だと?」
茶髪の青年が眉をしかめながら訊ねると、小さく頷きながら白衣の青年は答えた。
「ユディエラ・シュレイアの傷口が他の2人の傷口と違い、刃物によるものなので…それに亡骸のあった場所も違っていますし……」
「なるほど…な」
右目に眼帯をした男は、自分の灰黒色の髪をぐしゃぐしゃとかきむしりながらため息をつく。
「…吸血鬼が2人か……おそらく、その何者かとは【灰白の影】の配下のヤツだろう――最近、目撃情報が多かった上に一番目立った動きをしていやがったからな…」
「総帥の命で警戒をしていたというのに…」
小さく消えそうな声で、悲しそうな表情を浮かべたまま銀髪の青年は呟いた。
同僚達も、悲しみを秘めた表情で静かに横たわる3人の亡骸へ視線を向ける。
――3人の亡骸が馬車に乗せられていくのを彼らは頭を下げ、静かに鎮魂の祈りを捧げた。
3人の魂が静かな眠りにつけるように…と。
廃墟の街に冷たい風が吹き抜けていった。
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