3話:幼い邪悪[前編]

「…で、どうするんだ?これから」

村長とナルヴァは奥の部屋へ行ってしまったので、現在居間にいるのはセネト達5人とヴァリスだけだ。
そのヴァリスは村長達がいない為か、心なしか表情が和らいでいるように見えた。

「ここにいる全員で、固まって動くわけじゃないんだろ?」

セネトの言葉に、ヴァリスは頷く。

「…ぁ、はい。私は、2チームに分かれて行動してはどうかと考えております。今は、村人達に外へは出ないよう言っているのですが…なかなか守ってくださらなくて。そのせいで、何名もの被害者がでてしまいました」
「なるほどな、それで法術が使える者を・・・・・・・・と書かれていたわけか…」

先ほどまで村長が座っていた椅子に腰掛けたイアンが納得したように頷くと、ヴァリスは申し訳なさそうに頷いた。

「…はい。ですので、ひとチームは村に残っていただき…村の事をお願いしたいのです。そして、もうひとチームでなりそこないの討伐を…と」
「ふーん…なら、3人と4人で別れればいいのかしら?あたしはミカサと一緒がいいから、残る方ね!」

顎に手をあてたクレリアは、この場にいる6人と今は奥に行っているナルヴァを入れた人数を2チームに分けた数を言う。
クレリアの主張を適当に流しつつ、クリストフが首をかしげるとヴァリスに確認するように訊ねた。

「まぁ、それはかまわないのですが…今回、参加する退魔士は僕達6名だけですよね?」
「………そういう事になります。ですので、3名ずつのチームになります」

重ねて申し訳なさそうに答えたヴァリスに、セネトはどうしても聞いておきたかった事を訊ねる。

「…もしかして、だがな。俺達が来るまで、一人でやってたりしないか?」

はじめて会った時、ヴァリスは疲れた表情をしていた。
反対に、村人の息子・ナルヴァに疲労している様子は見られなかった…という事は、ヴァリスが一人で今まで凌いでいたのだろう。

セネトの言葉に、ヴァリスは少し困ったような表情でゆっくりと頷いた。

「…えぇ、まぁ。私は余所者・・・なので、この村の守護を担う事で信用を得ているのです…」
「あら、あなた…この村の人間じゃないの?」

驚いた表情でクレリアが訊ねると、ヴァリスは少しだけ寂しそうに笑う。

「はい…幼い頃、この村の近くに捨てられていたのを常駐していたエレディア家が引き取ってくれたのです。その…恩返しの意もありますので、一人でも苦ではありません」
「それにしても、だ…お前、絶対にいいように使われてるだけだろ。大体、相棒がお飾りだし…」

村長達のいる部屋の方を横目に、セネトは言葉を続けた。

「そーいや、エレディアって言ったら…術者であり、武道家でもあるという――いわゆる、何でもあり一族だろ?」
「はぁ、まぁ…その通り、何でもあり一族です。私は引き取られてすぐ――物心つく前より修行させられていたので、それが普通だと思っておりましたが」

苦笑混じりに答えたヴァリスは、居間の隅に置かれているチェストから一枚の紙を取りだしてテーブルの上に広げる。

「――これは、ここの地図なのですが…主に、被害がでているのはこの辺りになります」

広げた地図の一角を指したヴァリスが、意見を求めるようにクリストフとイアンの顔を見た。
指し示された場所を確認したクリストフとイアンは納得したように頷いた後、イアンが最初に口を開く。

「確か…ここは"祈りの場"だったな、教団の。そこを中心に…って事か」
「信心深い人は、危険だとわかっていても行ってしまうんでしょうね…僕はヴァリス殿とセネトと一緒に、こちらに向かいます。イアンは、クレリアとミカサをお願いします」

クリストフがセネトに目を向けながら、地図に記された"祈りの場"と呼ばれる場所を人差し指でたたいた。
勝手に決められたセネトは抗議しようと、慌てて口を開く。

「ちょっ…クリストフ!おれも村で――」
「この小さな村が魔法で消える、なんて事になると国レベルの問題になりかねない。それを避ける為ですから…ね、セネト」

破壊・壊滅など前科のあるセネトを村に残すより、まだ教団に迷惑をかける方が被害は少ないとクリストフは考えたらしい。
その言葉にセネトはむっとしながら、内心クリストフに向けて悪態をつきつつ広げられた地図に視線を向けた。

(何気に酷い事を言いやがって…こうなったら、お望み通りにやってやろうか!)


***


「…では、くれぐれ・・・・も破壊しないように」

クリストフは『くれぐれも』の部分を強調しながら言うが、それはセネトに言ったわけではない。
セネトと同じような前科を持つ、もう一人の"トラブルメーカー"に言ったのだ。
…もっとも、こちらの方はこの国で目立つような事はしたくないだろうが。

「わかってますぅ~だ。というか…あいつと一緒にされたくないわ!あたしは、ただ手が滑っているだけだもの」

クレリアは頬を膨らませて文句を言っているが、すべてを知るミカサは苦笑するしかない。
まだ文句が言い足りないクレリアの頭を、イアンが軽くつつくとクリストフを安心させるように言う。

「…もしもの時は、俺が止めるので大丈夫だ。される前に、制裁は加えておく…」
「よろしくお願いします…イアン」

頭をさげたクリストフは安心したように笑う、がセネトとクレリアにとっては恐怖でしかなかった。
そんな2人の様子を知ってか知らずかわからないが、クリストフは地図を持つヴァリスに声をかける。

「ヴァリス殿…この場所には、結界などで人が立ち入らないようにしてあるのですか?」
「一応してはあるのですが、基本的に余所者である私の注意をなかなか聞いてもらえないので――」

クリストフの問いに、ヴァリスが伏せ目がちに首を横にふった。
嫌悪感丸出しにしたクレリアは、ヴァリスを励ますように言う。

「気にする必要はないわ、だいたい注意を無視して怪我したって自業自得でしょう?」
「うーん…まぁ、そうだがよ。というか…お前、この村に何か恨みでもあるのか?」

この村に着いた時から機嫌の悪いクレリアの様子が気になったセネトは、不思議そうに訊ねた。
…だが、クレリアは首を横にふると答える。

「別にぃ~、この村の気質が大嫌いなだけよ」
「そっか…まぁ、その気持ちはわかるけどな」

さすがに村長宅でそれを言っちゃだめだろう、とセネトは苦笑しながら思った。


***

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