3話:幼い邪悪[前編]
「…まぁ、全員そろった事だ。話を進めるぞ――」
長テーブルの上に座っているイアンが持っている依頼書をふりながら、セネトとクレリア、ミカサの順に視線を向けた。
小さく頷いたミカサは隣に座るセネトとクレリアの方に目を向けてみると、氷から解放された2人は椅子に腰かけているわけだが――
「うん…ミカサの言いたい事は、わかるわ」
「どうして、こうなったのか? だろ…?」
ミカサの視線に頷くクレリアと遠くを見つめるセネトは、身動きひとつせずに口を開いた。
――2人が身動きひとつしない、その理由 は……
「まぁ、これだけしておけば…大人しくしてくれるでしょう」
椅子に腰かけている2人のそばに立つクリストフが、にっこりと笑みを浮かべて手に持っているロープとナイフを床に落とす。
「これだけ…って、おれ達を拘束するものが氷から魔力封じのロープに変わっただけだろうが!」
「…一応、床の上から椅子に変わっただけいいのかしら?」
椅子に縛られたセネトとクレリアが、ほとんど身動きできない身体を前後に揺らしているのをミカサは横目に呆れながら呟いた。
「まったく…二人共、少しは反省すればいいのに」
「――そろそろ、本題に入っていいか?セネトとクレリアの両名…」
呆れているイアンは煙草をくわえながら、2人を縛っていたクリストフには触れず…文句を言っているセネトとクレリアだけに目を向ける。
ひと仕事終えたように自分の肩を揉みながら、少し前まで座っていた椅子に腰かけたクリストフがイアンの言葉に答える。
「いいと思いますよ、僕は。イアン…お願いします」
「よし、では…今回の仕事を話をはじめる。よく聞けよ、特にセネトとクレリア…」
ちらりと2人に釘をさしてきたイアンに、セネトとクレリアは言い返そうと口を開きかけたが上司2人に睨まれ押し黙った。
それを確認したイアンは、再び依頼書に目を向けると言葉を続ける。
「…今回は、アルノタウム公国にある――」
「ちょっ…クリストフ!あたしはやらないわよ、いつも言ってあるでしょ!?あたしは別日に、ペナルティーでも何でもするから…」
イアンの言葉を遮り、クレリアが嫌そうに首を横にふった。
「あなたの事情もわかっていますが…人手が足りないんです。クレリア、今回だけは――」
「できるわけないでしょ!大体、あたしが…」
たしなめるように言うクリストフに、クレリアはさらに首をふる。
ため息をついたイアンが、クレリアをなだめるように声をかけた。
「その件なら、もうとっくにバレてるようだ…いつだったか、その問い合わせがきた。クリストフは、お前を守る為に嘘をついたんだぞ?」
「時間稼ぎの為ですよ…クレリア、いつか自分から話に行きなさい。それまでは、あなたを守りますよ…僕達は」
まっすぐクレリアの目を見たクリストフに、納得していない様子であるもののクレリアが渋々頷く。
そんなクレリアの肩に手をおいたミカサも大丈夫だというように頷くと、安堵したような笑みを浮かべたクレリアは頷き返した。
「今回だけは…我慢してやるわ。次からは、ぜーったいにお断りだからっ!」
頬を膨らませたクレリアは、イアンとクリストフを顎で指す。
クレリアの…そんなやり取りを静かに聞いていたセネトは、何か深い理由があるのだろう…この件はクレリアから話をしてくれるまで触れないようにすべきだと考えて視線を外した。
話の続きができる状況になったのを確かめるように見たイアンは、ゆっくりと説明をはじめる。
「――今回は、アルノタウム公国東部にあるフレネ村へ行く。はっきり言えば、まったく状況はわからないのだが…どうやら吸血鬼のなりそこないが目撃されているようだ」
「状況がわからないって、どういう事だよ?」
首をかしげたセネトは、依頼書を手に持つイアンに質問した。
縛られているので身動きがとれず、挙手はできないが――
「フレネ村は、余所者を嫌う傾向があり…また、何かあったとしても内々で済ませてしまうところがあるんですよ。その為、まったく情報が出てこないんです。今わかっているのは、目撃されているのが一体のなりそこないと被害者が6名…常駐している退魔士2名ではどうにもならない上に、フレネ村の危機感が希薄だという事くらいですかね」
セネトの疑問に答えたのはイアンではなく、うんざりしたように首をふるクリストフだ。
クリストフの話を聞いたセネトは、ひきつった笑みを浮かべる。
「うわぁ~…はじめの2点以外だめ情報過ぎだろう、それ――で、何でおれ達5人なんだ?」
はっきり言って、かなり面倒な案件であると気づいたセネトが呆れつつ首をかしげた。
同じ疑問を持ったらしいクレリアとミカサも、不思議そうに首をかしげている。
イアンとクリストフは困ったように顔を見合わせて、小さく息をついたイアンが口を開いた。
「詳しくはわからないが法術を使えるものを含めて5~6人、とフレネ村の村長が言ってきたらしい」
「なので"オラトリオ教団"のシスターでもあるミカサと、その相棒であるクレリア、一番暇そうなセネト…そして、僕とイアンで向かう事になったんですよ」
イアンの持つ依頼書を取ったクリストフはセネトへ向けて見せる、がその距離約30cmだ。
「さすがに見えねー…というか、書類の文字が小さい。その気遣いは、ありがたいけど――」
目をしかめながら、クリストフの見せる依頼書を読もうとしたセネトは言葉を続ける。
「それよりも、おれが一番暇そう って…どういう事だよっ!!」
「それは見たまんまの意味だろう、セネト?」
灰皿を片手に煙草を吸うイアンは、まじめな面持ちでセネトを見た。
身動きできないセネトだが、怒りで椅子を前後に揺らしながら抗議する。
「ちょっと待て!おれのどこが――」
「…さて、出発しましょうか」
セネトの抗議をまるっと無視したクリストフは、ミカサの車椅子を反対側に向けてクレリアの縄を解いた。
そして、クレリアとミカサの2人を先に行くよう指示するとセネトの頭を強く押さえつける。
「一応、釘をさしておこうかと思うんですが…ね」
「う゛っ…何を…?」
声のトーンを低くしたクリストフに、セネトは冷や汗をかきながら動きを止めた。
そんなセネトの肩に、クリストフのものではない手がおかれる…――その手は、いつの間にかそばまで来たらしいイアンのものだ。
「絶対に暴走するな、フレネ村は一致団結が強固な上に余所者には懐疑的だ」
「だから、僕達が言いたい事はわかりますよね…セネト?」
クリストフとイアンの2人に耳打ちされたセネトは、ただならぬ気配に何度も頷く事しかできなかった。
***
長テーブルの上に座っているイアンが持っている依頼書をふりながら、セネトとクレリア、ミカサの順に視線を向けた。
小さく頷いたミカサは隣に座るセネトとクレリアの方に目を向けてみると、氷から解放された2人は椅子に腰かけているわけだが――
「うん…ミカサの言いたい事は、わかるわ」
「
ミカサの視線に頷くクレリアと遠くを見つめるセネトは、身動きひとつせずに口を開いた。
――2人が身動きひとつしない、その
「まぁ、これだけしておけば…大人しくしてくれるでしょう」
椅子に腰かけている2人のそばに立つクリストフが、にっこりと笑みを浮かべて手に持っているロープとナイフを床に落とす。
「これだけ…って、おれ達を拘束するものが氷から魔力封じのロープに変わっただけだろうが!」
「…一応、床の上から椅子に変わっただけいいのかしら?」
椅子に縛られたセネトとクレリアが、ほとんど身動きできない身体を前後に揺らしているのをミカサは横目に呆れながら呟いた。
「まったく…二人共、少しは反省すればいいのに」
「――そろそろ、本題に入っていいか?セネトとクレリアの両名…」
呆れているイアンは煙草をくわえながら、2人を縛っていたクリストフには触れず…文句を言っているセネトとクレリアだけに目を向ける。
ひと仕事終えたように自分の肩を揉みながら、少し前まで座っていた椅子に腰かけたクリストフがイアンの言葉に答える。
「いいと思いますよ、僕は。イアン…お願いします」
「よし、では…今回の仕事を話をはじめる。よく聞けよ、特にセネトとクレリア…」
ちらりと2人に釘をさしてきたイアンに、セネトとクレリアは言い返そうと口を開きかけたが上司2人に睨まれ押し黙った。
それを確認したイアンは、再び依頼書に目を向けると言葉を続ける。
「…今回は、アルノタウム公国にある――」
「ちょっ…クリストフ!あたしはやらないわよ、いつも言ってあるでしょ!?あたしは別日に、ペナルティーでも何でもするから…」
イアンの言葉を遮り、クレリアが嫌そうに首を横にふった。
「あなたの事情もわかっていますが…人手が足りないんです。クレリア、今回だけは――」
「できるわけないでしょ!大体、あたしが…」
たしなめるように言うクリストフに、クレリアはさらに首をふる。
ため息をついたイアンが、クレリアをなだめるように声をかけた。
「その件なら、もうとっくにバレてるようだ…いつだったか、その問い合わせがきた。クリストフは、お前を守る為に嘘をついたんだぞ?」
「時間稼ぎの為ですよ…クレリア、いつか自分から話に行きなさい。それまでは、あなたを守りますよ…僕達は」
まっすぐクレリアの目を見たクリストフに、納得していない様子であるもののクレリアが渋々頷く。
そんなクレリアの肩に手をおいたミカサも大丈夫だというように頷くと、安堵したような笑みを浮かべたクレリアは頷き返した。
「今回だけは…我慢してやるわ。次からは、ぜーったいにお断りだからっ!」
頬を膨らませたクレリアは、イアンとクリストフを顎で指す。
クレリアの…そんなやり取りを静かに聞いていたセネトは、何か深い理由があるのだろう…この件はクレリアから話をしてくれるまで触れないようにすべきだと考えて視線を外した。
話の続きができる状況になったのを確かめるように見たイアンは、ゆっくりと説明をはじめる。
「――今回は、アルノタウム公国東部にあるフレネ村へ行く。はっきり言えば、まったく状況はわからないのだが…どうやら吸血鬼のなりそこないが目撃されているようだ」
「状況がわからないって、どういう事だよ?」
首をかしげたセネトは、依頼書を手に持つイアンに質問した。
縛られているので身動きがとれず、挙手はできないが――
「フレネ村は、余所者を嫌う傾向があり…また、何かあったとしても内々で済ませてしまうところがあるんですよ。その為、まったく情報が出てこないんです。今わかっているのは、目撃されているのが一体のなりそこないと被害者が6名…常駐している退魔士2名ではどうにもならない上に、フレネ村の危機感が希薄だという事くらいですかね」
セネトの疑問に答えたのはイアンではなく、うんざりしたように首をふるクリストフだ。
クリストフの話を聞いたセネトは、ひきつった笑みを浮かべる。
「うわぁ~…はじめの2点以外だめ情報過ぎだろう、それ――で、何でおれ達5人なんだ?」
はっきり言って、かなり面倒な案件であると気づいたセネトが呆れつつ首をかしげた。
同じ疑問を持ったらしいクレリアとミカサも、不思議そうに首をかしげている。
イアンとクリストフは困ったように顔を見合わせて、小さく息をついたイアンが口を開いた。
「詳しくはわからないが法術を使えるものを含めて5~6人、とフレネ村の村長が言ってきたらしい」
「なので"オラトリオ教団"のシスターでもあるミカサと、その相棒であるクレリア、一番暇そうなセネト…そして、僕とイアンで向かう事になったんですよ」
イアンの持つ依頼書を取ったクリストフはセネトへ向けて見せる、がその距離約30cmだ。
「さすがに見えねー…というか、書類の文字が小さい。その気遣いは、ありがたいけど――」
目をしかめながら、クリストフの見せる依頼書を読もうとしたセネトは言葉を続ける。
「それよりも、おれが
「それは見たまんまの意味だろう、セネト?」
灰皿を片手に煙草を吸うイアンは、まじめな面持ちでセネトを見た。
身動きできないセネトだが、怒りで椅子を前後に揺らしながら抗議する。
「ちょっと待て!おれのどこが――」
「…さて、出発しましょうか」
セネトの抗議をまるっと無視したクリストフは、ミカサの車椅子を反対側に向けてクレリアの縄を解いた。
そして、クレリアとミカサの2人を先に行くよう指示するとセネトの頭を強く押さえつける。
「一応、釘をさしておこうかと思うんですが…ね」
「う゛っ…何を…?」
声のトーンを低くしたクリストフに、セネトは冷や汗をかきながら動きを止めた。
そんなセネトの肩に、クリストフのものではない手がおかれる…――その手は、いつの間にかそばまで来たらしいイアンのものだ。
「絶対に暴走するな、フレネ村は一致団結が強固な上に余所者には懐疑的だ」
「だから、僕達が言いたい事はわかりますよね…セネト?」
クリストフとイアンの2人に耳打ちされたセネトは、ただならぬ気配に何度も頷く事しかできなかった。
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