3話:幼い邪悪[前編]

真っ暗な夜の闇に浮かぶ朧月――

冷えた風が吹き荒れる廃屋の、屋根の上に座っているひとつの小さな影が時折小さく鼻唄をうたいながら足をぶらぶらとさせている。
廃屋のある場所には生者や死者の姿はなく、ただ〈シウスの冬節〉の冷たい風だけが吹いていた。

「やぁ…こんな所で、何をやっているのかな?実は、昨日――」

屋根の上に座っている小さな影のそばに、ひと回り小さな影がいつの間にか現れ立っている。

「――とても良いワインを手に入れたんだ。よかったら、ぼくの屋敷で一緒にどう?」
「せっかくですが…すみません」

申し訳なさそうに、座っている影がゆっくりと首を横にふった。

薄ぼんやりとした月明かりが、2つの影を照らすと、濃い茶色の髪に琥珀色の瞳をした16歳くらいの少年と淡い黄緑色の長い髪をリボンで結って青い瞳をした7歳くらいの少年の2人であると確認できる。
小さくため息をついた7歳くらいの少年は、16歳くらいの少年のそばにしゃがむと声を訊ねた。

「…もしかして、まだ考えを変えていないんだね。君達は――」
「はい…もう、覚悟はできていますので。貴方には、本当に申し訳なく思いますが…」

そう答えると、月を見上げた16歳くらいの少年は哀しそうな表情を浮かべる。
もう何度も説得していた7歳くらいの少年は彼らの決意が変わらぬ事を知ると、諦めたように息をはいた。

「そっか…一応、協力はするけどね。君達の目的が成功する事を祈っているよ…だから――」

指を鳴らした7歳くらいの少年の背後に、2つの大きな影が現れる。
一人は青緑色の髪をした青年、もう一人は20代くらいの…身体を蔓で拘束されている女性で、彼女は身動きできぬまま恐怖に震えていた。
青緑色の髪をした青年は、女性の…そんな様子を気にせず、7歳くらいの少年の傍らに控えるようにして立つ。
そして、どこからか取りだした…ふたつのグラスを用意すると2人の少年それぞれに手渡した青年が、懐からナイフを1本取りだした。

それを見ながら、7歳くらいの少年はにっこり微笑んで言う。

「――今宵くらいは、ゆっくりしようよ…ね」

少年の言葉を合図に、青年が蔓で拘束されている女性を引き寄せてから彼女の左手首をとってナイフで深く切りつけた。
恐怖と痛みで顔を青くさせた彼女は気を失い、そのままぐったりとしてしまう。

2人の少年は手に持つグラスに流れでる血を注ぎ、互いのグラスを鳴らすとそれをゆっくりと飲み干していった。










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