2話:夢魔の刻印

ジスカからの依頼――夢魔に憑かれた幼い少女を救う為、エトレカの部下である双子の兄妹がゼネス村へ向かったのだそうだ。
本来ならば…夢魔を追い払うなり、倒すなりすればいいだけなのだが……
どういうわけか、双子の兄妹まで夢魔に捕らわれ…よりにもよって、ゼネス村に他の夢魔をたくさん呼び集めるという事態を引き起こした。


「――というわけで、見事に失敗した上にぐっすりと現在も眠っている。ジスカの手配で、ソーシアン兄妹はこの医院に運び込まれたが」

クリストフの説明が終わったところで、クロストが苦笑混じりに言う。

「ジスカから手紙で知らされたが、セリーヌから夢魔を引きずり出せたところまではよかったらしい。その後、仲良く夢魔の術に取り込まれたそうだが」
「そりゃ…エトレカのばあさんは怒るよな。しかし、何でおれが尻拭いをしないといけないんだよ…」

怒り心頭であろうエトレカの姿を思い浮かべたセネトは呆れながら呟いた。
丸椅子に腰かけていたキールが、とても嫌そうに囁く。

「お前はソーシアンの尻拭いが嫌なのかもしれないが、私はお前と組むのが嫌だな。今回、私は我慢するんだ…お前もしたらどうだ?」
「わかってるって…ところでさ、キール。何で、そんなにおれと組むのが嫌なんだよ?」

渋々頷いたセネトが、ずっと気になってた疑問を訊ねた。
腕を組んだキールはセネトをじと目で見ながら、口早にまくしたてはじめる。

「何が…第一に、お前が術を暴発させて被害を無駄に倍増させるだろう?だが、お前は絶対に反省をしない!そうなると色々と責任を取らされる上に、総帥と御三家の各当主による説教だ…お前に関わると、ろくな事にならない」


そもそも、キールはセネトが退魔士見習いをしていた時、試験監督官を努めていた事があった。
その時までは、何とも思っていなかったのだが――

とある平野での"眠れぬ死者"討伐で、現場周辺をセネトが魔法で吹っ飛ばしたのだ。
平野に大きな穴を開けた事で、関係各所に迷惑をかけてしまい…キールは責任を取らされてしまったわけである。
それがトラウマのようになった為、医院立てこもり・・・・・・・という手段にでたらしい。


そんな2人のやり取りを聞いていたクリストフは、笑いをこらえるように肩を揺らしている。

「だそうですよ…でも、これが原因なのかあなたと組みたがる者が出てこない」
「…それ、ネーメットのじいさんにも言われた。おれは、普通にやってるだけだって!」

むっとしたように、クリストフを見たセネトが反論した。
反省の『は』の字を見せていないセネトの様子に、クロストは咳払いをしつつキールに声をかける。

「セネトの感覚で普通だというのならば、皆が普通でない事になるだろう。まぁ…今回は大丈夫だと思うが、心配ならばクリストフを連れて行くか?キール…」
「はぁ?ちょ…ちょっと待ってください、ユースミルス卿――僕は無理ですよ!?」

クロストの突然の提案に、クリストフは素っ頓狂な声をだし慌てたように言った。
だが、当のクロストは笑いながらキールからクリストフの方へ視線を向ける。

「大丈夫だぞ?お前の仕事は他の者に任せればいいのだから、セネトはお前の部下だ。責任を取るのも、上司の務めだろう?」
「…息子の不始末は親であるあなたが、というのもありかと…?」

ひきつった笑みを浮かべたクリストフがクロストを恨みがましく見遣ると、クロストはさっと笑みを消して、セネトへ視線を戻した。
……どうやら、父親の方も説教コースは避けたかったようだ。

「こほん…まぁ、大丈夫だろうから――話を戻そう。ソーシアンの失敗によって夢魔が力をつけてしまったようで、な。それでセネト、お前に白羽の矢がたったんだ」
「白羽の矢がたった…というか、エトレカのばあさんが勝手に指名してきただけだろうが」

少々気分を害しているセネトは背を伸ばしてから、座っていた診察台から降りる。
そして、キールやクリストフ、クロストの順で指差すと怒鳴りつけた。

「嫌々だけど、あの双子の尻拭いをしてやるよ。エトレカのばあさんに借りを作っておくのもありだしな…そんでもって、お前ら幹部のおれへの評価を変えてやるからな!!」
「…それは、お前の頑張り次第だな。まぁ、意地になり過ぎて二次被害を起こさないようにしろよ」

意地の悪い笑みを浮かべたクロストは、意地になっている息子を見ながら優しく諭した。


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