2話:夢魔の刻印
医院の前に集まっていた人々を別の場所へ案内してきたらしいユースミルス親子が、ちょうど戻ってきたのに気づいたクリストフは声をかける。
「…とにかく、立てこもっている彼の説得が先ですね」
少しくたびれているセネトの父親の隣で、自分の事を棚に上げたセネトが医院を指差した。
「ったく…立てこもってるやつ、迷惑過ぎるぞ!」
「――自分の事は棚の奥に上げて…何を言ってるんだ、セネト?」
父親が呆れたように、息子のセネトを見ながら言う。
そして、セネトの父親に同意するようにクリストフも頷いた。
「まったくですね…そんな棚、壊れてしまえばいいのに……」
「…で、中に入るんだろ?」
父親とクリストフの視線に気づいたセネトは、気づかれぬように舌打ちをする。
ため息をついたクリストフは、セネトの言葉に頷いて医院の扉を開けた。
「まぁ、入らなければ…彼と話もできないわけですし、ね」
「…立てこもってる割には、簡単に開いたな。おれは、てっきり…鍵がかかっていたり、罠が仕掛けてあるのかと思ったぞ」
いとも簡単に開いた扉にセネトが驚いていると、呆れた父親は口を開く。
「…どこかの部屋で待ちかまえているんだろうな、おそらくは。それと、他の者も巻き込もうとしたのだろう……」
「彼は自分がセネトの目付役になる事はない、と思っていたのでしょうね。多分――それにしても、本当に必死だ」
どこか面白そうに笑っているクリストフに、むっとしたセネトは医院の中へ入った。
「どーいう意味だよ、それ……で、どこにいるんだよ?ついでに、誰が犯人なんだよ?」
「わかりませんか?ヒントは、僕の同僚 ですよ」
セネトに続いたクリストフは、足早にセネトを追い抜かして『診察室3』と書かれたプレートのかけられたら扉の前で立ち止まる。
クリストフのヒントを元にセネトは首をかしげて、クリストフの同僚について考えを巡らせた。
(…クリストフの同僚って事は、もちろん幹部だろ?幹部で医院にいる、って事は――)
『診察室3』と書かれた扉の前に来たセネトは答えがでぬまま、ドアノブに手をかけて隣に立つクリストフを見る。
ため息をついたクリストフは、セネトに開けるように促した。
静かな医院の中――クリストフのため息と、後から来ているセネトの父親の足音だけが響いているだけである……
小さく頷いたセネトがゆっくりと診察室の扉を開けると、その瞬間セネトとクリストフの間を銀色に輝く何か がかすめるように飛んできた。
一体何が飛んできたのだろうか、と不思議そうな表情を浮かべたセネトは背後に視線を向ける。
セネトの背後にある壁には、銀色に輝くメス が一本刺さっていたのだ。
嫌な汗が流れたセネトは、銀色に輝くそれ を見つめていた……
「…おい、まじかよ……」
そして、ゆっくりと診察室内へ視線をうつすと――そこには、何やら悔しそうな表情を浮かべた白衣の青年が一人椅子に座っている。
白衣の青年は舌打ちをすると、淡い青髪をかきながらゆっくりと立ち上がった。
唖然としているセネトをおいて、診察室へ入ったクリストフは何故か楽しそうに笑っている。
「少し驚きましたよ…しかし、よくセネトが扉を開けるとわかりましたね?」
「気配とカンだ…まぁ、開けたのがお前やクロストさんだったら少々まずかっただろうがな」
そう答えた白衣の青年は、扉のそばまでやって来ると廊下にいる人物に声をかけた。
「クロストさん、どうぞ」
「まったく…お前のカンとやらがはずれていたら、一体どうするつもりだったんだ?キール…」
促されたセネトの父親・クロストは、診察室に入ると白衣の青年・キールに訊ねる。
キールは苦笑すると、淡い青髪を少しかいた。
「その時はその時…そうなれば、私は忙しくなりますから――」
「なるほど…その時は、今回のセネトの相棒を他の者に任せるつもりだったか…だそうだぞ、クリストフ?」
何が言いたいのか理解したクロストが、笑いながらクリストフをちらりと見る。
その視線に気づいたクリストフは、キールとクロストを交互に見て首を横にふった。
「僕ですか?あいにく、先約があるので無理ですよ…大体、僕のところに多すぎるんですよ。セネトのような、問題あり過ぎ人間 が……」
「…いくら上司でも、その言い方ヒドくない?」
今まで黙って聞いていたセネトは、壁に刺さっていたメスを抜き取ると診察室に入る。
そして、それをキールに手渡してからある事を訊いてみた。
「それはそうと…何で、医院の外にここの連中が出ていたんだ?」
「あぁ、その事か。答えは簡単だ――クリストフから連絡がきた時に、どうするかを考えて実行しただけだ。ただ『少し重症化させてしまうか』と呟いただけだがな、そうしたらああなった」
受け取ったメスをアルミ製のケースにしまったキールに、セネトは口元をひきつらせる。
「…それだろ、みんなが逃げだした原因は」
遠い目をさせてセネトは診察台の上に座ると、言葉を続けた。
「――で、仕事って何だよ?親父からは『数ヶ月間眠っている』という、羨ましい状態だって聞いてるぞ」
「あぁ…そういえば、セネトだけ 伝え忘れていました。というか、何を羨ましがっているんですか?」
小さく欠伸しているセネトの頭をつついたクリストフは、ひとつ咳払いして続ける。
「今回はテセリアハイト王国の、ゼネス村へ行ってもらう事になります…で、セネトの臨時相棒にキールが就きます」
「…嫌だが、今回は諦めてセネトと組もう」
渋々といった様子でキールが深々と頷いているのを見たクロストは、やれやれと首を横にふると仕事内容の説明しはじめた。
「…そのゼネス村に住んでいるレイファーナ家からの依頼でな、そこの――」
「レイファーナって…もしかして、ジスカのじいさんの親戚か?」
キールを睨んでいたセネトが首をかしげて、クロストに訊ねる。
セネトの言う、ジスカ・レイファーナとは――数年前まで、退魔士協会に在籍していた人物だ。
身体を悪くした為、退魔士を引退して生まれ故郷に戻っていたようであった。
「その、ジスカの家だ…退魔士を辞めて"オラトリオ教団"の大神官を務めながら、亡き娘夫婦の忘れ形見ともいえる孫娘と2人で暮らしておるのだがな」
頷いたクロストが友人でもあるジスカの近況を語ると、セネトは納得したように何度か頷く。
「ふーん…ジスカのじいさん、大神官になったのか。おれに文句を言いに来たやつは…確か、大司祭だったよな。ジスカのじいさんも、まだまだだな…」
「セネト…文句ではなく、イールトアス大司祭はあなたを説教しに来たんです。アルノタウムの墓地ひとつを破壊したのだから、怒られて当然なんですよ」
呆れたようにクリストフは、セネトの言葉を訂正した。
ため息をついたキールがちらりとセネトに目を向けながら、聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で呟く。
「おかげで私達幹部も、全員集められてイールトアス大司祭の説教だ。本当に、久しぶりの――数時間たっぷりの説教だったな」
「まだキールはいいですよ、僕は別室でたっぷり嫌味を聞かされたんですよ。最後…泣いてましたよ、レムエルは」
落ち込んでいるキールとクリストフに、セネトはもはや笑うしかなかった。
考えた末、何とかこの場を誤魔化そうとセネトは話を戻すよう促す。
「は、はは…そろそろ、仕事の話に戻そうぜ。な、クリストフ…」
「…まぁ、そうですね。それで――そうそう、ジスカ殿の孫娘であるセリーヌがどうやら夢魔の視せる夢に捕らえられたそうなんですよ。それを、エトレカ殿のところにいるソーシアン兄妹が受けたのですが――」
ため息をついたクリストフは、何があったのかを簡潔に説明しはじめた。
_
「…とにかく、立てこもっている彼の説得が先ですね」
少しくたびれているセネトの父親の隣で、自分の事を棚に上げたセネトが医院を指差した。
「ったく…立てこもってるやつ、迷惑過ぎるぞ!」
「――自分の事は棚の奥に上げて…何を言ってるんだ、セネト?」
父親が呆れたように、息子のセネトを見ながら言う。
そして、セネトの父親に同意するようにクリストフも頷いた。
「まったくですね…そんな棚、壊れてしまえばいいのに……」
「…で、中に入るんだろ?」
父親とクリストフの視線に気づいたセネトは、気づかれぬように舌打ちをする。
ため息をついたクリストフは、セネトの言葉に頷いて医院の扉を開けた。
「まぁ、入らなければ…彼と話もできないわけですし、ね」
「…立てこもってる割には、簡単に開いたな。おれは、てっきり…鍵がかかっていたり、罠が仕掛けてあるのかと思ったぞ」
いとも簡単に開いた扉にセネトが驚いていると、呆れた父親は口を開く。
「…どこかの部屋で待ちかまえているんだろうな、おそらくは。それと、他の者も巻き込もうとしたのだろう……」
「彼は自分がセネトの目付役になる事はない、と思っていたのでしょうね。多分――それにしても、本当に必死だ」
どこか面白そうに笑っているクリストフに、むっとしたセネトは医院の中へ入った。
「どーいう意味だよ、それ……で、どこにいるんだよ?ついでに、誰が犯人なんだよ?」
「わかりませんか?ヒントは、僕の
セネトに続いたクリストフは、足早にセネトを追い抜かして『診察室3』と書かれたプレートのかけられたら扉の前で立ち止まる。
クリストフのヒントを元にセネトは首をかしげて、クリストフの同僚について考えを巡らせた。
(…クリストフの同僚って事は、もちろん幹部だろ?幹部で医院にいる、って事は――)
『診察室3』と書かれた扉の前に来たセネトは答えがでぬまま、ドアノブに手をかけて隣に立つクリストフを見る。
ため息をついたクリストフは、セネトに開けるように促した。
静かな医院の中――クリストフのため息と、後から来ているセネトの父親の足音だけが響いているだけである……
小さく頷いたセネトがゆっくりと診察室の扉を開けると、その瞬間セネトとクリストフの間を銀色に輝く
一体何が飛んできたのだろうか、と不思議そうな表情を浮かべたセネトは背後に視線を向ける。
セネトの背後にある壁には、銀色に輝く
嫌な汗が流れたセネトは、銀色に輝く
「…おい、まじかよ……」
そして、ゆっくりと診察室内へ視線をうつすと――そこには、何やら悔しそうな表情を浮かべた白衣の青年が一人椅子に座っている。
白衣の青年は舌打ちをすると、淡い青髪をかきながらゆっくりと立ち上がった。
唖然としているセネトをおいて、診察室へ入ったクリストフは何故か楽しそうに笑っている。
「少し驚きましたよ…しかし、よくセネトが扉を開けるとわかりましたね?」
「気配とカンだ…まぁ、開けたのがお前やクロストさんだったら少々まずかっただろうがな」
そう答えた白衣の青年は、扉のそばまでやって来ると廊下にいる人物に声をかけた。
「クロストさん、どうぞ」
「まったく…お前のカンとやらがはずれていたら、一体どうするつもりだったんだ?キール…」
促されたセネトの父親・クロストは、診察室に入ると白衣の青年・キールに訊ねる。
キールは苦笑すると、淡い青髪を少しかいた。
「その時はその時…そうなれば、私は忙しくなりますから――」
「なるほど…その時は、今回のセネトの相棒を他の者に任せるつもりだったか…だそうだぞ、クリストフ?」
何が言いたいのか理解したクロストが、笑いながらクリストフをちらりと見る。
その視線に気づいたクリストフは、キールとクロストを交互に見て首を横にふった。
「僕ですか?あいにく、先約があるので無理ですよ…大体、僕のところに多すぎるんですよ。セネトのような、
「…いくら上司でも、その言い方ヒドくない?」
今まで黙って聞いていたセネトは、壁に刺さっていたメスを抜き取ると診察室に入る。
そして、それをキールに手渡してからある事を訊いてみた。
「それはそうと…何で、医院の外にここの連中が出ていたんだ?」
「あぁ、その事か。答えは簡単だ――クリストフから連絡がきた時に、どうするかを考えて実行しただけだ。ただ『少し重症化させてしまうか』と呟いただけだがな、そうしたらああなった」
受け取ったメスをアルミ製のケースにしまったキールに、セネトは口元をひきつらせる。
「…それだろ、みんなが逃げだした原因は」
遠い目をさせてセネトは診察台の上に座ると、言葉を続けた。
「――で、仕事って何だよ?親父からは『数ヶ月間眠っている』という、羨ましい状態だって聞いてるぞ」
「あぁ…そういえば、セネト
小さく欠伸しているセネトの頭をつついたクリストフは、ひとつ咳払いして続ける。
「今回はテセリアハイト王国の、ゼネス村へ行ってもらう事になります…で、セネトの臨時相棒にキールが就きます」
「…嫌だが、今回は諦めてセネトと組もう」
渋々といった様子でキールが深々と頷いているのを見たクロストは、やれやれと首を横にふると仕事内容の説明しはじめた。
「…そのゼネス村に住んでいるレイファーナ家からの依頼でな、そこの――」
「レイファーナって…もしかして、ジスカのじいさんの親戚か?」
キールを睨んでいたセネトが首をかしげて、クロストに訊ねる。
セネトの言う、ジスカ・レイファーナとは――数年前まで、退魔士協会に在籍していた人物だ。
身体を悪くした為、退魔士を引退して生まれ故郷に戻っていたようであった。
「その、ジスカの家だ…退魔士を辞めて"オラトリオ教団"の大神官を務めながら、亡き娘夫婦の忘れ形見ともいえる孫娘と2人で暮らしておるのだがな」
頷いたクロストが友人でもあるジスカの近況を語ると、セネトは納得したように何度か頷く。
「ふーん…ジスカのじいさん、大神官になったのか。おれに文句を言いに来たやつは…確か、大司祭だったよな。ジスカのじいさんも、まだまだだな…」
「セネト…文句ではなく、イールトアス大司祭はあなたを説教しに来たんです。アルノタウムの墓地ひとつを破壊したのだから、怒られて当然なんですよ」
呆れたようにクリストフは、セネトの言葉を訂正した。
ため息をついたキールがちらりとセネトに目を向けながら、聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で呟く。
「おかげで私達幹部も、全員集められてイールトアス大司祭の説教だ。本当に、久しぶりの――数時間たっぷりの説教だったな」
「まだキールはいいですよ、僕は別室でたっぷり嫌味を聞かされたんですよ。最後…泣いてましたよ、レムエルは」
落ち込んでいるキールとクリストフに、セネトはもはや笑うしかなかった。
考えた末、何とかこの場を誤魔化そうとセネトは話を戻すよう促す。
「は、はは…そろそろ、仕事の話に戻そうぜ。な、クリストフ…」
「…まぁ、そうですね。それで――そうそう、ジスカ殿の孫娘であるセリーヌがどうやら夢魔の視せる夢に捕らえられたそうなんですよ。それを、エトレカ殿のところにいるソーシアン兄妹が受けたのですが――」
ため息をついたクリストフは、何があったのかを簡潔に説明しはじめた。
_