1話:嘆きの墓標

「というか…お前ら、まだいたのか?せっかく、時間を稼いでやったのにな――それよりも、今さら気づいたのには驚いたぜ」
「っ…何故?きみの連れてきたあいつ・・・が言っていた――蘇生魔法の話は嘘だったのか?」

怒りを抑えつつ訊ねるハミルトに、ルドルフは意地の悪い笑みを浮かべて挑発めいたように答える。

「ん?あぁ…そんな話もしたっけか。ま、でも…生き返らせてやっただろ?」

ルドルフの言葉で何か気づいたグラハムは、ハミルトの影に隠れながらルドルフを見た。

「そんな…あんな風にしてほしいなんて、言ってないよ――頼んでないよ」

再び鼻で笑ったルドルフはグラハムの言葉を無視すると、ネーメットの持つ剣へ視線を向けて面白いものを見つけたような笑みを浮かべる。

「…どっかで見た事があると思ったぜ、それ・・

ネーメットは眉をぴくりと動かしたが何も答えず、静かにルドルフを見ていた。
一瞬、何の話かわからなかったセネトだったがすぐに何を指しているのか理解する。

「お前…まさか、数ヶ月前のユーゼンヴェルトでの件に――」



ネーメットが持っている剣――それは、数ヶ月にユーゼンヴェルトで命を落としたネーメットの孫の形見の品であった……

それを知るセネトは、ルドルフを睨みつけて言葉を続けた。

「…その他もろもろの、退魔士を襲撃しまくってるのもお前か!」
「――ワシの持つ剣を知っておるという事は、そういう事じゃろう。お前さん…何故、ハウエル達を殺したんじゃ?」

ネーメットが柄を強く握りしめたのを見たルドルフは、さらに愉快そうな笑みを浮かべる。
そして、いじっていたナイフを大きく投げ上げて答えた。

「…それは、お前ら自身わかってんじゃねーの?しっかし、どおりで似てると思った――まぁ、オレは見てただけだがな。その太刀捌きでわかったぜ…」
「それはそうじゃろう、ハウエルにはワシが教えたのじゃからな…」

できるだけ怒りを抑えながら言ったネーメットは、きつく唇を噛みしめる。
怒りを抑えたセネトが、笑っているルドルフを指差した。

「…お前は見てただけ、だと言ったな。他に…誰がいたんだ?」
「教えるわけねーだろ、普通。つーか、お前…血が濃いんだな、あいつ・・・の。ったく…こんなところで、この血の気配に会うとはな…」

嫌そうな表情を一瞬浮かべたルドルフであったが、すぐに先ほどまでの意地の悪い笑みに戻す。
それに気づいたセネトは、少し不機嫌そうに返した。

「…それはどーも」

用意した術式に魔力を込めてセネトが、ルドルフに向けて風の刃を放つ。
ため息をついたルドルフは、ナイフを軽く投げ上げると面倒そうに言った。

「はぁ…ったく、あいつ・・・に似て――本当にめんどくせーな」

軽く投げ上げたナイフを受け取ったルドルフはゆっくりとセネト達のいる方向へ向かう、と同時にその姿が見えなくなる。

「…消えた?一体、どこに」

周囲を警戒し、その気配を探るセネトだったが…それでも、ルドルフの姿や気配を確認できない。

(…負の気配が濃すぎて、あいつを見つけられない…どこだ?)

きょろきょろしているセネトの近くで、嘲りを含んだ声が聞こえてきた。

「よそ見してるヒマはねーぞ」

その言葉と共に、姿を現したルドルフがナイフでネーメットに切りかかる。
ネーメットはナイフを剣で受け止めるとそのまま押し返し、一瞬の隙をついて相手の胴に斬り込んだ。
だが、軽くかわしたルドルフは笑いながらまた姿を消してしまった。

再び術式を描いたセネトは、ルドルフの次に現れるであろう場所を探るが見つけられず。

「お前…どこ探してんだ?」

ルドルフが笑いながら、セネトの背後から声をかけてきた。
振り返ると同時にセネトは術式に魔力を込め、再び風の刃を放ちながら護身用に持っていたナイフで切りつける。
しかし、そのすべてを紙一重でかわしたルドルフがセネトの右腕をナイフで切り裂いた。

腕の痛みに顔をしかめながらながら傷口をおさえたセネトは、間合いをとろうとルドルフの胴辺りを蹴る…が、微かに当たった程度でルドルフは一歩後ろへ飛び退く。
そして、ナイフについたセネトの血を舐めて愉快げに笑った。

「…もう少し遊んでやりてーところだが、オレも他にやる事があるんでな――あぁ、そうだ」

何か思いだしたように、ルドルフがハミルトとグラハムの方へと視線を向ける。

「そこにいる【氷術士コキュートス・マスター】は…とりあえず、用済みだしな」

ルドルフはそう言うや、2人に向けて一本のナイフを投げた。
その言葉の意味に気づいたハミルトが術式を描き、魔力を込めて発動させた防御魔法でナイフを弾いた…しかし、ルドルフは口元に意地の悪い笑みを浮かべたままである。

ルドルフの、その笑みを見て相手の目的が何か理解したハミルトは舌打ちして振り返る。
そこには、いつの間に投げられたものなのか…もう一本ナイフが壁に当たり、方向を変えて真っ直ぐハミルトに向かって飛んできていた。
急いで防御魔法の術式を描きだそうとしたハミルトだったが、ナイフの飛んでくるスピードは速く――間に合わない。

覚悟を決めたように目を閉じたハミルトを、そばにいたグラハムが普段では考えられないような力で押し退けた。

「っ…グラハム!?」

倒れ込んだハミルトはすぐに起き上がると、自分を守ろうとしてくれたグラハムに目を向ける。

先ほどまでハミルトのいた位置にグラハムはいるのだが、彼の胸に深々とルドルフのナイフが突き刺さっており傷口からは血が流れでている。
床を少しずつ赤く染めながら、グラハムの身体はゆっくりとハミルトの方へ倒れ込んだ。

彼の身体を慌てて抱き止めたハミルトは、グラハムの頬をはたく。

「グラハム…大丈夫かい?」

しかし、まったく反応しないグラハムの様子にセネトはルドルフを睨みつけて怒りを込めた口調で言った。

「お前…利用するだけしておいて、何してやがる!こいつらは、ただ大切なものを取り戻そうとしていただけだろうが!」
「…んな事、知らねーよ。大体、オレが話を持ってきたワケじゃねーし――」

面倒そうに舌打ちしたルドルフが自分の赤髪を弄っているのを見たセネトは、ネーメットを指すと言い放つ。

「そういう言い訳は、後で言えよ…このネーメットのじいさんをはじめとする、ヒマな・・・幹部の連中が聞いてくれるぜ!」
ヒマな・・・…は、いらん。大体、何時いつワシらが暇になったというのか…」

むしろ忙しくなっている…と、ネーメットは呆れて呟いたのだった――


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