1話:嘆きの墓標

「――倒すには、相手の弱点をつくのが一番だよな。で、何かないのか?」

グラハムとハミルトの肩に腕をまわしたセネトを横目に、ネーメットが呆れたようにため息をついた。

「ワシがその間、時間を稼ぐので早くするんじゃぞ…」

それだけを言うと、ネーメットは立ち上がろうとしているカトリの気を引く為に動く。

セネトは視線だけでネーメットを見送ると、グラハムとハミルトに戻した。
グラハムが腕を組みながら首をかしげ、ハミルトは何か考え込みながら独り言のように呟く。

「…うーん?」
「…カトリの弱点、ね」

しばし悩んだらしい2人は何も思い当たらなかったのか、ゆっくりと首を横にふった。
その答えにセネトは2人の肩を支えにうなだれたが、何かを思いついたように顔を上げる。

「…そういえば、カトリって言ったっけ?彼女も…魔術士?」
「ん?ああ…まだ"見習い"だったけどね」

ハミルトが頷いて答えると、セネトは戦っているネーメットとカトリの方に視線を向けた。

「なるほどね…魔力は弱いようだけど、魔術士っぽい気配がすると思った。で、カトリの師から聞いた事もないのか?」
「ぁ…それなら、聞いてみたら?カトリの師は、ハミルトだもん…」

そう言ったグラハムの頭を思わず叩いたセネトは、苦笑しているハミルトを見る。

「そうかー…って、それを早く言え!――で、何か思い当たらないのか?」
「えー…そうだね。あぁ…そういえば、虫が出た時――苦手だと言っていたな…」

セネトの問いに答えたハミルトに、セネトは頭をかいてからハミルトの首を軽く絞めた。

「…おい。ここに虫を集めている間に、ネーメットのじいさんがやられてしまうだろうが」
「そ、そう言われても…ね。彼女と過ごせたのは…たった一年だったんだ」

少し苦しそうなハミルトが視線をグラハムへ向けると、グラハムも「そうだ」と言うように何度も頷いている。

そんなやりとりを見ていたらしいネーメットが、恨めしいオーラをだしながらセネトへ声をかけた。

「…いい加減、手伝おうと思わぬか?いくらワシでも、限度があるわ…」
「あー…ごめん、ネーメットのじいさん。少しだけ…忘れてたぜ」

カトリの攻撃を防いでいるネーメットの姿に、セネトが笑いながら謝罪する。
大きくため息をついたネーメットは、大きく斬り込んで笑っているセネトを睨んだ。

「そうじゃろうと、思っておったわ!で、何か策は思いついたのか?」
「…いや~、それが――こいつらが、思った以上に使えなくてさ…」

腕を組んだセネトが、少しむっとした様子のハミルトとグラハムを見遣る。
…しばらくして、ため息をついたハミルトは顎に手を当てて答えた。

「使えなくて悪かったね。そういえば…昔、私の師から聞いた事がある。『死霊術』には2つのタイプがある、と――」
「確か『魔力によって操る方法』と『魔力を込めた核、または魔道具を使用する方法』じゃったよのぅ…」

自らの持つ剣に術式を描き、『光』属性を付与させてからハミルトの話にネーメットは頷く。
ネーメットの言葉に、セネトは首をかしげると呟いた。

「へー、なるほど…死者を使役する方法って2つもあるのか」
「上にいた死者達は、私とグラハムに話を持ちかけてきた奴らが作ったもの…そして、ここで私が使ったのは――」

ハミルトがポケットから出したのは、小さな白く丸い石がついたペンダントだった。
それをセネトへ向けて放り投げ、受け取ったセネトが興味深げに観察する。

「なるほど…これがあれば、おれでも簡単に死霊術が使えるわけだな」

セネトがペンダントに魔力を込めると、白い石は黒く光り輝いた。
何やら嬉しそうなセネトの肩に手を置いたハミルトは、少し言いにくそうにネーメットの方を指差す。

「そうだけど…ところで、それに魔力を込めない方がいいと思うけど?」

首をかしげたセネトがハミルトの指す方向を見てみると、そこには何故か力をつけたらしいカトリに押され気味なネーメットの姿があった。

試しに、セネトがペンダントに込めていた魔力を止めてみる…と、カトリの勢いが元に戻る。

「ほー…面白いな、これ…」

納得したように何度か頷いたセネトがもう一度ペンダントに魔力を込めようとした瞬間、ネーメットの低い声が聞こえてきた。

「もう一度やってもよいが…その時はお前さんも覚悟をしておくのじゃぞ、セネト」
「…いや、さっきのは事故だから。悪気はないんだぜ…たまたま偶然で」

かなり怒っているネーメットに睨まれ、セネトは口元をひきつらせながらゆっくりとペンダントを床に置く。

「――そうかのぅ。まぁ、その話は後日ゆっくりとするかのぅ…セネト。なぁーに…心配するな、お前さんの上司も一緒じゃぞ」

セネトの必死の言い訳を無視したネーメットは、視線だけをセネトへ向けながらカトリへと戦っていた。

「………安心できないだろう、あいつと一緒だと。余計にさ…」

逃げられない状況に、セネトは愚痴るように呟いて大きくため息をついたのだった……


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