1話:嘆きの墓標

「っ…てて。おい、大丈夫か…?」

起き上がったセネトが、そばで気を失い倒れているハミルトに声をかける。
意識を取り戻したハミルトは、頭をおさえながら起き上がると小さく頷いた。

「ああ…大丈夫だよ。ありがとう…ところで、カトリは?」
「カトリ…?えーっと、お前の恋人か…もしかして、外へ行こうとしているのか?」

外へ向かおうとしているカトリの後ろ姿を指しながら、セネトは疑問を口にする。
セネトの言葉に、ハミルトは慌てたように立ち上がるとカトリへ向けて術式を描いた。

「まずい…彼女を外に出しては――すまないけど、あの奥の部屋にいる私の友人を…呼んできてくれないかい?」
「はぁ…?何で…というか、そいつが犯人じゃないのか…彼女に死霊術をかけた」

どう考えても犯人だろう、と思いながらセネトは部屋の奥を指したハミルトに言う。
だが、ハミルトは首を横にふるとセネトを見た。

「会えばわかると思うけど…あいつは、そんな事ができるやつではないんだ。いろいろな意味・・・・・・・でね…」

セネトにそれだけを言ったハミルトはカトリの方に向き直ると、術式に魔力を込めて左腕をふる。

「…見えぬ氷よ、冬の息吹きにより壁となれ!」

詠唱を終えたハミルトの声に呼応した術式から冷気を含んだ風が吹き荒れ、一瞬にして出入口を氷の壁で塞いでしまった。
歩みを止めたカトリはゆっくりと振り返り、虚ろな表情のままハミルトに視線を向ける。

「さて…ワシも手伝うとするかのぅ。セネト…お前さんは、ハミルトあやつの言う『友人』とやらを呼んでこい」

カトリの様子を見ていたネーメットは剣を構えると、セネトに手振りで行くよう促した。
扱いに多少不満を持ったセネトであるが、頭の後ろで手を組むと部屋の奥へと向かう。

「…ったく、おれは犬かよ。ヘイヘイ、探しに行ってきますよーだ…ここに、誰がいるっていうんだ。一体…ん?」

部屋の奥――そこには木製の扉があり、セネトは恐る恐るドアノブを回してみた。
だが、何度ドアノブを回しても開かない…おそらく、内側から鍵をかけているのだろう。
木製の扉に手をあてたセネトは、術式を描きだすと言った。

「仕方ない…面倒だから、ぶっ壊すか。この扉を――砕けろ!」

術式に魔力を込めてセネトが詠唱すると、ものすごい音をたてて扉は吹っ飛んでいく。
それを満足げに頷いているセネトに、ネーメットとハミルトは呆れた様子で口を開いた。

「…あれもある意味、才能なんじゃないかな」
「あんな才能なぞ、迷惑なだけじゃぞ。ない方が…皆が幸せになれる。あやつは、こちらがフォローする大変さを知らぬのじゃ…」

遠い目をしながら呟いたネーメットに、ハミルトは同情する。

「確かに…フォローする方が大変そうだね。でも、彼のような強い魔力を持つ者はそうそういない――基礎さえしっかりしていれば、の話だけど」
「あやつの実力は…百歩譲って認めてやっても良いが、あやつのような術者がたくさんおったら…おそらく今頃、世界が終わっておるわ」

セネトのような術者がたくさん…思わず想像してしまったネーメットとハミルトは、大きくため息をついて苦笑した。
そんな想像をされているとは露程も思っていないセネトが破壊した扉の前に立つと、砂埃のたちこめている部屋内部を窺う。

「ごほっ…無事に開いた事だし、っと」

室内は薄暗くてよく見えないが、目を凝らすと、ベッドがひとつだけ置かれているのはわかった。

「ふーん…ここは、寝室って事か。少し硬そうだけど…疲れたし、少し休憩してもいいかな」

ベッドに近づいて倒れ込むように横になったセネトは、部屋の隅で何かが動いている気配に気づく。

(…何だ、今の音は…どこだ?)

周囲を窺ってみるが、その正体を確認する事ができず…セネトは首をかしげて、目を閉じると気配をもう一度探った。
しかし、気配はなく…気のせいだろうと考えていると、また何かが動いている気配がする。

目を開けたセネトは、上半身を起こして気配のする所をまじまじと見つめ人影を発見した。
気になって、その人影に向けて声をかける。

「おい…誰だ、そこにいるのは?」

だが、返事もなく…人影はまったく動かなかった。
ため息をついたセネトがベッドに置いてある枕をその人物に向けて投げつけると、それは見事に命中したので確実に存在はしている。

「いたっ…ぁ」

その人影は枕を慌てたように拾うと、大切なもののように抱きしめた。
ベッドから立ったセネトはその人影に近づいてみると、そこにいたのは黄色の髪をした青年でぷるぷると震えているようだ。

「もしかして…お前か?ハミルトの友人って――」
「…うん、ハミルトが言っていたかどうかは知らないけど…ハミルトはどうしたの?」

セネトの言葉に頷いて答えた青年は、まだ怯えた様子で訊ねた。

「今、ちょっとな~…色々あって、ネーメットのじいさんと一緒にカトリって子と戦ってるぞ」

部屋の外を指したセネトが簡潔に状況の説明をすると、青年は驚いた表情を浮かべる。
そして、突然立ち上がるとセネトの両肩を掴んでまくしたてるように言った。

「カ、カトリが…!?何で…ぁ、もしかして生き返ったの?あれ…でも、何で戦ってるんだろう?…痴話喧嘩、とかかな…仲良かったし」
「だー!!うるさい…とりあえず、お前は落ち着け!そして、おれの肩から手を放せー!」

青年の頭を力一杯はたきながらセネトが叫ぶと、肩から手を放した青年は涙目になりながら頭を抱えて座り込む。

「うぅ…痛いよ…」
「…で、落ち着いたか?」

セネトも疲れたように、ゆっくり座り込んで声をかけた。
小さく頷いた青年は再び枕を抱きしめているが、どうやら震えも止まり落ち着いたようだ。

セネトがゆっくりと青年に手を差しだすと、青年もおずおずと手を握り返す。

「えっと、まずは…お前の名前は?あぁ…おれは、セネト。セネト・ユースミルス…」
「僕は…グラハム。グラハム・ユージン――ところで、今何が起こっているの?」

お互いに名乗り合ったセネトと青年・グラハムは外の様子を窺いながら、再び状況について話はじめた。

「まぁ…話すと長いから、掻い摘んで言うとだな――誰かが、あのカトリって子に死霊術を使ったせいで今こんな状況だ」
「なんか、僕の知らない間に大変な事に…って、あれ?」

首をかしげたグラハムは、ある事に気づく……
セネトが疑いの眼差しをグラハム自分に向けている、という事に――

「えっ…もしかして、僕が疑われてる…の?」
「あぁ、今のところ…第一容疑者はお前だな」

グラハムを指差したセネトが半分は消去法、もう半分は根拠もないというのに自信ありげに言った。

その瞬間、グラハムは目に涙をためて持っている枕に顔をうずめる。

「うぅ…違うのに――って、カトリに死霊術が!?」

そう言って顔を上げたグラハムは、青ざめながら聞き返した。
グラハムの鈍さに驚いたセネトだが、グラハムを観察してすぐに気づく。

(遅っ…それよりも、こいつ…全然と言っていい程、魔力を感じないぞ――だから、魔力の気配がハミルトのしか感じなかったのか?)

どんな生物でもある程度の魔力は備わっているものなのだが、目の前にいるグラハムからはほとんど感じ取れなかったのだ。

一人納得したように頷いたセネトの肩を、グラハムがものすごい力で揺さぶってきた。

「探して…あいつらを!あいつらの言葉を信じたのに…まさか、カトリに死霊術を――お願いだから」
「え、あ…あぁ、わかった…わかったから、その手を放せー!」

怒ったセネトは、グラハムの頭を再びはたく事となったのだった――



_

7/15ページ
いいね